不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

41 墜落2 【side アレクセイ】

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彼女の身を整えた後、名残惜しいと思いながら転移で自室に戻った。

湯を使う時間も惜しかったので、手早く魔法で体を清めて身支度を整える。普段ならばこんな朝早くに人と会うことはないが、内密に会いたいと会う要望を受け入れ、あえて人が少ない時間帯に城へ呼び出した。

相手は、アナスタシア嬢の父である大神官ノルドだ。

面会場所として指定したのはルーの私室で、かつてノルド本人が目覚めない娘の救済を依頼した場所でもある。朝が弱いルーは、紅い眼をこすって眠そうにしていたがしかたがない。他の人間は人払いをしてあるので番犬の役割を果たしてもらわなくては。

風が、外から湿った空気の気配を運んできた。こんな茶番は雨が降る前に終わらせたいものだ。



「失礼します。」

部屋に入ってきた男は、薄暗い部屋のなかでもわかるくらい血の気がない顔をしていた。今まで引きこもっていたせいか、悪趣味な装飾品で身を飾ってはいるものの表情は暗い。痩せたぶん、前回の謁見時より随分老け込んで見えた。

部屋の奥にある机を挟んで相対する。

「しばらくぶりだね、ノルド。臥せっていると聞いていたが大丈夫だったかい?」

作り笑顔でしらじらしく声をかけると、ノルドは形ばかりの礼をして顔を上げた。

「陛下、本日伺ったのは他でもない、娘に会わせていただきたいのです。この王宮魔術師に預けてから10日以上。せめて話をさせてもらいたい。」

そういうと、ぎろりとルーを睨みつけた。娘を王に売った張本人とでも思っているのかもしれない。口出しをしないよう事前に言い含めてあるので、ルーは反論せずに面倒そうな顔で相手を一瞥しただけだった。

その様子を見て、私はトン、と机を指で叩き、さりげなく不快感を伝える。

「なんだ、用件はそんなこと?アナスタシアは私の側妃として後宮に入れたから、外には出さないよ。君が内密に進めていたイヴァンとの縁談は代わりに断っておいたから。」

それを聞いたノルドは青ざめながらも怒りをぶつけた。

「側妃ですと?公国へは正妃として嫁ぐ予定でした。なぜ陛下はアナスタシアを正妃としてお迎えいただけないのですか?!」

「ああ、君の娘は本当に美しいから。」

ノルドの目をじっと見て、婉然と笑う。

「彼女は愛玩用にしようと思って。だから外向きの正妃は別に必要だろう?」

「なっ、、、。とにかく娘との面会を、」と相手が言いかけたところで強引に言葉を遮り、ぴしゃりと言い放つ。

「残念だけど、彼女は父親には会いたくないと言っている。何でも望まない結婚を強いられた挙句、隣国でとても恐ろしい目にあったとか。」

ノルドの言葉が止まった。そうだろう、まさか禁じられた異世界召喚をすると知りながら娘を送り出したなんて言えるわけがない。

やりとりをしている間、約束通りルーは一言も口を出さなかった。ただつまらなそうに彼の振舞いを見ていた。

「側妃に迎えるのは決定事項だ。正妃と違って手続きもお披露目も不要、もちろん神殿の許可もいらないからね。ノルドは私の父を覚えている?同じように飽きたら返してあげるから。それまでは会えないと思っていて。」

今度こそ彼の顔は蒼白になり、かたかたと震えた。父に気まぐれに召され、嬲り尽くされた側妃たちの末路を憶えているのだろう。

「心配しないで。私好みに美しく着飾って、存分に楽しませてもらうよ。」

邪気のない笑顔を作り、わざと意地悪く言ってやる。「う・・」と、彼は言葉を呑み込んだ。

「・・・・・・・何卒、娘にお慈悲を。」

絞り出すようにそれだけ言うと、大神官はうなだれて部屋を出た。



ドアが閉まる音がしてから、ルーが大きく伸びをした。机の上に浅く腰掛ける。

「あの様子だと、アレクに歯向かってまで娘を連れ帰る気はなさそうだね。」

満足そうに頷くルーの言葉に、肩を竦めた。

「さすがに自分の身の安全が第一だろうさ。だいたい率先して父に若い女性を献上してご機嫌取りをしていたのに、いざ自分の娘だと躊躇するなんて自分勝手すぎる。」

子供の時から、媚薬漬けで正気を失った女性や、思い付きで複数の男に犯された女性なんかをさんざん見てきた。それだけにノルドの態度には怒りを覚える。彼女たちの親も、きっと権力の下に娘を奪われて理不尽な思いを味わったはずだ。因果応報としか言いようがない。

「大神官が率先して女衒まがいのことしてたなんて、世も末だね。まあこれでシアの身の自由は確保されたし、いいかあ。ねー、会いに行っていいでしょう?」

首を傾け無邪気に尋ねるルーに、苦笑しつつ答える。

「いいけど魔法で眠らせてあるから、しばらくは起きないと思うよ。」

「全然おっけー。じっくり寝顔を堪能するから大丈夫。あーあ、あの男、もっと罪を責めればよかったのに。」

「あまり関係を悪化させすぎるのも得策ではないだろう。なんといってもまでは、側妃の父という立場だ。」

私の言葉に、ルーが眉をしかめた。

「うわ、やだなあ。どうせろくでもないことを考えているんだと思うけど。シアに悲しい思いはさせないでよね。」

「大丈夫だよ。・・・たぶん。」

視線を逸らせて、私は曖昧に笑った。
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