42 / 133
本編
42 墜落3 【side アレクセイ】
しおりを挟む
午前中にたまっていた仕事を片付けてから(ちゃんと仕事はしている、王様だからね)、午後は、王都に滞在してすっかり羽を伸ばしているゴドノフ卿の元へ足を運ぶことにする。
彼は私が妃を娶ると勘違いしてわざわざ祝いにやってきたわけだが、奇しくも事実になってしまったわけだ。
先んじて用件は手紙で送ってあるので、今回の訪問はご機嫌伺いを兼ねた駄目押しといったところか。急な思い付きだったが、彼が遠方の領地に戻る前に手が打てて幸運だった。
イヴァンから巻き上げたキリル名産のワインを手みやげに持つ。その土地でしかとれない貴腐ブドウを使ったもので、濃厚な甘みと馥郁とした香りが酒好きだけでなく女性にも人気がある品だ。生産量が少なく国外の市場にはなかなか出回らないので喜ぶだろう。
今日はセイを連れているので転移ではなく、キャリッジと呼ばれる2頭立ての馬車を手配させた。黒地に金で王家の紋章があしらわれているほかは余計な装飾がなく、比較的地味なものだ。待機していた御者に行先を告げて乗り込んだ。
馬車内は、きわめて静かだった。
常であればその日の予定や確認事項などについて言葉を交わすの、だが、
(・・・・・・目線が合わない)
向かいに座る相手を見ると、ふいと窓の外に視線を向けられた。さりげなさを装ったつもりだろうが、わざとらしいこと、この上ない。
そもそも今朝からセイの様子は普通じゃなかった。朝から必要最小限のことは口にするものの、それ以外はほとんど喋らない。馬車内に2人ということはよくあるが、ここまで気まずい空気になるのはそうそうない。冷静さを装ってはいるが、昨夜のことを気にしているのは明白だった。
この男がここまで私情を表に出すのは珍しいと思いつつ、どう対処すればいいのかわからない。
カタカタという車輪の音だけが響く。
息苦しさのあまり、つい余計なことを口にしてしまった。
「えーっと、昨晩は非常に満足したよ。アナスタシア嬢は初めてとは思えないくらい感じやすくてかわいくて。あと、彼女から求めてくれて。」
セイは、瞬間私のことを見たあと、ぱっと目を逸らして下を向いた。
私は一瞬でもセイの気がこちらを向いたのに気を良くして、一方的に会話を続ける。
「彼女も嫌がってなかったし、気持ちよさそうだった。セイが慣らしてくれていたおかげかな。」
「・・・・・・。」
「あと明るいのを恥ずかしがるのも、イくのを我慢するのも初々しくて、それがまた堪らなくて。」
「・・・・・っ。」
向かいで息を飲んだのがわかった。下を向いたまま手を固く握りしめる姿が目に入る。
あれ、、、おかしい。なんだか言っているうちにざくざく墓穴を掘っている気が。
しまったと思ったときには遅かった。向かいに座るセイは、俯いていた顔を上げて、死にそうなくらい情けない顔でこちらを見た。
「・・・陛下は、私を殺したいのですか?」
「そうじゃなくて、、、ええと、ごめん。」
なんだ、そんな顔もできるんじゃないか、と内心思ったが、口には出さなかった。
到着したのは王都の一等地にありながらも落ち着いた雰囲気の屋敷で、背後には広大な森が広がっていた。玄関前で御者が扉を開けると同時にするりと馬車を降りる。
出迎えてくれたのは、屋敷の主と同じかそれ以上の年齢を重ねた白髪の家令のみだった。地味な馬車で少人数という状況から非公式の訪問だと理解してくれたようだ。
丁重に応接室に案内されると、既に屋敷の主が待っていた。先日の謁見では正装だったのに対し、今日はゆったりとした長衣を着てくつろいだ様子が見てとれた。杖をつきながら立ち上がろうとするのを手で制す。
「今日は個人的な用で来たから、楽にしていて。」
「もったいないお言葉でございます。それにしてもお若いころの先王陛下にますます似てこられましたなあ。」
目を細めてゴドノフが感慨深げにつぶやくのが耳に入った。その先王を弑したのが私だと知っていてその言葉を口にする、彼の意図は掴めない。でも私にとっては憎い相手でも、ゴドノフにとっては懐かしい君主であるのだろう、それ以上は何も言わなかった。
私が奥のソファに座るのを待ってから、セイが隣に座った。恭しく家令が紅茶をサーブし、主人用には怪しい濃緑の液体をカップに注ぐ。
あまりの毒々しさに思わずカップを凝視すると、家令は「最近主が健康のために欠かさず飲んでいる薬草茶なのでご心配なく。」と笑い、指南本の見本のような素晴らしい一礼をして退出した。
胸の前で手を組む異国風の礼を取ったゴドノフは、孫の顔でも見るように、うれしそうな顔で私を見た。今ではすっかり好々爺の風情だが、つい数年前までは国境沿いを護り、老齢ながら素晴らしい働きをした武人だ。彼が酒に目がないのは有名な話で、ワイン(賄賂ともいう)もたいそう喜んでくれた。
しばらくたわいもない世間話をした後、お茶を一口啜り、頃合いを見計らったようにゴドノフから話を切り出した。
彼は私が妃を娶ると勘違いしてわざわざ祝いにやってきたわけだが、奇しくも事実になってしまったわけだ。
先んじて用件は手紙で送ってあるので、今回の訪問はご機嫌伺いを兼ねた駄目押しといったところか。急な思い付きだったが、彼が遠方の領地に戻る前に手が打てて幸運だった。
イヴァンから巻き上げたキリル名産のワインを手みやげに持つ。その土地でしかとれない貴腐ブドウを使ったもので、濃厚な甘みと馥郁とした香りが酒好きだけでなく女性にも人気がある品だ。生産量が少なく国外の市場にはなかなか出回らないので喜ぶだろう。
今日はセイを連れているので転移ではなく、キャリッジと呼ばれる2頭立ての馬車を手配させた。黒地に金で王家の紋章があしらわれているほかは余計な装飾がなく、比較的地味なものだ。待機していた御者に行先を告げて乗り込んだ。
馬車内は、きわめて静かだった。
常であればその日の予定や確認事項などについて言葉を交わすの、だが、
(・・・・・・目線が合わない)
向かいに座る相手を見ると、ふいと窓の外に視線を向けられた。さりげなさを装ったつもりだろうが、わざとらしいこと、この上ない。
そもそも今朝からセイの様子は普通じゃなかった。朝から必要最小限のことは口にするものの、それ以外はほとんど喋らない。馬車内に2人ということはよくあるが、ここまで気まずい空気になるのはそうそうない。冷静さを装ってはいるが、昨夜のことを気にしているのは明白だった。
この男がここまで私情を表に出すのは珍しいと思いつつ、どう対処すればいいのかわからない。
カタカタという車輪の音だけが響く。
息苦しさのあまり、つい余計なことを口にしてしまった。
「えーっと、昨晩は非常に満足したよ。アナスタシア嬢は初めてとは思えないくらい感じやすくてかわいくて。あと、彼女から求めてくれて。」
セイは、瞬間私のことを見たあと、ぱっと目を逸らして下を向いた。
私は一瞬でもセイの気がこちらを向いたのに気を良くして、一方的に会話を続ける。
「彼女も嫌がってなかったし、気持ちよさそうだった。セイが慣らしてくれていたおかげかな。」
「・・・・・・。」
「あと明るいのを恥ずかしがるのも、イくのを我慢するのも初々しくて、それがまた堪らなくて。」
「・・・・・っ。」
向かいで息を飲んだのがわかった。下を向いたまま手を固く握りしめる姿が目に入る。
あれ、、、おかしい。なんだか言っているうちにざくざく墓穴を掘っている気が。
しまったと思ったときには遅かった。向かいに座るセイは、俯いていた顔を上げて、死にそうなくらい情けない顔でこちらを見た。
「・・・陛下は、私を殺したいのですか?」
「そうじゃなくて、、、ええと、ごめん。」
なんだ、そんな顔もできるんじゃないか、と内心思ったが、口には出さなかった。
到着したのは王都の一等地にありながらも落ち着いた雰囲気の屋敷で、背後には広大な森が広がっていた。玄関前で御者が扉を開けると同時にするりと馬車を降りる。
出迎えてくれたのは、屋敷の主と同じかそれ以上の年齢を重ねた白髪の家令のみだった。地味な馬車で少人数という状況から非公式の訪問だと理解してくれたようだ。
丁重に応接室に案内されると、既に屋敷の主が待っていた。先日の謁見では正装だったのに対し、今日はゆったりとした長衣を着てくつろいだ様子が見てとれた。杖をつきながら立ち上がろうとするのを手で制す。
「今日は個人的な用で来たから、楽にしていて。」
「もったいないお言葉でございます。それにしてもお若いころの先王陛下にますます似てこられましたなあ。」
目を細めてゴドノフが感慨深げにつぶやくのが耳に入った。その先王を弑したのが私だと知っていてその言葉を口にする、彼の意図は掴めない。でも私にとっては憎い相手でも、ゴドノフにとっては懐かしい君主であるのだろう、それ以上は何も言わなかった。
私が奥のソファに座るのを待ってから、セイが隣に座った。恭しく家令が紅茶をサーブし、主人用には怪しい濃緑の液体をカップに注ぐ。
あまりの毒々しさに思わずカップを凝視すると、家令は「最近主が健康のために欠かさず飲んでいる薬草茶なのでご心配なく。」と笑い、指南本の見本のような素晴らしい一礼をして退出した。
胸の前で手を組む異国風の礼を取ったゴドノフは、孫の顔でも見るように、うれしそうな顔で私を見た。今ではすっかり好々爺の風情だが、つい数年前までは国境沿いを護り、老齢ながら素晴らしい働きをした武人だ。彼が酒に目がないのは有名な話で、ワイン(賄賂ともいう)もたいそう喜んでくれた。
しばらくたわいもない世間話をした後、お茶を一口啜り、頃合いを見計らったようにゴドノフから話を切り出した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件
こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる