不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

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本編

43 墜落4 【side アレクセイ】

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「陛下がわざわざおいでくださったのは、書面の件ですな。側妃様に続き、正妃様をお迎えになるとはめでたい話でなによりです。」

ゴドノフの言葉を聞き、セイが一瞬だけ動揺したかのように私を見た。今回、送った手紙の詳細についてはセイには話していない。まさか養子縁組を頼みに来たとは思っていなかったはずだ。

「ああ、彼女は身分が低いのを引け目に思っているから何とかしてあげたいんだ。まだ本人の意向は確認していないが、できれば形式的に卿の養女にしてもらえると助かる。」

身分が低い女性が王室に嫁ぐ際、便宜的に上位貴族の養女にするのはよくある話だ。見せかけ上とはいえ後ろ盾があるとないとでは後々の立場が大きく違う。古くからの貴族であるゴドノフの養女となれば、口出しをする者も出ないだろうという打算があった。幸い彼には奥方がいて跡継ぎである息子もいるが、娘はいない。普段は王都にいないため養女となった後の関係性も薄い。養父としてこれ以上ない好条件だ。

「ふむ、、私の義娘であれば他の貴族からの反対も出にくいでしょうて。陛下のお役に立てるのであれば臣下としてこれほどうれしいことはございません。それに形だけとはいえ娘ができることに対して妻も喜ぶでしょう。」

「ありがとう。近いうちに準備するから、その心づもりでいてもらえると助かるよ。」

駄目押しで、にっこり笑っておいた。多少創作が入っているけれど信じてもらえたようだ。出来がいい王の仮面はこういうときに非常に役に立つ。

「ところで、最近領地のほうはどう?」

それとなく水を向けると、ゴドノフは今までの柔和な顔から途端に領主の顔になった。

「今年は農作物の出来も良く、周辺国との交易も順調で領民も安堵しております。そういえば先頃北方から薬としても食用としても利用されている珍しい植物が手に入りまして。屋敷にもいくばくか保存してありますので、お帰りの際に是非レイスティア殿にお持ちください。」

「薬関係だとルーが喜ぶよ。北方との交易が盛んになるのは我が国にとっても益が多いからありがたいことだね。それも卿の尽力の賜物だ。改めて感謝する。」

私の言葉に頷くと、彼はまた一口、薬草茶を啜った。

「・・・それにしても先王の時代は戦が多かったですし、今のような平和な時代が来るなんて思いもしませんでしたなあ。この安定した治世が続くよう、陛下には良い伴侶を迎えてもらいたいものです。」

ゴドノフは、かつての時代を思い出したのか、少し遠い目をして微笑んだ。父である先王の、さらに父の代から仕えている彼にとって、人生の大半は隣国との戦や内乱の鎮圧に奔走していたはずだ。そのおかげで今は王家に反逆するような貴族もなく、キリル公国を筆頭に、近隣諸国ともおおむね友好的だ。

「この先もっと世の中は良くなるし、国を戦地にしないよう最大限努力すると誓うよ。卿には私の子供の時代まで元気でいてもらわないと。」

私が力強く言った言葉を聞いて、ゴドノフはうれしそうに笑った。




帰り際、謎の作物が入った包みと一緒に女性が好みそうな香水やポプリ、それに化粧水などを渡された。の地特産のリュカの花は、甘やかな香りが特徴で、3年に1度だけ大ぶりの花を咲かせる。今までは観賞用のみで有効活用はされていなかったが、数年前にエッセンシャルオイルの抽出に成功したと聞いた。それを使って化粧品は香りだけでなく肌の修復効果も見られ、最近彼の領地で人気がある品なのだという。

ゴドノフからは、「今度はぜひお妃様もお連れください。」と念押しされた。


快く引き受けてもらえてよかったという思いで、気持ちも軽く馬車に乗り込む。それとは対照的にセイの顔色は明るくない。面会中はもちろんのこと、帰りの馬車内でもほとんど口を開かずに窓のほうを向いたままだった。

かちゃり、と向かいで眼鏡をかけ直す音がいやに大きく聞こえる。


(残念だけど、もう賽は投げられたんだよ)

そんなに気になるのであれば、様子を聞くなり自分も彼女を抱きたいと言うなりすればいいのに。

数年後、アナスタシアが望めばセイかルーを選ばせようとは思っている。しかし2人が中途半端な気持ちであれば、私の妃としてそのままいてもらえばいいとも思っている。

だって、セイは彼女を望むそぶりは見せても、

今までの育ちのせいか、彼は素直に自分の気持ちを口に出すのが恐ろしく不得手だ。本人も何を望むのかわかっているはず。もう少しわがままになってもいいのにと思う。

(自分に正直にならないと、横から掻っ攫われても知らないよ)

「今夜は、君のは誰と過ごせばいいのかな?セイは立候補しないの?」

わざと言うと、セイは、途方に暮れた顔をして視線をさまよわせた。

本当に、彼女がからむとセイはいつもの冷静沈着さのかけらもない。どうしたものかと窓から空を見ると、音もなく、細かい雨が降り出していた。
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