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本編
44 眠り姫にキスする朝 【side ルー】
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遠い国のおとぎ話で「眠り姫」というのがあった。
わるい魔法使いに眠らされたお姫様を、王子様がキスで起こしてあげるというあらすじだったと思う。
彼女はどんな夢をみていたのだろう?
幸せな眠りを妨げるのは、いいことだったのかな?
静かに部屋に入ると、アレクの言う通りシアは眠っていた。ぴくりとも動かず、まるで死んでいるみたいだった。顔の前に手をかざすと、息はしている。魔力の加減が強すぎるためだとわかってはいるけれど、心臓に悪い。
濃密な魔力の気配に混じって甘やかな花の香りがした。
眠る身体から滲み出る魔力は、相変わらず媚薬のように僕の本能を刺激する。
『…――――…』
短く詠唱し、部屋全体に結界を張った。これで誰にも邪魔されなくて済む。王宮内に無断で結界を張るのは禁止されているけれど、この際そんなことは気にしてられなかった。
ベッドの横にあった椅子に座って彼女を眺める。少しだけ朱をひいた白磁のような肌も、艶のある濃紺の髪も、ため息が出るほど美しい。眠り姫を見つけた王子様はこんな感じで呆けたに違いない。
眠る姿は穏やかで、情事の後とは思えないほど、髪も衣服もきれいに整えられている。だから、アレクがどんなふうに愛し、シアがどんなに乱れたのかはまったく伺い知れなかった。
彼女の「はじめて」が自分じゃなかったことに不満はないけれど、それでもやっぱりいい気分はしない。
(・・・加減すればいいのに、強すぎ)
眠りの魔法は、術者が解呪するまで、または術者以上の魔力を持つ者が強制的に解呪するまで続く。こんなに強力な眠りの魔法はアレク以外にはそうそう解呪できない。シアが目覚めたときに自分が傍にいたいっていう意思表示かな。思わぬ束縛の深さにあきれると同時に、そこまで彼女に執着しているのが意外だった。
部屋に来ることを了承したのも、僕が回復系の魔術が壊滅的に駄目なのを知っていて解呪できないと踏んだからだろう。
『…――――…』
アレクの思惑どおりにいかないことにちょっと優越感を感じながら、解呪の言葉を唱えて眠るシアにキスをした。
「ん・・・。」と甘い声がして、そのままやわらかな唇の感触を楽しむ。濡れて光る唇がなんだか卑猥だ。その先を想像して思わず舌なめずりをした。
(あー、やっぱり最高。いっぱい舐めてキモチよくしてあげたいなあ)
いつのまにか解呪もできるようになったと気づいたのは、いつの頃だったか。
僕は攻撃系と回復系という相反する2系統の魔力を持っている。大抵の人間は1系統で、アレクでさえ攻撃系のみだ。2系統持ちは貴重ではあるものの、僕の場合は攻撃系の魔力が強すぎて反系統の回復系は全く使えなかった。
だから大神官の依頼でシアを目覚めさせた時も、回復系の解呪ではなく魔力を流して目覚めを促す方法しか取れなかった。
それが毎日のようにシアとキスしているうちに、魔力回路のバランスが取れて両方の魔力が使えるようになっていた。たぶん異世界の魔力が影響したんだと考えている。シアが強すぎる魔力を吸収してくれたのかもしれない。だって、たまに僕の魔力を纏っている気配を感じるから。
稀代の魔術師と称される僕だけど(もちろん誰かが勝手につけたんだよ)、2系統の魔力を扱えるようになった今は、もう向かうところ敵なしだと自分でも思う。
「ん、、、あれ、ルー、どうしたの?」
半ば寝ぼけたような顔で、シアがこちらを見た。美しい金色の瞳が僕を映す。ふわりと無防備に微笑む。
「おはよう。そろそろ起きよっか?」
彼女の頬に手を添えて、わざと耳元で囁いた。ついでに耳朶をちょっとだけ舐めてみた。覚醒しきってない分、キモチいいことに素直に反応して猫みたいに僕の手に頬ずりする。
掛布がめくれ、彼女の左手首に金のブレスレットが嵌められているのに気づいた。昨日見たときには付けていなかったから昨晩のうちにつけたのか。こんな独占欲のカタマリみたいな色を付けているのは気に入らない。
悔しくなって、ちゅっ、ちゅっ、と顔のあちこちにキスをしていると、徐々に目が覚めてきたのかシアが怪訝な顔をした。
「え・・・どうしたの?何か不安なことでもあった?」
「ううん、ねえ、もっと。」
無邪気な顔をしてキスをねだる。もう一度唇にキスをして、できるだけやらしい感じで彼女の咥内を弄った。
「ぅ・・・ふう、はあっ。」
キスに感じる姿もいとおしい。早く僕に溺れてくれないかな。
本能が「誰にも渡すな」と警鐘を鳴らす。彼女は、僕のもの。僕だけのものだ。
はじめは珍しい異世界の魔力だけが目当てだったけど、今は違う。戸惑いながらも受け入れようとする姿も、警戒心を少しずつ弱めて僕に懐いてくれる様も、何もかもが愛しい。
・・・時折、彼女の顔が悲しそうに歪むのに気づいてはいた。今の美しい外見に対して負い目を持っていることも。おそらく本当の自分の姿を恥じていることも。
アナスタシアの美貌があるから、異世界の魔力持ちだから。だから執着されていると思っている。
だけど、それは間違いだから。恋とか愛とかはわからないけど、僕は、ただ本能で君がほしいだけなんだ。
たとえ恨まれても、きっと僕は君のことを骨のひとかけらまで残さず食い尽くす。
そうすれば、君のすべては僕のものだ。
わるい魔法使いに眠らされたお姫様を、王子様がキスで起こしてあげるというあらすじだったと思う。
彼女はどんな夢をみていたのだろう?
幸せな眠りを妨げるのは、いいことだったのかな?
静かに部屋に入ると、アレクの言う通りシアは眠っていた。ぴくりとも動かず、まるで死んでいるみたいだった。顔の前に手をかざすと、息はしている。魔力の加減が強すぎるためだとわかってはいるけれど、心臓に悪い。
濃密な魔力の気配に混じって甘やかな花の香りがした。
眠る身体から滲み出る魔力は、相変わらず媚薬のように僕の本能を刺激する。
『…――――…』
短く詠唱し、部屋全体に結界を張った。これで誰にも邪魔されなくて済む。王宮内に無断で結界を張るのは禁止されているけれど、この際そんなことは気にしてられなかった。
ベッドの横にあった椅子に座って彼女を眺める。少しだけ朱をひいた白磁のような肌も、艶のある濃紺の髪も、ため息が出るほど美しい。眠り姫を見つけた王子様はこんな感じで呆けたに違いない。
眠る姿は穏やかで、情事の後とは思えないほど、髪も衣服もきれいに整えられている。だから、アレクがどんなふうに愛し、シアがどんなに乱れたのかはまったく伺い知れなかった。
彼女の「はじめて」が自分じゃなかったことに不満はないけれど、それでもやっぱりいい気分はしない。
(・・・加減すればいいのに、強すぎ)
眠りの魔法は、術者が解呪するまで、または術者以上の魔力を持つ者が強制的に解呪するまで続く。こんなに強力な眠りの魔法はアレク以外にはそうそう解呪できない。シアが目覚めたときに自分が傍にいたいっていう意思表示かな。思わぬ束縛の深さにあきれると同時に、そこまで彼女に執着しているのが意外だった。
部屋に来ることを了承したのも、僕が回復系の魔術が壊滅的に駄目なのを知っていて解呪できないと踏んだからだろう。
『…――――…』
アレクの思惑どおりにいかないことにちょっと優越感を感じながら、解呪の言葉を唱えて眠るシアにキスをした。
「ん・・・。」と甘い声がして、そのままやわらかな唇の感触を楽しむ。濡れて光る唇がなんだか卑猥だ。その先を想像して思わず舌なめずりをした。
(あー、やっぱり最高。いっぱい舐めてキモチよくしてあげたいなあ)
いつのまにか解呪もできるようになったと気づいたのは、いつの頃だったか。
僕は攻撃系と回復系という相反する2系統の魔力を持っている。大抵の人間は1系統で、アレクでさえ攻撃系のみだ。2系統持ちは貴重ではあるものの、僕の場合は攻撃系の魔力が強すぎて反系統の回復系は全く使えなかった。
だから大神官の依頼でシアを目覚めさせた時も、回復系の解呪ではなく魔力を流して目覚めを促す方法しか取れなかった。
それが毎日のようにシアとキスしているうちに、魔力回路のバランスが取れて両方の魔力が使えるようになっていた。たぶん異世界の魔力が影響したんだと考えている。シアが強すぎる魔力を吸収してくれたのかもしれない。だって、たまに僕の魔力を纏っている気配を感じるから。
稀代の魔術師と称される僕だけど(もちろん誰かが勝手につけたんだよ)、2系統の魔力を扱えるようになった今は、もう向かうところ敵なしだと自分でも思う。
「ん、、、あれ、ルー、どうしたの?」
半ば寝ぼけたような顔で、シアがこちらを見た。美しい金色の瞳が僕を映す。ふわりと無防備に微笑む。
「おはよう。そろそろ起きよっか?」
彼女の頬に手を添えて、わざと耳元で囁いた。ついでに耳朶をちょっとだけ舐めてみた。覚醒しきってない分、キモチいいことに素直に反応して猫みたいに僕の手に頬ずりする。
掛布がめくれ、彼女の左手首に金のブレスレットが嵌められているのに気づいた。昨日見たときには付けていなかったから昨晩のうちにつけたのか。こんな独占欲のカタマリみたいな色を付けているのは気に入らない。
悔しくなって、ちゅっ、ちゅっ、と顔のあちこちにキスをしていると、徐々に目が覚めてきたのかシアが怪訝な顔をした。
「え・・・どうしたの?何か不安なことでもあった?」
「ううん、ねえ、もっと。」
無邪気な顔をしてキスをねだる。もう一度唇にキスをして、できるだけやらしい感じで彼女の咥内を弄った。
「ぅ・・・ふう、はあっ。」
キスに感じる姿もいとおしい。早く僕に溺れてくれないかな。
本能が「誰にも渡すな」と警鐘を鳴らす。彼女は、僕のもの。僕だけのものだ。
はじめは珍しい異世界の魔力だけが目当てだったけど、今は違う。戸惑いながらも受け入れようとする姿も、警戒心を少しずつ弱めて僕に懐いてくれる様も、何もかもが愛しい。
・・・時折、彼女の顔が悲しそうに歪むのに気づいてはいた。今の美しい外見に対して負い目を持っていることも。おそらく本当の自分の姿を恥じていることも。
アナスタシアの美貌があるから、異世界の魔力持ちだから。だから執着されていると思っている。
だけど、それは間違いだから。恋とか愛とかはわからないけど、僕は、ただ本能で君がほしいだけなんだ。
たとえ恨まれても、きっと僕は君のことを骨のひとかけらまで残さず食い尽くす。
そうすれば、君のすべては僕のものだ。
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