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本編
46 キミノヒカリ1
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わずかな戸惑いを見せながらも、それ以上の感情が読み取れないルーの表情に一瞬違和感を感じた。いつもの甘やかなものとは違う、実験対象を見るような目。それは以前陛下、もといアレクに検分されたときに感じた視線と一緒だった。
不穏な視線の意味を捉えかねて、からだが強張る。
(・・・なんか悪いことしちゃったのかな)
わたしの上に跨っている、つまり押し倒されている体勢なので、互いの顔が近い。じっと見つめられて思わず顔を逸らすと、ルーが気まずげに身を離した。
起き上がって近くにあった枕を抱える。ふと自分の胸元に目をやり、慌てて乱れた箇所を整える。その間、何か言いたげな視線は感じたが、なにか言葉が発せられることはなかった。
いつもは気にならない部屋の明かりが、いやに人工的で冷たく感じる。薄い夜着は透けこそしなかったが、今のふたりの距離感では薄くて心もとない。あんなことをした後で何だけど。
ベッドの上で膝が触れそうな位置で向かい合ったまま、しばらく無言だった。
沈黙が重い。
何かやらかしてしまったのであれば反省するけど、何が悪いのかがわからないから困る。『魔力を呑み込む』と言われても、返品不可で大量の魔力を流したのはそっちだと言いたい。あんな風に触られたら、誰だって気持ちよくなっちゃうし、快感を求めるのと同時に魔力を欲しがったとしても、しかたないじゃないかと思わずにはいられない。
魔力の受け渡しに快感が伴うことも、わたしが快感に弱いことも、いつも傍にいるルーが一番よく知っているはずなのに。
さっきまでの濃密で淫靡な雰囲気がうそみたいだった。なのに隅々まで弄られたからだは、いまだ熱を持ったままだ。
視覚を遮られた状態で与えられた愛撫とキスは、今まで感じたことがないくらい気持ちよかった。同時にほんの少しの恐怖と緊張。アレクに嫉妬してくれたのかなとちょっと期待したのに、斜め上の理由であんなことをされたのかと知って抱えた枕ごと倒れ込みそうになる。
ルーは向かいから抱きとめて、自分の肩口にわたしの頭を置いた。かすかに残る、いつものコロンの香り。ああ、いつもの彼だと安心する。
男性とは思えないくらい華奢な指先が、わたしの髪をもてあそぶ。そのまま泣いている子供をあやすかのように、ちゅ、と耳たぶにキスされた。顔を上げると、さっき以上に近い位置で目が合う。
「ごめんね、どうしても確かめたくてシアにいっぱい魔力を流したんだ。」
(わかってます。おかげで気持ちよすぎてくらくらするんだから!)
わたしの憤りに気づいているのかいないのか、ルーは言葉を続けた。
「ふつうだったらこんなに僕の魔力を受け入れたら昏睡してしまう。なのに、君はぜんぜん大丈夫みたいだ。・・・昨夜はアレクの魔力も飲み込んだはずなのに。」
最後だけ少し顔を歪めて言った後、気を取り直したように、つい、と人差し指でわたしの唇をなぞる。
「シアが他人の魔力を際限なく吸収できるのは、間違いない。これがアナスタシア由来のものなのか、異世界から来た君由来かはわからないけど。」
・・・ようはわたしの体質を確認するために触りまくっていたということなのか。
強引に弄られた理由は分かったものの、中途半端に快感を引き出されたからだが物足りないと疼く。わたしに触れるルーの手から体温が伝わる。この繊細な指で、もっとやさしく触ってほしいというみだらな思いが浮かぶ。
気持ちが伝わったのか、何かに気づいた様子のルーが、支える腕に力を籠めた。
「うわ、、、いま、すごい香りが強まったけど、何か考えた?このままだとさすがの僕もキツい。」
眉根を寄せて苦しそうな表情をする。心なしか顔も赤い気がする。
「うん、ルーにもっと触ってほしいって思ったよ。」
わたしが正直に伝えると、「うええ、反則だってば・・・。」という小さな呟きが聞こえた。
この先をねだりたい気持ちは捨てきれなかったけれど、まずは疑問を解決しなくては先に進まない。だからちょっとだけ姿勢を正して、改めて質問する。
「えと、わたしが他人の魔力を吸収しているということは理解した。でもそれは変わっていることなの?」
ルーは、きょとんとした顔でわたしのことを見ると、ふうと息を吐いた。
「・・・そうだよね。ごめん、そこからだよね。僕たちは体内に魔力回路を持っていて、それを基にして魔術を行使している。こんなふうに。」
そう言うと、ルーはふわりと空に指をかざした。火花がきらきらと爆ぜる。
「その人ごとに容量があって、許容量超過だと身体が持たないんだ。さらに自分の魔力を人に譲渡することはできても、受け入れ側の魔力と質が違うと拒絶反応が出る。アレクと僕は魔力の質が違うから両方を受け入れるなんて通常ありえない。元のアナスタシアがどうだったかは、正直わからない。でも無尽蔵かつ質も問わずに他人の魔力を呑み込むのは異常としか言いようがない。」
そう言うと、ルーは困ったように眉を下げた。
「誰かに知られたら絶対悪用されるから、他の人に言っちゃ駄目だよ。」
「・・・アレクにも言っちゃダメ?」
いちおう雇用主だし報告義務があるような気がする。
「たぶんアレクは気づいているんじゃないかな。そういうことに敏いから。」
そう言うと、ルーはまじめな顔をして、奥まで見通すような瞳でわたしを凝視した。
「シア、、、ううん、コトネ。」
突然、この世界では呼ばれるはずのないかつての名前を耳にする。なぜ、いまこのタイミングでその名前を呼ぶのかと、思わず言葉を失った。
不穏な視線の意味を捉えかねて、からだが強張る。
(・・・なんか悪いことしちゃったのかな)
わたしの上に跨っている、つまり押し倒されている体勢なので、互いの顔が近い。じっと見つめられて思わず顔を逸らすと、ルーが気まずげに身を離した。
起き上がって近くにあった枕を抱える。ふと自分の胸元に目をやり、慌てて乱れた箇所を整える。その間、何か言いたげな視線は感じたが、なにか言葉が発せられることはなかった。
いつもは気にならない部屋の明かりが、いやに人工的で冷たく感じる。薄い夜着は透けこそしなかったが、今のふたりの距離感では薄くて心もとない。あんなことをした後で何だけど。
ベッドの上で膝が触れそうな位置で向かい合ったまま、しばらく無言だった。
沈黙が重い。
何かやらかしてしまったのであれば反省するけど、何が悪いのかがわからないから困る。『魔力を呑み込む』と言われても、返品不可で大量の魔力を流したのはそっちだと言いたい。あんな風に触られたら、誰だって気持ちよくなっちゃうし、快感を求めるのと同時に魔力を欲しがったとしても、しかたないじゃないかと思わずにはいられない。
魔力の受け渡しに快感が伴うことも、わたしが快感に弱いことも、いつも傍にいるルーが一番よく知っているはずなのに。
さっきまでの濃密で淫靡な雰囲気がうそみたいだった。なのに隅々まで弄られたからだは、いまだ熱を持ったままだ。
視覚を遮られた状態で与えられた愛撫とキスは、今まで感じたことがないくらい気持ちよかった。同時にほんの少しの恐怖と緊張。アレクに嫉妬してくれたのかなとちょっと期待したのに、斜め上の理由であんなことをされたのかと知って抱えた枕ごと倒れ込みそうになる。
ルーは向かいから抱きとめて、自分の肩口にわたしの頭を置いた。かすかに残る、いつものコロンの香り。ああ、いつもの彼だと安心する。
男性とは思えないくらい華奢な指先が、わたしの髪をもてあそぶ。そのまま泣いている子供をあやすかのように、ちゅ、と耳たぶにキスされた。顔を上げると、さっき以上に近い位置で目が合う。
「ごめんね、どうしても確かめたくてシアにいっぱい魔力を流したんだ。」
(わかってます。おかげで気持ちよすぎてくらくらするんだから!)
わたしの憤りに気づいているのかいないのか、ルーは言葉を続けた。
「ふつうだったらこんなに僕の魔力を受け入れたら昏睡してしまう。なのに、君はぜんぜん大丈夫みたいだ。・・・昨夜はアレクの魔力も飲み込んだはずなのに。」
最後だけ少し顔を歪めて言った後、気を取り直したように、つい、と人差し指でわたしの唇をなぞる。
「シアが他人の魔力を際限なく吸収できるのは、間違いない。これがアナスタシア由来のものなのか、異世界から来た君由来かはわからないけど。」
・・・ようはわたしの体質を確認するために触りまくっていたということなのか。
強引に弄られた理由は分かったものの、中途半端に快感を引き出されたからだが物足りないと疼く。わたしに触れるルーの手から体温が伝わる。この繊細な指で、もっとやさしく触ってほしいというみだらな思いが浮かぶ。
気持ちが伝わったのか、何かに気づいた様子のルーが、支える腕に力を籠めた。
「うわ、、、いま、すごい香りが強まったけど、何か考えた?このままだとさすがの僕もキツい。」
眉根を寄せて苦しそうな表情をする。心なしか顔も赤い気がする。
「うん、ルーにもっと触ってほしいって思ったよ。」
わたしが正直に伝えると、「うええ、反則だってば・・・。」という小さな呟きが聞こえた。
この先をねだりたい気持ちは捨てきれなかったけれど、まずは疑問を解決しなくては先に進まない。だからちょっとだけ姿勢を正して、改めて質問する。
「えと、わたしが他人の魔力を吸収しているということは理解した。でもそれは変わっていることなの?」
ルーは、きょとんとした顔でわたしのことを見ると、ふうと息を吐いた。
「・・・そうだよね。ごめん、そこからだよね。僕たちは体内に魔力回路を持っていて、それを基にして魔術を行使している。こんなふうに。」
そう言うと、ルーはふわりと空に指をかざした。火花がきらきらと爆ぜる。
「その人ごとに容量があって、許容量超過だと身体が持たないんだ。さらに自分の魔力を人に譲渡することはできても、受け入れ側の魔力と質が違うと拒絶反応が出る。アレクと僕は魔力の質が違うから両方を受け入れるなんて通常ありえない。元のアナスタシアがどうだったかは、正直わからない。でも無尽蔵かつ質も問わずに他人の魔力を呑み込むのは異常としか言いようがない。」
そう言うと、ルーは困ったように眉を下げた。
「誰かに知られたら絶対悪用されるから、他の人に言っちゃ駄目だよ。」
「・・・アレクにも言っちゃダメ?」
いちおう雇用主だし報告義務があるような気がする。
「たぶんアレクは気づいているんじゃないかな。そういうことに敏いから。」
そう言うと、ルーはまじめな顔をして、奥まで見通すような瞳でわたしを凝視した。
「シア、、、ううん、コトネ。」
突然、この世界では呼ばれるはずのないかつての名前を耳にする。なぜ、いまこのタイミングでその名前を呼ぶのかと、思わず言葉を失った。
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