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本編
59 蜻蛉(カゲロウ)2 【side セイ】
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「舐めて」
私の欲を見透かしたかのような彼女の言葉に息を呑んだ。姿形はナーシャだけれど、中身は違う少女だと知っているのに・・・勘違いしそうだった。
決して労働などしたことがないであろう白い手を取り、軽く口づける。
隣に座る艶めかしい彼女のからだから、おそろしく甘い、濃厚な香り。魅了の魔力の香りだとすぐに気付いた。
魔力に影響されない私でさえ気づくのだから、魔力が強い者にとっては劇薬にも近いほどの威力のはずだ。彼女はナーシャと違って魔力の使い方を知らないから、うまく制御できないのだろう。
他人の魔力さえ自分のものにできる彼女は、抱える力が大きすぎて定期的に魔力を使わないと溢れてしまう。教えてあげないと後で辛いことになるはずだ。
でも、今はそんなことは考えていられなかった。彼女に触れたい。舐めたい。
ぴちゃり、と舐める。はあ、ああ、堪らない。彼女を舐めて気持ちよくしている。
指を舐めるだけの行為なのに、信じられないほど興奮した。自分だけではない、舐められている側も舌を這わせるたびに震え、感じているのは一目瞭然だった。
私の前で、いつもみたいに艶めかしく乱れるのが堪らない。無心に指を舐めていると、するりと下半身を触られた。
素直に反応した自分自身が、痛いくらいに膨張する。
今までは最後の一線は超えないようぎりぎりの関係を保っていた。でも、もう躊躇する理由は何もない。陛下本人から許可までもらっているのだ。欲の赴くまま彼女を貫いても何の問題もない。
どろどろとした想いが頭を巡っていると、柔らかい甘い声が耳元から聞こえた。
「ねえ、アナスタシアを愛してあげて?」
視線を上げると、美しい金色の瞳が視界に映る。ああ、なぜこのタイミングでそんなことを言うのだろう。私の好きな、彼女の声。めちゃくちゃにしてしまいたくなる。無自覚なのも考えものだ。
小さく息を吐いてスラックスを脱ぐ。外気に触れた陰茎がふるりと震える。前戯もまだだというのに、自身の昂りは既に彼女を欲しがって濡れていた。
彼女が欲しい。それしか考えられなかった。
アルコールに加えて彼女の甘い香りに酔ってしまったようだ。冷静に判断できずに、ひたすら彼女を求める。指で割れ目をなぞり、蜜を舐める。指についた分は自身に塗りつけた。
「こんなに蜜に濡れて・・・溢れてしまいましたね。」
私の愛撫に反応してくれたことが純粋にうれしい。指だけでこんなに潤って、奥まで突いたらどんな声で啼いてくれるのだろう。
(誰にも触れられない場所に閉じ込めてしまいたい)
子供の我儘のような願いが頭をよぎる。
単なる独占欲だとわかっている。でも横から奪い去られるくらいならば、彼女の意思を無視してでも自分のものにするべきだと思った。
私だけを見てほしい。陛下に愛されないでほしい。あの性悪魔術師になんて構われないでほしい。
――こんなに愛しいのに、私の愛したナーシャではないなんて。
涙が零れ落ちる。
(もう一度、私のナーシャに会いたい)
なぜあの時、彼女を閉じ込めてしまわなかったのだろう。隣国へ発つ前に攫って、強姦してしまえばよかった。そうすれば彼女は今私の手の中だったのに。
これ以上は考えたくなくて、無心で彼女を弄った。気持ちよさそうにしていた彼女が、なぜかじっと私を見つめている。
無条件に溺れてはくれないのかと苦い笑いが込み上げた。
「本当は、あなたをずっと汚したかった。陛下よりも先に貫いて、私だけのものにしてしまいたかったんです。」
ナーシャ、ナーシャ。なぜいなくなってしまったの? 私を捨てないでほしかった。一緒に幸せになりたかった。
困惑する彼女に許しを請う如く、何度も口づけた。
涙が、溢れて止まらなかった。
我を忘れた私を現実に引き戻したのは、彼女に頬を挟まれて感じた温かさだった。彼女から私に口づける。甘い吐息が唇から漏れた。
「セイ、愛している、愛しているわ。私は貴方には相応しくないから、だけど自分から言い出せなくて・・・だから逃げたの。」
彼女の口からその言葉を聞いて、ようやく何も告げずに姿を消したナーシャの気持ちが理解できた。と同時に、改めてこの少女はナーシャとは別人だと実感する。彼女は決して自分の気持ちは言わなかった。
「・・・ありがとう、ございます。」
ようやく、その一言だけが口を出た。
自分よりも年下の少女に気遣われているなんて情けない。落ち込んでいると、彼女が問いかけた。
「わたしが『アナスタシアとは別人の誰か』でいられるのはどうしてだと思う?」
謎かけのような問いに対し、答えがわからずゆっくり首を振る。
「わたし自身が別人だと認識していて、周りの人がその言葉を信じてくれるからだよ。もし私が別人だと主張しても、周りの人が信じてくれなかったら、二重人格とか記憶喪失を疑われても仕方がない状況よね。」
言われてみればその通りで、状況によっては精神錯乱だと思われても仕方がなかっただろう。私だって当初は記憶喪失を疑った。
始めに保護したルー・レイスティアが彼女を信じ、魔術師の言葉を陛下が信じた。私も陛下の言葉を信じて彼女とナーシャが別人だと信じた。
(信じれば、それが真実になるとでも?)
まるで詭弁ではないか。でも私は陛下が言った『アナスタシア嬢の魂は異世界の魂と混じってしまった』という言葉だけを鵜呑みにしているのは事実だ。
それを信じるのであれば、目の前の彼女は私の愛したナーシャ本人だ。しかし魂が混じって変質してしまった彼女はナーシャとは明らかに違う。
愛しい相手が目の前にいるのに、手を伸ばすと幻のように消えてしまう。私は誰を追い求めているのだろう。考えると気が遠くなりそうになる。
ふと我に返ると、いつのまにか上下が逆転しており、彼女が私に跨っていた。
彼女は自分の胸に手を当ててにこりと微笑んだ。
「ここにアナスタシアの魂もいるって教えてくれたのはセイだよ。だから彼女はわたしと共にあるって、ちゃんと信じていて。」
私の欲を見透かしたかのような彼女の言葉に息を呑んだ。姿形はナーシャだけれど、中身は違う少女だと知っているのに・・・勘違いしそうだった。
決して労働などしたことがないであろう白い手を取り、軽く口づける。
隣に座る艶めかしい彼女のからだから、おそろしく甘い、濃厚な香り。魅了の魔力の香りだとすぐに気付いた。
魔力に影響されない私でさえ気づくのだから、魔力が強い者にとっては劇薬にも近いほどの威力のはずだ。彼女はナーシャと違って魔力の使い方を知らないから、うまく制御できないのだろう。
他人の魔力さえ自分のものにできる彼女は、抱える力が大きすぎて定期的に魔力を使わないと溢れてしまう。教えてあげないと後で辛いことになるはずだ。
でも、今はそんなことは考えていられなかった。彼女に触れたい。舐めたい。
ぴちゃり、と舐める。はあ、ああ、堪らない。彼女を舐めて気持ちよくしている。
指を舐めるだけの行為なのに、信じられないほど興奮した。自分だけではない、舐められている側も舌を這わせるたびに震え、感じているのは一目瞭然だった。
私の前で、いつもみたいに艶めかしく乱れるのが堪らない。無心に指を舐めていると、するりと下半身を触られた。
素直に反応した自分自身が、痛いくらいに膨張する。
今までは最後の一線は超えないようぎりぎりの関係を保っていた。でも、もう躊躇する理由は何もない。陛下本人から許可までもらっているのだ。欲の赴くまま彼女を貫いても何の問題もない。
どろどろとした想いが頭を巡っていると、柔らかい甘い声が耳元から聞こえた。
「ねえ、アナスタシアを愛してあげて?」
視線を上げると、美しい金色の瞳が視界に映る。ああ、なぜこのタイミングでそんなことを言うのだろう。私の好きな、彼女の声。めちゃくちゃにしてしまいたくなる。無自覚なのも考えものだ。
小さく息を吐いてスラックスを脱ぐ。外気に触れた陰茎がふるりと震える。前戯もまだだというのに、自身の昂りは既に彼女を欲しがって濡れていた。
彼女が欲しい。それしか考えられなかった。
アルコールに加えて彼女の甘い香りに酔ってしまったようだ。冷静に判断できずに、ひたすら彼女を求める。指で割れ目をなぞり、蜜を舐める。指についた分は自身に塗りつけた。
「こんなに蜜に濡れて・・・溢れてしまいましたね。」
私の愛撫に反応してくれたことが純粋にうれしい。指だけでこんなに潤って、奥まで突いたらどんな声で啼いてくれるのだろう。
(誰にも触れられない場所に閉じ込めてしまいたい)
子供の我儘のような願いが頭をよぎる。
単なる独占欲だとわかっている。でも横から奪い去られるくらいならば、彼女の意思を無視してでも自分のものにするべきだと思った。
私だけを見てほしい。陛下に愛されないでほしい。あの性悪魔術師になんて構われないでほしい。
――こんなに愛しいのに、私の愛したナーシャではないなんて。
涙が零れ落ちる。
(もう一度、私のナーシャに会いたい)
なぜあの時、彼女を閉じ込めてしまわなかったのだろう。隣国へ発つ前に攫って、強姦してしまえばよかった。そうすれば彼女は今私の手の中だったのに。
これ以上は考えたくなくて、無心で彼女を弄った。気持ちよさそうにしていた彼女が、なぜかじっと私を見つめている。
無条件に溺れてはくれないのかと苦い笑いが込み上げた。
「本当は、あなたをずっと汚したかった。陛下よりも先に貫いて、私だけのものにしてしまいたかったんです。」
ナーシャ、ナーシャ。なぜいなくなってしまったの? 私を捨てないでほしかった。一緒に幸せになりたかった。
困惑する彼女に許しを請う如く、何度も口づけた。
涙が、溢れて止まらなかった。
我を忘れた私を現実に引き戻したのは、彼女に頬を挟まれて感じた温かさだった。彼女から私に口づける。甘い吐息が唇から漏れた。
「セイ、愛している、愛しているわ。私は貴方には相応しくないから、だけど自分から言い出せなくて・・・だから逃げたの。」
彼女の口からその言葉を聞いて、ようやく何も告げずに姿を消したナーシャの気持ちが理解できた。と同時に、改めてこの少女はナーシャとは別人だと実感する。彼女は決して自分の気持ちは言わなかった。
「・・・ありがとう、ございます。」
ようやく、その一言だけが口を出た。
自分よりも年下の少女に気遣われているなんて情けない。落ち込んでいると、彼女が問いかけた。
「わたしが『アナスタシアとは別人の誰か』でいられるのはどうしてだと思う?」
謎かけのような問いに対し、答えがわからずゆっくり首を振る。
「わたし自身が別人だと認識していて、周りの人がその言葉を信じてくれるからだよ。もし私が別人だと主張しても、周りの人が信じてくれなかったら、二重人格とか記憶喪失を疑われても仕方がない状況よね。」
言われてみればその通りで、状況によっては精神錯乱だと思われても仕方がなかっただろう。私だって当初は記憶喪失を疑った。
始めに保護したルー・レイスティアが彼女を信じ、魔術師の言葉を陛下が信じた。私も陛下の言葉を信じて彼女とナーシャが別人だと信じた。
(信じれば、それが真実になるとでも?)
まるで詭弁ではないか。でも私は陛下が言った『アナスタシア嬢の魂は異世界の魂と混じってしまった』という言葉だけを鵜呑みにしているのは事実だ。
それを信じるのであれば、目の前の彼女は私の愛したナーシャ本人だ。しかし魂が混じって変質してしまった彼女はナーシャとは明らかに違う。
愛しい相手が目の前にいるのに、手を伸ばすと幻のように消えてしまう。私は誰を追い求めているのだろう。考えると気が遠くなりそうになる。
ふと我に返ると、いつのまにか上下が逆転しており、彼女が私に跨っていた。
彼女は自分の胸に手を当ててにこりと微笑んだ。
「ここにアナスタシアの魂もいるって教えてくれたのはセイだよ。だから彼女はわたしと共にあるって、ちゃんと信じていて。」
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