不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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61 夢の終わりのはじまり 【sideアナスタシア】

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――願わくば、あのひとが幸せでありますように。そして次に出会うときは、ちゃんと好きと言えますように。

そう思いながら長い眠りについた私。

気がついたら、生温かい水の中に浮かんでいるみたいに、言い換えると、死んでしまったかのように、地に足がつかないふわふわとした感覚だった。

私は、私じゃない誰かの一部になっている、と理解できたのは、しばらくしてから。

このからだは私自身ではあるけれども、コトネという他の人格が身体を支配している。精神と肉体がばらばらで、自分の意思では声ひとつあげられない。

不快さはなかったけれど、慣れるまで違和感がかなりあった。

こんな鬼畜に愛想を振りまく必要ないのに、うれしそうにルー・レイスティアに笑う。腹黒なアレクセイ陛下ひとでなしにも気安く話しかける。

なによりも、人を疑うことを知らないコトネには、はらはらしっぱなしだった。

そもそも無防備すぎる。男たちから性的な目で見られていることに全く気付いていない。いったい今までどんな育ち方をしてきたのだろうと不思議でならない。

自分で言うのも気が引けるが、私の身体は極上だ。それにあんな素直な魂が入ったら、大抵の男は虜になるにきまってる。

アレクセイ陛下に至っては、所有欲丸出しのぎらぎらした目でコトネのことを狙っているのは一目瞭然だった。なのに当のコトネ本人には危機感がまるでない。

心配したとおり、いつのまにかコトネは側妃におさまっていた。当人は気軽に陛下の女除けくらいにしか思っておらず、逃がさないように枷を付けられたことには当然気がついていない。

私の初夜を気にしているくらいだったら、別のところを気にしてほしい。

はじめはあまりに心配で意識をこらして周りの様子を窺っていたけれど、コトネの魂を持った身体は思い通りに動かせるわけではないので、そのうち疲れてきてしまった。

気を緩めると、水底に沈むように意識が混濁して、半ば眠りについたようにまどろんでいく。

異世界から魂を取り込むとかいう儀式で、魔術師が『まれに宿主の魂の一部が奥に沈んでしまう』と言っていた。その時は聞き流していたけど、実際に体験してようやくどういう状態かが理解できた。確かに『沈んで』という表現が正しい。

(も、いっか。後はコトネにゆだねても)

がんばれば意識を浮上させることはできそうだったけれど、もうがんばりたくなかったから、コトネに全て任せた。

なぜか私には、コトネのことがよく理解できた。コトネの魂が、ぴかぴかの輝きと膨大な魔力を持っているのもわかった。この子になら任せても大丈夫。私は離れたところで見ているから。

だから今は、とても楽で居心地がいい。

私の記憶を全部あげる。
私の魔力を全部あげる。

だから、おねがい。
私が掴めなかった幸せを、代わりに掴んで。どうか私にも幸せを味わわせて。






「ナーシャッ!なんでっ・・・!」

悲鳴のような声が聞こえた。覚醒する。意識を集中して辺りを窺う。ここはコトネがいつも過ごす王宮内の一室だとわかる。

夜だった。伽でも命じられたのかセイが私に跨っている。そして信じられないものを見たかのような顔で、こちらを見ていた。

コトネの姿に私を重ねたのだろう。セイが子供みたいに泣いている。いつも従順な犬として振舞っていた彼が、むき出しの感情を見せることは稀だ。初めて見る泣き顔だった。

(だめな犬ね・・・勝手に泣くなんて)

抱きしめて慰めてあげたいけれど、もうそれすら叶わない。

(意地悪してごめんね)

いつかゼレノイ家と釣り合う身分のご令嬢と幸せな結婚をするであろう貴方に、私を忘れないでいてほしくて。とても残酷な方法で傷つけた。自己満足だし、ひどいことをしたという自覚はある。

でも彼とはずっと同じ関係ではいられなかったのも事実だった。

愛されていると勘違いしそうな愛撫を受けているのに、決して結ばれることはない。無間地獄のような関係を抜け出すためには、なりふり構わず逃げるしかなかった。

その代償として、私は身体を失い、セイは心に傷を負った。

悲劇的にも思えるけれど、コトネを通して見る世界は悪くない。だから不思議と悲しくはなかった。

「ああっ・・・」

愛しい男の喘ぎ声は、なぜこんなにも劣情を誘うのだろう。耳から犯される。欲にまみれた声。コトネがセイの陰茎を自身のナカに埋めたからだ。

いつもの冷徹さをかなぐり捨てて快楽に喘ぐ姿はとても淫らで美しい。

コトネはしばらく彼の上でゆるゆると腰を動かしていたが、つたない動きにもどかしくなったのか、セイがコトネを抱きかかえたままベッドに移動した。

とさ、とベッドに彼女をやさしく横たえる。

上気した顔には欲情した男性特有の色気をたたえていて、彼を見慣れた私ですらゾクリと鳥肌がたった。

セイがコトネの上に覆いかぶさる。そのまま顔を近づけて、耳元で囁いた。

「ナーシャ、今から貴方を愛します。ちゃんと見ててくださいね。」

まるで私に言い聞かせるみたいだった。

ゆっくりと口づける。コトネがすこしだけ舌を出すと、セイがやさしく舌を絡めた。緩慢ともおもえるほどのゆっくりとした舌の動きに、びくびくと身体が反応する。私自身もセイと口づけているかのような快感を覚えた。

器用に舌を蠢かせながら、セイが潤ったままの蜜口に硬くなったモノを少しずつ押し入れた。さっきまでナカに入っていたからか、少しも抗わずにずぶずぶと全て呑み込んだ。

お互いの唇は重なったまま。しばらく舌を弄んでいたセイが、ようやく口づけをやめた。

「・・・痛いですか?」

「だい・・・じょぶ。きもちいい。」

セイの目をまっすぐに見つめて、コトネが笑う。それを見て、またセイがぼろぼろと泣き出した。子供みたい。慌ててコトネが宥めるように彼の頭を撫でる。

「よしよし。よかったね。アナスタシアとひとつになれて。」

「ナーシャも、、、あなたの中いる彼女もそう思ってくれているんでしょうか?」

「わたしがこんなに気持ちいいんだから、アナスタシアもきっと気持ちいいよ。同じからだを共有しているんだし。」

気持ちいい、という言葉に反応してセイの顔が朱に染まる。自分がした行為を思い出したのかもしれない。いまさらだと思うけど。

(コトネと私と、両方愛してちょうだい)

コトネが代わりに「すき」って言ってくれた。「愛している」って。それを聞いてセイがうれしそうに笑う。私は、その姿を見ることができて幸せだと思った。

――おやすみ、セイ。大好きよ。
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