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本編
71 かりそめの静けさ2 【side イヴァン】
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朝一番で、聖ルーシ王国から非公式の使者が公館を訪れた。もちろんアレクの差し金だ。当然ながら俺がアナスタシア嬢を連れ帰ったことはばれていて、拉致の理由を追求し、彼女の身の安全の確保と早急な帰還を要請する書面を携えていた。
「ご苦労だった。下がっていいぞ。」
退室を促すと、俺の返事をもらうまで帰るなと厳命されていると使者が言った。
非公式とはいえ返事待ちなんてどうかと思ったが、真面目そのものという顔の使者は、てこでも動かなさそうだ。事前にラジウスが準備した「アナスタシア嬢をキリル公国へ連れていく理由」を書面にしたため、使者に預ける。詭弁ともいえる内容だったが、正式に婚約者である俺のほうが正当性はある。
魔力で枯れないよう加工された薔薇の花を1輪添えた。彼女は大切に扱っていると示すために。
使者は望む答えを得られず不服そうにしていたが、それ以上は望めないと理解したのか書面を持って去って行った。
朝早くから慌ただしいことだ。使者がいなくなったと思ったら、しばらくして事務官から、転移用魔法陣が午後には用意できるとの連絡があった。
最短の経路で帰国するためには魔法陣は不可欠だ。長距離の転移だと慣れない者は魔力酔いを起こすこともあるので心配だが、今回は致し方あるまい。
ふわぁ、とあくびを噛み殺す。同じ屋根の下にアナスタシア嬢がいると思うと、落ち着いてよく眠れなかった。
ラジウスの口車に乗せられたとはいえ、とんでもないことをした自覚はある。アレクには書面で説明したとはいえ、彼女が目覚めたら本人にもきちんと説明しないといけない。
(その前に食事か。昨夜からろくに食べていないはず)
せっかくだから一緒に食事でもと思い侍女に確認すると、まだ眠っているとのことだった。言霊による束縛は解除されているものの、疲れているのだろう。そのまま寝かせておくよう侍女に指示を出す。
待ちかねたラジウスは様子を見に行ったが、俺はさすがに眠っている女性の部屋に入る勇気はないので書類仕事などをして時間を潰す。騎士団所属ではあるが、ある程度役職が付くと決裁やら会議やらで意外と事務作業は多いのだ。
(帰国したら何をすればよいだろうか?)
彼女を連れ帰るなんて計画はもともとなかった。だから特に予定があるわけではない。アナスタシア嬢を連れ帰っても何か進展があるわけではないが、乗り掛かった舟だ。今更下りるわけにもいかない。
ラジウスに言わせると「身柄の安全確保のために側妃になったのであれば、我が国のほうが安全度は高いと知ってもらいましょう。要は殿下と一緒にいるほうが居心地よく感じてもらえばいいんですよ」と楽観的だ。むろん議会の承認やら破棄手続きが必要やらというのは嘘である。
とりあえず屋敷に着いたら彼女に最高級の生地でサラファンを仕立てよう。あれだけ興味深げに眺めていたのだ、きっと気に入るだろう。「どこかで見たことあるような」と言っていたのは元の世界で似た衣装があったのかもしれない。
彼女のことを考えるだけで頬が緩む。幸せにしてあげたい。できれば自分の手で。
最初は外見の美しさに惹かれた。アレクの思惑に乗る形で婚約をしたが、今では彼女のことをもっと知りたい。
まだ数回しか顔を合わせておらず、会話をしたのもほんのわずかだ。それでも他の女性とは違う、彼女が持つ不思議な空気を好ましく思う。
魅了の魔力に当てられただけかもしれないが、それでも構わないと思った。
「ご苦労だった。下がっていいぞ。」
退室を促すと、俺の返事をもらうまで帰るなと厳命されていると使者が言った。
非公式とはいえ返事待ちなんてどうかと思ったが、真面目そのものという顔の使者は、てこでも動かなさそうだ。事前にラジウスが準備した「アナスタシア嬢をキリル公国へ連れていく理由」を書面にしたため、使者に預ける。詭弁ともいえる内容だったが、正式に婚約者である俺のほうが正当性はある。
魔力で枯れないよう加工された薔薇の花を1輪添えた。彼女は大切に扱っていると示すために。
使者は望む答えを得られず不服そうにしていたが、それ以上は望めないと理解したのか書面を持って去って行った。
朝早くから慌ただしいことだ。使者がいなくなったと思ったら、しばらくして事務官から、転移用魔法陣が午後には用意できるとの連絡があった。
最短の経路で帰国するためには魔法陣は不可欠だ。長距離の転移だと慣れない者は魔力酔いを起こすこともあるので心配だが、今回は致し方あるまい。
ふわぁ、とあくびを噛み殺す。同じ屋根の下にアナスタシア嬢がいると思うと、落ち着いてよく眠れなかった。
ラジウスの口車に乗せられたとはいえ、とんでもないことをした自覚はある。アレクには書面で説明したとはいえ、彼女が目覚めたら本人にもきちんと説明しないといけない。
(その前に食事か。昨夜からろくに食べていないはず)
せっかくだから一緒に食事でもと思い侍女に確認すると、まだ眠っているとのことだった。言霊による束縛は解除されているものの、疲れているのだろう。そのまま寝かせておくよう侍女に指示を出す。
待ちかねたラジウスは様子を見に行ったが、俺はさすがに眠っている女性の部屋に入る勇気はないので書類仕事などをして時間を潰す。騎士団所属ではあるが、ある程度役職が付くと決裁やら会議やらで意外と事務作業は多いのだ。
(帰国したら何をすればよいだろうか?)
彼女を連れ帰るなんて計画はもともとなかった。だから特に予定があるわけではない。アナスタシア嬢を連れ帰っても何か進展があるわけではないが、乗り掛かった舟だ。今更下りるわけにもいかない。
ラジウスに言わせると「身柄の安全確保のために側妃になったのであれば、我が国のほうが安全度は高いと知ってもらいましょう。要は殿下と一緒にいるほうが居心地よく感じてもらえばいいんですよ」と楽観的だ。むろん議会の承認やら破棄手続きが必要やらというのは嘘である。
とりあえず屋敷に着いたら彼女に最高級の生地でサラファンを仕立てよう。あれだけ興味深げに眺めていたのだ、きっと気に入るだろう。「どこかで見たことあるような」と言っていたのは元の世界で似た衣装があったのかもしれない。
彼女のことを考えるだけで頬が緩む。幸せにしてあげたい。できれば自分の手で。
最初は外見の美しさに惹かれた。アレクの思惑に乗る形で婚約をしたが、今では彼女のことをもっと知りたい。
まだ数回しか顔を合わせておらず、会話をしたのもほんのわずかだ。それでも他の女性とは違う、彼女が持つ不思議な空気を好ましく思う。
魅了の魔力に当てられただけかもしれないが、それでも構わないと思った。
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