不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

78 色は思案の外(イロハシアンノホカ)1 【side ルー】

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カリカリカリカリ。ひたすらペンを動かす音が響く。セイは無言で書類を準備し、時折部下に何か指示をだしている。僕は続き部屋にあるテーブルの端に座り、ぶらぶらと足を投げ出して暇を持て余している。じゃまはしていないと思う、たぶん。

しばらくしてカタン、とペンを置く音がした。部屋を覗くと王族のみが使用できる特殊な封蝋を施した封筒が執務机の上に置かれていた。

「いいよ、準備ができたから。迎えに行っておいで。」

少しだけ疲れた顔をして、アレクが僕を見る。いつも僕にはいい顔をしないセイも泣きそうな顔でこちらを見ていた。僕は無言で頷くと、封筒を受け取ってすぐに出発した。

お披露目をしたばかりの側妃が宮殿から姿を消したことは慎重に伏せられている。

もともと後宮内の内情は外の人間には伝わりにくい。王の寵愛が深い側妃が数日姿を見せなくても、逆に嬲られた哀れな側妃が儚くなってしまっても、政治に影響がない限り口の端にのぼることはない。

しかし正妃にもっとも近い立場だと知らしめた直後に妃が姿を消したと明らかになれば話は別だ。王にわが娘を宛がおうという輩に格好の理由を与えることになる上、後見となったゴドノフ卿の立場も微妙になる。大事になる前に連れ戻さなくてはならない。

そんな後付けの理由がなくても、すぐに連れて帰りたい。

シアがいない。それだけで僕の心は穴が開いてじくじくと痛みを訴えた。僕だけじゃなくて、セイも顔色が悪かったし、表情は変わらないけれどアレクもいつもと何か違った。

(はやく、あいたい)

いろいろすっ飛ばして転移でたどり着いたのは、聖ルーシ国内にあるキリル公国の公邸前だった。敷地内は魔力壁が張り巡らされており、許可証がないと国王と言えども(物理的に)入ることはできない。

僕の腕にはキリル公国皇帝直々の許可証が嵌められているので最上級の扱いを受けた。

執事らしき男に案内されて部屋に入ると、イヴァンが意外そうな顔で迎えた。

「一瞬誰かと思った。ルーがこんなにちゃんとした格好で来たのは初めてじゃないか?」

「・・・第一声がそれ? これでも結構怒っているの我慢しているんだけど。」

まあ言いたいこともわかる。いつもイヴァンがいるときは軽装だし真っ黒な服装で怪しいことこの上ない。今日は同じ黒でも光沢がある生地に銀糸で刺繍がされた華やかなマントを身に着けている。胸には龍をかたどった紋章。魔術師の正装で儀式のときくらいしか着ない。シアにも見せたことがないかもしれない。

「それについては申し訳ないと思っている。姫は傷つけずにお返しするつもりでいる。」

「当たり前。万が一シアに何かあったらただじゃおかないから。」

つかつかとイヴァンの前に歩み寄り、びしっと顔先に手紙を突き出す。誰からの手紙か想像がついたのか、イヴァンは顔をしかめた。

「今日は国王の正式な使者というわけか。」

「そう。ついでに言うと、キリル公国そっちの皇帝には他国の人間を無断で召喚に巻き込んだ件および側妃を拉致した件で抗議文書を送り済みだから。」

「よくこの短時間でそこまで手配したな。さすがアレクと言うべきか。」

それについては僕も激しく同意する。今朝イヴァンからの手紙を受け取ってからすぐに彼は文書をしたため、隣国にある公邸まで自ら転移して渡して至急の謁見を申請させ、非公式ということですぐに皇帝に話をつけた。

状況をよく理解していなかったであろう皇帝も、第二皇子との婚姻を結ぶために他国人を召喚の依り代にしたことについては謝罪してくれた。ついでにこの公館に入るための許可証も用意してもらったというわけだ。

そして僕を国王からの使者として公邸に入る正当な理由まで準備してくれたんだ。頭が下がる。

「で、シアは?」

「・・・今支度中だ。あと1時間ほどしたらこちらに来るはずだから待ってくれ。」

不自然なくらいあさっての方向に視線を逸らせながら、イヴァンがごにょごにょと答えた。なぜか耳が赤い。常に腹の探り合いをしているような環境にいながらこの素直さ。どういう育ち方をするとこんな人間が出来上がるのかと改めて感心する。

直視できないなんて、何か隠していると白状しているようなものだ。

嫌な予感がしてシアの魔力を辿ろうと気配を探る。屋敷自体は魔力壁で保護されており外部からの脅威には強固だが、中に入ってしまえば意外と護りは脆い。馴染みがある彼女の気配を感じると同時に、違う誰かの魔力がシアの魔力に混じっているのを感じた。

ぴくりと警戒のアンテナが最大になる。

(確認しなくてもわかる、異世界の魔力だ)

彼女の魔力とは違う、異物のようなそれに生理的嫌悪を感じる。シアみたいに暖かくて光にあふれたものではなく、禍々しい闇を感じる異質な力。

「・・・シアになにしたの?」

自分でも驚くくらい低い声でイヴァンに問いただす。イヴァンはあきらめたように長く息を吐くと、答えた。

「魔力制御を教えているんだと。」

誰が、とは敢えて言わなかった。

「わざわざ同じ立場の相手を使って?」

「そこまでわかるのか、さすがだな。ああ、確かにラジウスは異世界召喚者よばれたものだ。」
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