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本編
79 色は思案の外(イロハシアンノホカ)2 【side ルー】
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イヴァンの言葉を聞き、知らず唇を噛み締めていたらしい。口の中に血の味が広がった。
異世界から呼び寄せられた魂を持つ者。それがシアだけじゃないと頭では分かっていたけれど、こんな身近にいるとは思わなかった。
いらいらする。ふたつの魔力が混じるようなことなんて、体を繋げるか、何度もキスして唾液を飲ませるくらいしか考えられない。考えたくないのに何をしたのか想像できてしまう。知らない誰かがシアにキスしたと思うと頭が沸騰しそうになる。
僕のものなのに、勝手に余計な魔力を流したラジウスとかいう相手に強い憤りを感じる。
やつあたりだと分かっているけどシアにも怒りが湧く。僕のこと好きだって言っていたのに。僕とキスしたいって。なのに。
相手が同じ立場だと知ってほだされたのか。
シアは性的な快楽に弱くて抗えないことはよくわかっている。だからこそ彼女が檻に入らざるを得ない状況を用意していたのに。
ああ、もう考えたくない。このままだと魔力が暴発しそうだ。
「とにかく、なるべく早くシアは連れて帰るからね。」
簡潔にそれだけ言うと、用意された席に座り、ぐるりと周りを見渡した。
部屋の真ん中には、今朝灰にしたのと同じバラの花が飾られていた。部屋の天井や家具にはキリル公国の伝統的な装飾文様が彫り込まれている。植物をモチーフにした文様は精緻なもので、皇族が過ごす部屋に相応しい質の高いものだ。
広々とした部屋には軽食の準備が整えられていて、数人の侍女が控えている。まもなくシアが部屋に来て食事をする予定なんだろう。その後で彼女を連れて帰ればいい、いちおうそこまでは妥協することにする。
もちろん準備されているであろう転移の魔法陣なんて使わせる気はない。
「待て、ルー。できれば彼女はうちの国に連れていきたい。あんなかたちで王宮に閉じ込めたら息が詰まる。少しくらい息抜きさせてやってもいいだろう。」
「へえ、それでそのまま返さないって? 彼女が息が詰まるなんて誰が言った?」
あたかも彼女を理解しているかのようなイヴァンの言葉にカチンとくる。言いたいことはわかるけど、それはイヴァンが言うことじゃない、そんな気持ちを込めて睨む。
「僕はシアをすぐに連れ帰りたい。外の世界なんて見せたくないし、見せなくていい。いいんだよ、シアは何も知らなくて。僕がずっと大事にするんだからっ。」
吐き捨てるように言うと、怒った様子もなく、ぽつりとイヴァンが尋ねた。
「だから魔力制御の方法も教えなかった?」
「・・・」
無言は肯定。シアが魔力制御の方法を覚えてしまったら、僕がいなくても大丈夫になってしまう。今のままであれば彼女は僕がいないと生きていけない。だからのらりくらりと彼女に魔力制御の方法は教えないようにしてきたし、アレクからも何も教えないよう釘を刺した。
彼女から魔力の使い方を教えてほしいと乞われたときも、色よい返事だけして何も教えなかった。
どろどろとした僕の気持ちをみ取ったのか、イヴァンは諭すかのような視線を向けた。
「アレクも大概だが、ルー、お前も子供じみてるな。彼女のことを考えるならば、手助けしてやるべきだ、違うか?」
「同じ立場の転移者をあてがって? 何考えてるの? 同郷者として気を許しちゃうじゃないか、なんでそんな余計なことするの?」
なんだか泣き出したくなってきた。僕が望むのはたった一人だけなのに、なんで皆邪魔をするんだろう。
シアは何も知らなくていい、何もできなくていい。僕にだけ笑いかけて、キスしてくれればそれでいい。
イヴァンはそんな僕を見て、困ったような顔をした。少し考えた後、わざわざ僕の隣に座って小さな子どもにするようにポンポンと頭を撫でた。
「ちょっと、子ども扱いしないでよ。」
抗議は聞き入れられず、さらに僕の頭をわしわしとかき回す。そして独り言のように呟いた。
「あの主をしてこの臣下あり、と言ったところか。魔力が強すぎると周りが見えなくなるのか。」
半ば涙目で睨むと、イヴァンは僕の目を覗き込むようにして見た。
「彼女は必ずお前たちのところに返すから。だから3日だけ、彼女に自由を与えてやってくれないか? もちろんルーも一緒にいて構わない。ルーだって街中に出たことなんて数えるほどしかないだろう?」
確かに僕は幼いころから宮廷魔術師として働いてきたし、この見た目は周りの人間に忌避されるので城下に出たことなんてほとんどなかった。もちろんキリル公国にも行ったことはない。シアと一緒に街を歩いたら楽しいかもしれないと、少しだけ心が傾いた。
「うちは聖ルーシよりも魔力や薬草の活用も進んでいる。ルーにとっても得ることは多いと思うぞ。」
「・・・シアと一緒にいてもいいの?」
「もちろん。俺は姫と共に過ごしたいが束縛したいわけじゃない。姫さえ望むなら夜も同じ部屋を用意しよう。」
「じゃあ、3日だけ。旅行に行ったと思っておくから。シアは絶対連れて帰るから。」
僕の返事に満足したのか、イヴァンが小さく息を吐いた。
しばらくして、シアが部屋に入ってきたのを見て僕は息を吞んだ。
(まさかこんな短時間で制御できるようになったなんて)
今まで溢れ出ていた魔力がすっかり落ち着いている。隣には、当たり前のようにラジウスとかいう異世界召喚者が付き添っていた。
ようやくシアに逢えたという安堵と、知らない相手と何をしていたのかという怒りがごちゃまぜになる。ふたりの魔力が交じり合った気配を目の当たりにすると、理不尽だけど目の前の彼女を詰りたい気分になる。
(冷静に、冷静に)
溢れそうになる感情に蓋をしようとして唇を引き結び、無表情を貫く。僕は親しそうなふたりの姿を見たくなくて、思いっきり視線を逸らした。
異世界から呼び寄せられた魂を持つ者。それがシアだけじゃないと頭では分かっていたけれど、こんな身近にいるとは思わなかった。
いらいらする。ふたつの魔力が混じるようなことなんて、体を繋げるか、何度もキスして唾液を飲ませるくらいしか考えられない。考えたくないのに何をしたのか想像できてしまう。知らない誰かがシアにキスしたと思うと頭が沸騰しそうになる。
僕のものなのに、勝手に余計な魔力を流したラジウスとかいう相手に強い憤りを感じる。
やつあたりだと分かっているけどシアにも怒りが湧く。僕のこと好きだって言っていたのに。僕とキスしたいって。なのに。
相手が同じ立場だと知ってほだされたのか。
シアは性的な快楽に弱くて抗えないことはよくわかっている。だからこそ彼女が檻に入らざるを得ない状況を用意していたのに。
ああ、もう考えたくない。このままだと魔力が暴発しそうだ。
「とにかく、なるべく早くシアは連れて帰るからね。」
簡潔にそれだけ言うと、用意された席に座り、ぐるりと周りを見渡した。
部屋の真ん中には、今朝灰にしたのと同じバラの花が飾られていた。部屋の天井や家具にはキリル公国の伝統的な装飾文様が彫り込まれている。植物をモチーフにした文様は精緻なもので、皇族が過ごす部屋に相応しい質の高いものだ。
広々とした部屋には軽食の準備が整えられていて、数人の侍女が控えている。まもなくシアが部屋に来て食事をする予定なんだろう。その後で彼女を連れて帰ればいい、いちおうそこまでは妥協することにする。
もちろん準備されているであろう転移の魔法陣なんて使わせる気はない。
「待て、ルー。できれば彼女はうちの国に連れていきたい。あんなかたちで王宮に閉じ込めたら息が詰まる。少しくらい息抜きさせてやってもいいだろう。」
「へえ、それでそのまま返さないって? 彼女が息が詰まるなんて誰が言った?」
あたかも彼女を理解しているかのようなイヴァンの言葉にカチンとくる。言いたいことはわかるけど、それはイヴァンが言うことじゃない、そんな気持ちを込めて睨む。
「僕はシアをすぐに連れ帰りたい。外の世界なんて見せたくないし、見せなくていい。いいんだよ、シアは何も知らなくて。僕がずっと大事にするんだからっ。」
吐き捨てるように言うと、怒った様子もなく、ぽつりとイヴァンが尋ねた。
「だから魔力制御の方法も教えなかった?」
「・・・」
無言は肯定。シアが魔力制御の方法を覚えてしまったら、僕がいなくても大丈夫になってしまう。今のままであれば彼女は僕がいないと生きていけない。だからのらりくらりと彼女に魔力制御の方法は教えないようにしてきたし、アレクからも何も教えないよう釘を刺した。
彼女から魔力の使い方を教えてほしいと乞われたときも、色よい返事だけして何も教えなかった。
どろどろとした僕の気持ちをみ取ったのか、イヴァンは諭すかのような視線を向けた。
「アレクも大概だが、ルー、お前も子供じみてるな。彼女のことを考えるならば、手助けしてやるべきだ、違うか?」
「同じ立場の転移者をあてがって? 何考えてるの? 同郷者として気を許しちゃうじゃないか、なんでそんな余計なことするの?」
なんだか泣き出したくなってきた。僕が望むのはたった一人だけなのに、なんで皆邪魔をするんだろう。
シアは何も知らなくていい、何もできなくていい。僕にだけ笑いかけて、キスしてくれればそれでいい。
イヴァンはそんな僕を見て、困ったような顔をした。少し考えた後、わざわざ僕の隣に座って小さな子どもにするようにポンポンと頭を撫でた。
「ちょっと、子ども扱いしないでよ。」
抗議は聞き入れられず、さらに僕の頭をわしわしとかき回す。そして独り言のように呟いた。
「あの主をしてこの臣下あり、と言ったところか。魔力が強すぎると周りが見えなくなるのか。」
半ば涙目で睨むと、イヴァンは僕の目を覗き込むようにして見た。
「彼女は必ずお前たちのところに返すから。だから3日だけ、彼女に自由を与えてやってくれないか? もちろんルーも一緒にいて構わない。ルーだって街中に出たことなんて数えるほどしかないだろう?」
確かに僕は幼いころから宮廷魔術師として働いてきたし、この見た目は周りの人間に忌避されるので城下に出たことなんてほとんどなかった。もちろんキリル公国にも行ったことはない。シアと一緒に街を歩いたら楽しいかもしれないと、少しだけ心が傾いた。
「うちは聖ルーシよりも魔力や薬草の活用も進んでいる。ルーにとっても得ることは多いと思うぞ。」
「・・・シアと一緒にいてもいいの?」
「もちろん。俺は姫と共に過ごしたいが束縛したいわけじゃない。姫さえ望むなら夜も同じ部屋を用意しよう。」
「じゃあ、3日だけ。旅行に行ったと思っておくから。シアは絶対連れて帰るから。」
僕の返事に満足したのか、イヴァンが小さく息を吐いた。
しばらくして、シアが部屋に入ってきたのを見て僕は息を吞んだ。
(まさかこんな短時間で制御できるようになったなんて)
今まで溢れ出ていた魔力がすっかり落ち着いている。隣には、当たり前のようにラジウスとかいう異世界召喚者が付き添っていた。
ようやくシアに逢えたという安堵と、知らない相手と何をしていたのかという怒りがごちゃまぜになる。ふたりの魔力が交じり合った気配を目の当たりにすると、理不尽だけど目の前の彼女を詰りたい気分になる。
(冷静に、冷静に)
溢れそうになる感情に蓋をしようとして唇を引き結び、無表情を貫く。僕は親しそうなふたりの姿を見たくなくて、思いっきり視線を逸らした。
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