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本編
80 色は思案の外(イロハシアンノホカ)3 【side ルー】
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昨夜から何も食べていないというシアのために用意されたのは、いろとりどりのフルーツを使ったサラダとマフィン、それに彼女が気に入っているランゴルベリーのハーブティだった。
ランゴルベリーのハーブティは肌に良いと言われていて、美容にうるさい宮廷の女性達にも人気の品だ。もちろんシアもよく口にしていた。甘い香りがするのに味は甘くなくて、騙された気がすると言ったら大笑いされたのでよく憶えている。
まるで彼女の好みを調べたかのようなラインナップ。他意はないのだろうけど、気に入らない。
脇に置かれたワゴンには、ひとくちで食べられるプチフールが並んだ3段トレイが置かれていた。どれも見た目に華やかで、いかにも女性受けしそうなデコレーションだ。
案の定、それを見たシアは、きらきらと目を輝かせてテーブルに置かれた料理とワゴンとをちらちらと眺めていた。
「姫はこういう甘いの、お好きですか?」
聞かなくても答えはわかっているだろう問いかけに、シアは笑顔でこくりと頷く。それを見たラジウスが満足そうな顔をしているのを見て、ちりりと胸が痛んだ。
(なんだろう、何もかもが気に入らない)
別にシアが好きな食べ物が食卓に並んでいたって、それを見たラジウスがどんな顔をしたって、別に大したことじゃない。でも、僕の関係ないところでシアにうれしそうな顔はしてほしくなかったし、ラジウスなんかにあんな顔をさせたくなかった。
イヴァンに安請け合いせずに、さっさと帰ると言えばよかったと早くも後悔する。そんな僕の気持ちを知らないシアはこちらを向き、何か問いたげに僕の表情を伺った。
「何か御用ですか? アナスタシア様。」
余所行きの作り笑顔を貼り付けて、僕はシアに微笑む。いつもならば決して見せない、他人行儀な微笑み。
「あ・・・いえ、なんでもない・・です。」
僕の様子がいつもとは違うことに、ようやく気付いたようだった。シアは小声で返事をすると、目に見えて悲しそうな顔をした。
一方的なやつあたりだと自分でもわかっている。なのに僕の言葉に彼女が傷ついたことに満足した。
どうしよう。もっと彼女を傷つけたい。シアのことは大好きだけど、誰かと一緒に幸せな顔をするくらいだったら、僕の手で不幸にしたいと思う。
自分の気持ちがわからなくて、両手を強く握りしめる。
──ああ、これが恋だというのならば、なんてままならない気持ちだろうか。
食事中、シアははじめのうちは、ちらちらとこちらを伺っていた。しかし僕が何の反応も示さなかったため、途中からは目を合わすのをやめた。話を振るのはもっぱらラジウスで、ときどきイヴァンやシアが答える。僕は最小限の相槌だけ打って、後はひたすら無言を貫いた。
「街をご案内する際には殿下のお気に入りのカフェにもお連れしますから楽しみにしてくださいね。殿下がよく行かれるイシュタル通りのカフェは、季節限定のケーキもありましたよね?」
「ああ、あの店ならば姫も気に入るだろう。あの辺りであれば貴族街で安全だし女性が好みそうなアクセサリーも売っていたと思う。ルーが行きたい場所にも連れていくから考えておいてくれ。」
「・・・お気遣いいただきありがとうございます。殿下。」
イヴァンが気を使って話を振ってくれるが、当たり障りのない返事だけしておく。拗ねているだけだと分かっているのだろう、他人行儀な僕の態度に対してイヴァンは軽く溜息をついただけで何も言わなかった。
「えー、姫もっと食べましょうよ。このチョコレートケーキはプラリネペーストが層になっていて絶品なんですから。」
「ありがとう、でも、もうおなかいっぱいになったから。」
ラジウスの勧めを断るシアをちらりと横目で伺う。それほど量は口にしていないはずなのに、好物であろうケーキの数々を目の前にして、もういらないという。
いつもより食が細いことが気になるが、口には出さずに呑み込んだ。
ランゴルベリーのハーブティは肌に良いと言われていて、美容にうるさい宮廷の女性達にも人気の品だ。もちろんシアもよく口にしていた。甘い香りがするのに味は甘くなくて、騙された気がすると言ったら大笑いされたのでよく憶えている。
まるで彼女の好みを調べたかのようなラインナップ。他意はないのだろうけど、気に入らない。
脇に置かれたワゴンには、ひとくちで食べられるプチフールが並んだ3段トレイが置かれていた。どれも見た目に華やかで、いかにも女性受けしそうなデコレーションだ。
案の定、それを見たシアは、きらきらと目を輝かせてテーブルに置かれた料理とワゴンとをちらちらと眺めていた。
「姫はこういう甘いの、お好きですか?」
聞かなくても答えはわかっているだろう問いかけに、シアは笑顔でこくりと頷く。それを見たラジウスが満足そうな顔をしているのを見て、ちりりと胸が痛んだ。
(なんだろう、何もかもが気に入らない)
別にシアが好きな食べ物が食卓に並んでいたって、それを見たラジウスがどんな顔をしたって、別に大したことじゃない。でも、僕の関係ないところでシアにうれしそうな顔はしてほしくなかったし、ラジウスなんかにあんな顔をさせたくなかった。
イヴァンに安請け合いせずに、さっさと帰ると言えばよかったと早くも後悔する。そんな僕の気持ちを知らないシアはこちらを向き、何か問いたげに僕の表情を伺った。
「何か御用ですか? アナスタシア様。」
余所行きの作り笑顔を貼り付けて、僕はシアに微笑む。いつもならば決して見せない、他人行儀な微笑み。
「あ・・・いえ、なんでもない・・です。」
僕の様子がいつもとは違うことに、ようやく気付いたようだった。シアは小声で返事をすると、目に見えて悲しそうな顔をした。
一方的なやつあたりだと自分でもわかっている。なのに僕の言葉に彼女が傷ついたことに満足した。
どうしよう。もっと彼女を傷つけたい。シアのことは大好きだけど、誰かと一緒に幸せな顔をするくらいだったら、僕の手で不幸にしたいと思う。
自分の気持ちがわからなくて、両手を強く握りしめる。
──ああ、これが恋だというのならば、なんてままならない気持ちだろうか。
食事中、シアははじめのうちは、ちらちらとこちらを伺っていた。しかし僕が何の反応も示さなかったため、途中からは目を合わすのをやめた。話を振るのはもっぱらラジウスで、ときどきイヴァンやシアが答える。僕は最小限の相槌だけ打って、後はひたすら無言を貫いた。
「街をご案内する際には殿下のお気に入りのカフェにもお連れしますから楽しみにしてくださいね。殿下がよく行かれるイシュタル通りのカフェは、季節限定のケーキもありましたよね?」
「ああ、あの店ならば姫も気に入るだろう。あの辺りであれば貴族街で安全だし女性が好みそうなアクセサリーも売っていたと思う。ルーが行きたい場所にも連れていくから考えておいてくれ。」
「・・・お気遣いいただきありがとうございます。殿下。」
イヴァンが気を使って話を振ってくれるが、当たり障りのない返事だけしておく。拗ねているだけだと分かっているのだろう、他人行儀な僕の態度に対してイヴァンは軽く溜息をついただけで何も言わなかった。
「えー、姫もっと食べましょうよ。このチョコレートケーキはプラリネペーストが層になっていて絶品なんですから。」
「ありがとう、でも、もうおなかいっぱいになったから。」
ラジウスの勧めを断るシアをちらりと横目で伺う。それほど量は口にしていないはずなのに、好物であろうケーキの数々を目の前にして、もういらないという。
いつもより食が細いことが気になるが、口には出さずに呑み込んだ。
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