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本編
81 色は思案の外(イロハシアンノホカ)4 【side ルー】
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一見和やかに見える朝食を摂った後、転移の陣を使ってキリル公国に入った。
座標があるため難易度が高い術式ではないものの、これだけの距離をこの人数で動かせるのはキリル公国ならではだと思う。強度を高める工夫が施されているはずだがすぐにはわからない。
いずれにしても魔力活用の技術差を目の当たりにしたのは、自分にとっていい経験になった。よその国の転移陣を利用する機会なんて滅多にないので、これだけでも来た甲斐があったと思う。
合わせて3つの陣を経由してから到着したのは、キリル公国内にある迎賓館だった。
とはいっても客はシアと僕だけなので大掛かりな催しなどはない。慣れない転移で疲れているであろうシアの身を案じたイヴァンが早めに休むことを提案し、これ幸いと便乗して部屋に籠もる。
用意されたのは王侯貴族向けの貴賓室。2部屋が続きになっており、寝室のドアが繋がって行き来できるようになっていた。
部屋に入る前に、皇帝夫妻と皇太子が謝罪と称してわざわざ挨拶に訪れたのにはさすがに驚いた。アナスタシアに異世界の魂を入れたのはあくまでも神殿側の独断だと言っていたが、本当のところはわからない。それでも真摯に謝罪にくる皇族なんてめったにいないし、悪いと思っていることは分かった。
さすがに皇帝は、もう少し何かを知っているように見えたけど、邪悪なものには思えなかったから黙っておいた。
支配者といっても、色々なんだなあと思う。アレクはああ見えて理性的かつ合理的だし・・・イヴァンはお人よしとしか言いようがない。困っている人を見れば見境なく助けようとするし、僕みたいな異端に対しても分け隔てなく接してくれる。皇太子ではないとはいえ、あんなんで大丈夫かよというレベルだ。
今回初めて謁見したキリル公国の皇帝夫妻と皇太子も、実直そうで、きちんと礼儀を尽くしてくれた。だから、ある程度信用してもいい気がする。
自国の前国王のひどさが身に染みているだけに、この国の皇族がえらくまともに見える。こういうまともな皇帝が治める国だからこそ、異世界召喚なんて危ない橋を渡り続けてもちゃんとやっていけるんだろう。
早々に侍女がシアを浴室に連れて行ったので、その間に持ち込んだ書類を手元に広げた。出発前にアレクへ飛ばした伝令蝶の返事を受け取ったので、ざっと中身を確認しておく。キリル公国に滞在する件は事後承諾だが、3日で返すとイヴァンに正式に約束させたので良しとされた。
『くれぐれも、気は抜かずにシアと共に戻っておいで。』
アレクからの返事は、そんな言葉で締めくくられていた。
今のところ特に問題はない。イヴァン達と街を見学して、元のアナスタシア嬢が置いて行った荷物を受け取って、帰るだけ。そう、それだけだ。
順調に行き過ぎて、不思議と気持ち悪さを感じる。
─なんで、シアをさらったのに、こんなにすぐに帰してくれるんだろう?
─本当に衝動的な行動だったんだろうか?
王宮魔術師としての勘が、何かがおかしいと訴える。でも考える限り不審な点はないし、イヴァンの態度も特に問題がないように見える。
改めて状況整理をしようと思っていたのに、その気持ちは彼女の姿を見た途端にもろくも崩れ去った。
「あの・・・ルー、ちょっといい?」
向けられた声に顔を上げると、心もとない表情でシアがこちらを見つめていた。
身体に張り付くような薄手のドレスは、脱いだ姿を容易に想像させる。湯上りだからか、艶のある唇も、ばら色に上気した頬も、いつも以上に艶めかしい。
加えて理性を蕩かすような強い、甘い香りが脳を直撃する。
僕はあっけなく理性を手放した。
座標があるため難易度が高い術式ではないものの、これだけの距離をこの人数で動かせるのはキリル公国ならではだと思う。強度を高める工夫が施されているはずだがすぐにはわからない。
いずれにしても魔力活用の技術差を目の当たりにしたのは、自分にとっていい経験になった。よその国の転移陣を利用する機会なんて滅多にないので、これだけでも来た甲斐があったと思う。
合わせて3つの陣を経由してから到着したのは、キリル公国内にある迎賓館だった。
とはいっても客はシアと僕だけなので大掛かりな催しなどはない。慣れない転移で疲れているであろうシアの身を案じたイヴァンが早めに休むことを提案し、これ幸いと便乗して部屋に籠もる。
用意されたのは王侯貴族向けの貴賓室。2部屋が続きになっており、寝室のドアが繋がって行き来できるようになっていた。
部屋に入る前に、皇帝夫妻と皇太子が謝罪と称してわざわざ挨拶に訪れたのにはさすがに驚いた。アナスタシアに異世界の魂を入れたのはあくまでも神殿側の独断だと言っていたが、本当のところはわからない。それでも真摯に謝罪にくる皇族なんてめったにいないし、悪いと思っていることは分かった。
さすがに皇帝は、もう少し何かを知っているように見えたけど、邪悪なものには思えなかったから黙っておいた。
支配者といっても、色々なんだなあと思う。アレクはああ見えて理性的かつ合理的だし・・・イヴァンはお人よしとしか言いようがない。困っている人を見れば見境なく助けようとするし、僕みたいな異端に対しても分け隔てなく接してくれる。皇太子ではないとはいえ、あんなんで大丈夫かよというレベルだ。
今回初めて謁見したキリル公国の皇帝夫妻と皇太子も、実直そうで、きちんと礼儀を尽くしてくれた。だから、ある程度信用してもいい気がする。
自国の前国王のひどさが身に染みているだけに、この国の皇族がえらくまともに見える。こういうまともな皇帝が治める国だからこそ、異世界召喚なんて危ない橋を渡り続けてもちゃんとやっていけるんだろう。
早々に侍女がシアを浴室に連れて行ったので、その間に持ち込んだ書類を手元に広げた。出発前にアレクへ飛ばした伝令蝶の返事を受け取ったので、ざっと中身を確認しておく。キリル公国に滞在する件は事後承諾だが、3日で返すとイヴァンに正式に約束させたので良しとされた。
『くれぐれも、気は抜かずにシアと共に戻っておいで。』
アレクからの返事は、そんな言葉で締めくくられていた。
今のところ特に問題はない。イヴァン達と街を見学して、元のアナスタシア嬢が置いて行った荷物を受け取って、帰るだけ。そう、それだけだ。
順調に行き過ぎて、不思議と気持ち悪さを感じる。
─なんで、シアをさらったのに、こんなにすぐに帰してくれるんだろう?
─本当に衝動的な行動だったんだろうか?
王宮魔術師としての勘が、何かがおかしいと訴える。でも考える限り不審な点はないし、イヴァンの態度も特に問題がないように見える。
改めて状況整理をしようと思っていたのに、その気持ちは彼女の姿を見た途端にもろくも崩れ去った。
「あの・・・ルー、ちょっといい?」
向けられた声に顔を上げると、心もとない表情でシアがこちらを見つめていた。
身体に張り付くような薄手のドレスは、脱いだ姿を容易に想像させる。湯上りだからか、艶のある唇も、ばら色に上気した頬も、いつも以上に艶めかしい。
加えて理性を蕩かすような強い、甘い香りが脳を直撃する。
僕はあっけなく理性を手放した。
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