不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

87 瑠璃の都で何を知る1

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人目を避けるために馬車を下り、城門をくぐって数分ほど坂道を上ると、そこには想像以上に活気がある街並みがあった。

ざわ、ざわわと多くの人々が目の前を行きかう。赤、青、オレンジと色鮮やかな色に目がくらむ。

「わあ、これがキリル公国の皇都シャールブルクなんだ。」

きょろきょろとあたりを見渡したわたしは、感嘆の声をもらした。

テレビで見るヨーロッパの街並みのような静かな風景を想像していたわたしは、180度異なる街の様子に驚くほかない。

大通りの両端には店が並び、店頭には所狭しと品物が並ぶ。見たことがないような果物も、ガラスであろうチープなアクセサリーも、菓子も、パンも、香辛料も、たくさん。

バザール、というのがぴったりくるような場所だ。
 
平日の午前中だというのに、ものすごく人でにぎわっている。肌も目も髪も、さまざまな色合いの人がいて、人の往来が盛んだというのが窺えた。話に聞いていたとおり女性は少なく、ほとんどが男性だ。ただその中にも、複数の男性を伴って歩く女性の姿がちらほら目につく。

初めて見る光景に言葉も忘れて見とれる。手をつないでくれるルーがいなかったら、あっというまに迷子だろう。

「シア様は、城下に出られるのは初めてなのですね。女性に人気のお店もたくさんありますので、後程ご案内いたしますね。」

そう言ってくれるのは、今朝支度を手伝ってくれたメイドのセイラだ。女性のお付きがいたほうが都合がよいだろうということで、ついて来てくれることになった。彼女はシャールブルクの裕福な商家のお嬢様で、土地勘もあり情報にも詳しいらしい。

「ありがとう。なにも知らなくて申し訳ないのだけど、よろしくね。」

なにせシャールブルクどころか、城の外に出るのだって初めてだ。もとのアナスタシアの知識で必要最小限の商慣習は理解しているとは思うが、それでもほぼ無知な状態に違いない。なにかあったらセイラを頼ろうと心に誓う。

大丈夫、というように隣にいるルーがぎゅっと手を握った。

「シャールブルクは瑠璃の都って呼ばれているんですよ。ほら、あそこにも壁一面に青のタイルが。」

道案内をしてくれながら、あれこれ教えてくれるのはラジウスだ。セイラのように地元ではないものの、よくお忍びで遊びにくるらしい。

いわれてみると、あちこちに青いタイルや塗料が使われている。

物珍しさにきょろきょろとしながら歩く。まるで保護者のように前を歩くイヴァンとラジウスは、お忍び慣れしているのか、目立った様子もなく自然に街の人に溶け込んでいた。

ふたりとも顔立ちが整っているので女性から注目されはするが、まさか皇子とその侍従だとは思われていないだろう。わたしの少し後ろを歩くセイラは地元なだけあって、あちこちで店の人から声をかけられていた。

「こんなに活気があって栄えているとは思わなかった。」

写真が撮れないのが悔やまれる。今日1日だけなんてもったいない、次はセイ達と来たいと思いながら、南国に咲くような鮮やかな花が飾られた店を見つけた。植物系の材料を扱う店のようだ。

ルーが店内に置かれている商品の説明書きを見ようと立ち止まったところで、イヴァンがショーウィンドウに目を向けたまま隣に立つ。

「ここは魔術に使う触媒を扱う店だ。最先端の技術で、シャールブルグに2軒しかない。」

「へええ、すごい。」

ルーに向けた言葉だったのかもしれないが、商品に気を取られているルーは返事をする気が皆無だったので、代わりに返事をしておいた。

「シャールブルグの発展は、平和があってこそだ。」

あれ、わたしに言っているのかなと隣のイヴァンを見上げる。彼は眉を寄せて少し困ったような表情をしていた。

「もう100年近く戦争がないのは、聖ルーシとの同盟に加えて強い魔術が抑止力になっている。そして魔術研究のひとつとして異世界からの召喚も長い間続けられている。たぶん、10年後に、また。」

「ちょっと主・・・、なにも今そんなこと言わなくても──」

後ろで発言を止めようとするラジウスを手で制しながら、イヴァンは続ける。

「すまん。今だから言うべきだと思った。元のアナスタシア嬢がどういう気持ちで召喚を受け入れたのかは俺は知らん。だが、姫も、もちろんラジウスも、この世界に来てくれたからこそ今の平和がある。本当に感謝している。」

そう言って、わたしのほうに向きなおって、深く頭を下げた。

たくさんの人がせわしなく行き来する通りなので、店の前で立っているわたしたちに注意を向ける人はいない。それにイヴァンの声はとても小さく、ちょっと離れた場所にいるセイラにすら何を言っているのか聞こえないくらいだ。

わざわざ今、こんなことを言ったのは。今を逃すと言う機会はないと思ったのか、それとも言わずにはいられなかったのかは、わからない。でも考えなしに召喚をしているわけではないというのは、なんとなくわかった。

「・・・悪いことばかりじゃないと、思っていますよ。」

同じように、小さな声でイヴァンに告げる。その言葉を聞いたイヴァンは、ほっとしたように息を吐いた。絶対聞こえているであろうルーは、あえて無視を決め込んだのか、なにも言わずにショーウィンドウを眺めている。ラジウスは、それ以上何も言わなかった。
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