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本編
89 瑠璃の都で何を知る3
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案内されたのは、皇室御用達の看板を掲げた大きな店だった。入るとすぐに、ばっちりとメイクをして美しいドレスを着た店主らしき女性がやってきて、イヴァンに挨拶した。
「久しいな、店主。相変わらず繁盛しているようで何よりだ。」
「こちらこそ、いつも贔屓にしていただきありがとうございます。先日ご連絡いただいたお嬢様の件ですよね。準備が整っておりますので、どうぞ、こちらへ。」
にっこりと笑い、奥へと促される。
店頭には何もなくて何のお店だろうと思ったが、店内に入ると、ものすごい種類の生地が整然と並んでいて圧倒される。青系の布地だけでも通路の端から端まであるんじゃないかというくらいで、素材違い、柄違いでものすごいバリエーションだ。
わたしが驚いているのを見た店主は、「店には売れ筋だけおいていますので、バックヤードにはもっと別の種類もありますよ。」と教えてくれた。
「ここは皇族の方がよく利用される仕立屋ですよ。いつもは城に来ていただけるんですけど、今日はせっかくだから伺うことにしようって殿下が。」と、セイラがこそっと耳打ちする。なるほど。
糸やボタン、きらきらと輝くビジューなども豊富に揃っていて、見ているだけで時間を忘れそうだ。
案内されるまま店の奥に進んでいくと、VIP用と思われるサロンスペースへと辿り着いた。ラックには何着もの服がハンガーにかかっていた。どれも似たデザインだった。
「この前の夜会で、俺が来ていた民族衣装を褒めてくれただろう? 記念にぜひ着てもらいたいと思ってな。」
わたしが見たことがあったのは男性向けのもので、女性向けは目の前にあるデザインなのだそう。
律儀に説明してくれるイヴァンの横で、なぜかラジウスがにやにやと笑っているのが気になる。しかし、そんなことに気を取られる間もないくらい流れ作業のように服のオーダーは進んだ。お店の女性がてきぱきとわたしを試着室に案内してベースとなる服を着せてくれる。
「こちらの型が標準的な形ですので、まずはこちらをお召しいただけますか?」
着せてもらったのは、この国の伝統衣装だという、白いブラウスにジャンバースカートを合わせるようなデザインの衣装だった。元の型紙を基準にしてサイズを調整しつつ刺繍を足していくスタイルで、これなら今から仕立てても帰国時に間に合うとのこと。
下に合わせるブラウスも、生成色の素朴な感じの生地のほか、さまざまな色が選べるようになっていた。レース素材もあって、身に着けると繊細な模様が映えて非常に美しく一目で気に入った。
白だとかわいい感じだけど自分には似合わなさそうだったので、黒に見えるくらい濃い青を選んだ。スカートも同色系で、刺繍だけが鮮やかな色彩だ。植物をモチーフにしているが、それぞれに意味があり組み合わせるのだと店主に教えてもらった。
ついでのように、耳元で「殿下が女性に服を贈られるのは初めてですよ。」と告げられる。恋人と勘違いされていそうだけど、否定する機会を逃してしまった。
わたしばかりで男性陣が退屈しないかと心配に思ったが、みなそれぞれ何かしらの商品を見て時間を潰してくれていた。そのためセイラとお店の人と納得いくまで相談して、気に入った生地と刺繍を選ぶことができた。
「殿下、ありがとうございます!」
試着した衣装を着たまま、満面の笑みでお礼を言うと、イヴァンは若干顔を赤らめながら、「いや、、喜んでもらえれば何よりだ」と小さい声で返事をした。少し照れたように、でもうれしそうに告げるイヴァンの顔を見ていると、心がほんわかする。なんというか、本当にいい人だ。
結構なお値段がするのではないかと思うが、お言葉に甘えてお代は支払っていただく。
店を出た後も、大きな本屋に寄ってくれたり(魔石の素材が載っている図鑑を買ってもらった!)、ルーが見たがった珍しい薬草を扱う店を紹介してくれたりと、わたしたちが満足できるよう何かと配慮してくれて、本当にありがたかった。
「あ、きれい。」
通りを抜けて、道すがら目に止まったのは、さまざまなサイズ、色の石を売っている屋台だった。人通りが多い場所で、何人かの男性が石を手に取っては好みのものを選んでいる。四角く区切られた容器には種類ごとに石が入っていて、アクセサリーパーツのショップを彷彿とさせた。
「これは庶民向けの土産物屋なので、シア様にはお勧めしません。」
セイラは冷たく言い放ち、そのまま通り過ぎようとした。でも、なんとなく心惹かれるものがあってゆっくりめに歩いて物色すると、黄色味がかかった半透明の小さな石が気になった。
思わず足を止め、石を手に取る。
「これは琥珀ですねー。魔力入りの琥珀はうちの国の特産品なんですよ。よかったらおひとついかがですか?」
ラジウスが、まるで店員のような口調でわたしに石を勧め、あっという間にお買い上げとなった。店員さんが手際よく石に穴を開けて革ひもを通してペンダントにしてくれる。
え、買ってもらっていいんだろうかと思ったが、もう遅い。なにせわたしは財布もなければ現金もゼロだから。
「買ってくれてありがとう!」
思わぬプレゼントに対してお礼を言うと、天使のようなほほえみが返ってきた。
「いえいえ、こんなんでよければいくらでも。喜んでもらえてよかったです。」
「すごい、きれい。大事にするね。」
首にかけてもらった琥珀を手に持ち、光にかざしてみるとキラキラと輝いて見えた。以前アレクからブレスレットをもらったときは驚くばかりだったが、今回は純粋にうれしい。
それにしても、自分でお金を持っていないと、こんな些細な買い物もできないと改めて実感した。はやく自分でお金を稼ぐ方法を見つけたいと思う。
「久しいな、店主。相変わらず繁盛しているようで何よりだ。」
「こちらこそ、いつも贔屓にしていただきありがとうございます。先日ご連絡いただいたお嬢様の件ですよね。準備が整っておりますので、どうぞ、こちらへ。」
にっこりと笑い、奥へと促される。
店頭には何もなくて何のお店だろうと思ったが、店内に入ると、ものすごい種類の生地が整然と並んでいて圧倒される。青系の布地だけでも通路の端から端まであるんじゃないかというくらいで、素材違い、柄違いでものすごいバリエーションだ。
わたしが驚いているのを見た店主は、「店には売れ筋だけおいていますので、バックヤードにはもっと別の種類もありますよ。」と教えてくれた。
「ここは皇族の方がよく利用される仕立屋ですよ。いつもは城に来ていただけるんですけど、今日はせっかくだから伺うことにしようって殿下が。」と、セイラがこそっと耳打ちする。なるほど。
糸やボタン、きらきらと輝くビジューなども豊富に揃っていて、見ているだけで時間を忘れそうだ。
案内されるまま店の奥に進んでいくと、VIP用と思われるサロンスペースへと辿り着いた。ラックには何着もの服がハンガーにかかっていた。どれも似たデザインだった。
「この前の夜会で、俺が来ていた民族衣装を褒めてくれただろう? 記念にぜひ着てもらいたいと思ってな。」
わたしが見たことがあったのは男性向けのもので、女性向けは目の前にあるデザインなのだそう。
律儀に説明してくれるイヴァンの横で、なぜかラジウスがにやにやと笑っているのが気になる。しかし、そんなことに気を取られる間もないくらい流れ作業のように服のオーダーは進んだ。お店の女性がてきぱきとわたしを試着室に案内してベースとなる服を着せてくれる。
「こちらの型が標準的な形ですので、まずはこちらをお召しいただけますか?」
着せてもらったのは、この国の伝統衣装だという、白いブラウスにジャンバースカートを合わせるようなデザインの衣装だった。元の型紙を基準にしてサイズを調整しつつ刺繍を足していくスタイルで、これなら今から仕立てても帰国時に間に合うとのこと。
下に合わせるブラウスも、生成色の素朴な感じの生地のほか、さまざまな色が選べるようになっていた。レース素材もあって、身に着けると繊細な模様が映えて非常に美しく一目で気に入った。
白だとかわいい感じだけど自分には似合わなさそうだったので、黒に見えるくらい濃い青を選んだ。スカートも同色系で、刺繍だけが鮮やかな色彩だ。植物をモチーフにしているが、それぞれに意味があり組み合わせるのだと店主に教えてもらった。
ついでのように、耳元で「殿下が女性に服を贈られるのは初めてですよ。」と告げられる。恋人と勘違いされていそうだけど、否定する機会を逃してしまった。
わたしばかりで男性陣が退屈しないかと心配に思ったが、みなそれぞれ何かしらの商品を見て時間を潰してくれていた。そのためセイラとお店の人と納得いくまで相談して、気に入った生地と刺繍を選ぶことができた。
「殿下、ありがとうございます!」
試着した衣装を着たまま、満面の笑みでお礼を言うと、イヴァンは若干顔を赤らめながら、「いや、、喜んでもらえれば何よりだ」と小さい声で返事をした。少し照れたように、でもうれしそうに告げるイヴァンの顔を見ていると、心がほんわかする。なんというか、本当にいい人だ。
結構なお値段がするのではないかと思うが、お言葉に甘えてお代は支払っていただく。
店を出た後も、大きな本屋に寄ってくれたり(魔石の素材が載っている図鑑を買ってもらった!)、ルーが見たがった珍しい薬草を扱う店を紹介してくれたりと、わたしたちが満足できるよう何かと配慮してくれて、本当にありがたかった。
「あ、きれい。」
通りを抜けて、道すがら目に止まったのは、さまざまなサイズ、色の石を売っている屋台だった。人通りが多い場所で、何人かの男性が石を手に取っては好みのものを選んでいる。四角く区切られた容器には種類ごとに石が入っていて、アクセサリーパーツのショップを彷彿とさせた。
「これは庶民向けの土産物屋なので、シア様にはお勧めしません。」
セイラは冷たく言い放ち、そのまま通り過ぎようとした。でも、なんとなく心惹かれるものがあってゆっくりめに歩いて物色すると、黄色味がかかった半透明の小さな石が気になった。
思わず足を止め、石を手に取る。
「これは琥珀ですねー。魔力入りの琥珀はうちの国の特産品なんですよ。よかったらおひとついかがですか?」
ラジウスが、まるで店員のような口調でわたしに石を勧め、あっという間にお買い上げとなった。店員さんが手際よく石に穴を開けて革ひもを通してペンダントにしてくれる。
え、買ってもらっていいんだろうかと思ったが、もう遅い。なにせわたしは財布もなければ現金もゼロだから。
「買ってくれてありがとう!」
思わぬプレゼントに対してお礼を言うと、天使のようなほほえみが返ってきた。
「いえいえ、こんなんでよければいくらでも。喜んでもらえてよかったです。」
「すごい、きれい。大事にするね。」
首にかけてもらった琥珀を手に持ち、光にかざしてみるとキラキラと輝いて見えた。以前アレクからブレスレットをもらったときは驚くばかりだったが、今回は純粋にうれしい。
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