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本編
93 ゲームチェンジャーとの邂逅2
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アリサ様は生来の魔力量の多さが原因で臓器を蝕む病を患い、20歳まで生きられないと言われていたそうだ。そこで自分の魔力とは質が違う異世界からの魔力を取り込むことで、改善をはかったとのこと。
病を治すことはできなかったけれど、今は体内の時間を魔力で停止させて症状の進行を抑えているらしい。
「それが功を奏して、今やこんな大きな孫がいる身になるとは思わなんだ。」
イヴァンに顔を向けて楽しそうに笑う姿はとても美しく、どうしても30代前半くらいにしか見えない。すこしはしゃいだ様子なので、よけいに若々しい。女のわたしでも見惚れてしまう。
美女という言葉は、この人のためにあると言っても過言ではないだろう。艶のある真っ黒な髪は腰あたりまで伸ばされ、陶器のようなきめ細かい肌と相まって、偏執な錬金術師が作り上げたホムンクルスと言われても信じてしまいそうだ。エメラルドの瞳は吸い込まれそうな輝きを放っている。
造作だけならアナスタシアも同じくらい整っているんだけど、どこか艶めかしさがあって肉感的なアナスタシアと違い、アリサ様は「神の御使い」という形容がしっくりくる。気安い言葉で話していても、どこか俗世から離れたような、ふわふわした、この世ならざる者のような神秘的な雰囲気がある。
・・・そんなことをぼんやりと考えていたので、アリサ様がわたしのことを推し量るように見つめていたことには気づかなかった。
来客は久しぶりだと言いながら、わたしのことや元の世界のことなど、いろいろなことを尋ねられた。たどたどしく答えを返すと、宝石のような瞳を瞬かせながら身を乗り出すように耳を傾ける。
ルーから「他人の魔力を吸収している」と言われたことを話すと、アリサ様は会話をしながらわたしの手をぎゅっと握った。そうすると温かい何かがわたしの中に流れてくる。ああ、これはアリサ様の魔力だ。ラジウスにも感じた、懐かしいような不思議な感覚。
わたしが魔力を感じ取ったのがわかったのか、アリサ様はにんまりと笑みを浮かべた。
「確かに我の魔力もそなたに流れておる。その能力をうまく使いこなせば際限なく魔力を行使できるぞ。国を興すも滅ぼすも思いのままだ。」
物騒なことを言わないでほしい。わたしが望むのは、魔石を大量生産したいなあとか、そんなささいなことだ。もし言葉のとおり際限なく魔力を行使できるのであれば、少しは何かの役に立てるんじゃないかなあとかすかに期待する。
とはいえ、今のわたしにできるのは、ラジウスに教えてもらった「漏れ出る魔力を止めること」だけだ。理想までの道のりは遠い。
あれこれと話をしているうちに、喉がかわいて我に返る。そこまで来てようやく、けっこうな時間が経過していることに気付いた。
(しまった、イヴァンを放置してた)
「ごめんなさい、わたしばかり夢中で話をしてしまって。」
「問題ない。せっかくの機会だ、それに聞いていて俺も興味深い。」
しょんぼりと謝ると、イヴァンは問題ないと言って近くに置いてあったデカンタからグラスに水を注いて渡してくれた。冷たい水が喉にしみわたる。本来ならばわたしがすべきなのに申し訳ない。
話がひと区切りした後、アリサ様は疲れた様子もなく、イヴァンにも、かつて神殿で生活していたというラジウスのことや彼の兄との些細な会話まで、城の様子や家族の近況などを事細かに尋ねていた。
俗世を捨てて「巫女姫」として神殿に入った時点で、王家との表向きの縁は切れていると聞いている。孫と呼ぶイヴァンも、実際は血の繋がりはない。それでもイヴァンの訪ねを喜んでいることは伝わったし、いくら話しても話したりないようだった。
今日は少し話をして退出する予定だったはずだが、「大したもてなしもできないが、せっかくなので食事でもしていけ」という誘いを受けた。せっかくだからと、予定外だが神殿内で昼食をいただく。アリサ様は基本的にこの部屋から移動しなくてよいように配慮されているらしく、食事も部屋に配膳された。
目の前に並んだのは、精進料理のように肉類を用いない料理だった。メインとして供されたのはトマトシチューのような料理で、肉の代わりに入っているのは、水切りした豆腐のような、カッテージチーズのような食感のものだ。少し酸味があるそれは、フォルという植物の樹液から作られていると説明された。
アリサ様はものすごく博識で、食材のことから始まりこの国の歴史、風習などいろいろなことを教えてくれた。彼女の様子だと外出もままならないだろうに、まるで見てきたかのように話すのが不思議でならない。時折イヴァンが会話に加わるが、私はもっぱら聞き役に回っていた。
「そなたから聞きたいことはないかえ?」
口直しのシャーベットを食べた後、甘酸っぱいコンポートを満喫していたところで突然話を振られた。口の中に入っていたフルーツをごくんと飲み込む。
聞きたいことは、ある。もちろん。
でもこの部屋にはわたしたちのほか、数人の侍女が壁際に控えている。ちらりとそちらに視線をやると、目ざとく気づいたアリサ様が手を軽く振る。すぐに全ての侍女が部屋を出た。
配慮をありがたいと思いつつ、気になっていたことを恐る恐る尋ねた。
病を治すことはできなかったけれど、今は体内の時間を魔力で停止させて症状の進行を抑えているらしい。
「それが功を奏して、今やこんな大きな孫がいる身になるとは思わなんだ。」
イヴァンに顔を向けて楽しそうに笑う姿はとても美しく、どうしても30代前半くらいにしか見えない。すこしはしゃいだ様子なので、よけいに若々しい。女のわたしでも見惚れてしまう。
美女という言葉は、この人のためにあると言っても過言ではないだろう。艶のある真っ黒な髪は腰あたりまで伸ばされ、陶器のようなきめ細かい肌と相まって、偏執な錬金術師が作り上げたホムンクルスと言われても信じてしまいそうだ。エメラルドの瞳は吸い込まれそうな輝きを放っている。
造作だけならアナスタシアも同じくらい整っているんだけど、どこか艶めかしさがあって肉感的なアナスタシアと違い、アリサ様は「神の御使い」という形容がしっくりくる。気安い言葉で話していても、どこか俗世から離れたような、ふわふわした、この世ならざる者のような神秘的な雰囲気がある。
・・・そんなことをぼんやりと考えていたので、アリサ様がわたしのことを推し量るように見つめていたことには気づかなかった。
来客は久しぶりだと言いながら、わたしのことや元の世界のことなど、いろいろなことを尋ねられた。たどたどしく答えを返すと、宝石のような瞳を瞬かせながら身を乗り出すように耳を傾ける。
ルーから「他人の魔力を吸収している」と言われたことを話すと、アリサ様は会話をしながらわたしの手をぎゅっと握った。そうすると温かい何かがわたしの中に流れてくる。ああ、これはアリサ様の魔力だ。ラジウスにも感じた、懐かしいような不思議な感覚。
わたしが魔力を感じ取ったのがわかったのか、アリサ様はにんまりと笑みを浮かべた。
「確かに我の魔力もそなたに流れておる。その能力をうまく使いこなせば際限なく魔力を行使できるぞ。国を興すも滅ぼすも思いのままだ。」
物騒なことを言わないでほしい。わたしが望むのは、魔石を大量生産したいなあとか、そんなささいなことだ。もし言葉のとおり際限なく魔力を行使できるのであれば、少しは何かの役に立てるんじゃないかなあとかすかに期待する。
とはいえ、今のわたしにできるのは、ラジウスに教えてもらった「漏れ出る魔力を止めること」だけだ。理想までの道のりは遠い。
あれこれと話をしているうちに、喉がかわいて我に返る。そこまで来てようやく、けっこうな時間が経過していることに気付いた。
(しまった、イヴァンを放置してた)
「ごめんなさい、わたしばかり夢中で話をしてしまって。」
「問題ない。せっかくの機会だ、それに聞いていて俺も興味深い。」
しょんぼりと謝ると、イヴァンは問題ないと言って近くに置いてあったデカンタからグラスに水を注いて渡してくれた。冷たい水が喉にしみわたる。本来ならばわたしがすべきなのに申し訳ない。
話がひと区切りした後、アリサ様は疲れた様子もなく、イヴァンにも、かつて神殿で生活していたというラジウスのことや彼の兄との些細な会話まで、城の様子や家族の近況などを事細かに尋ねていた。
俗世を捨てて「巫女姫」として神殿に入った時点で、王家との表向きの縁は切れていると聞いている。孫と呼ぶイヴァンも、実際は血の繋がりはない。それでもイヴァンの訪ねを喜んでいることは伝わったし、いくら話しても話したりないようだった。
今日は少し話をして退出する予定だったはずだが、「大したもてなしもできないが、せっかくなので食事でもしていけ」という誘いを受けた。せっかくだからと、予定外だが神殿内で昼食をいただく。アリサ様は基本的にこの部屋から移動しなくてよいように配慮されているらしく、食事も部屋に配膳された。
目の前に並んだのは、精進料理のように肉類を用いない料理だった。メインとして供されたのはトマトシチューのような料理で、肉の代わりに入っているのは、水切りした豆腐のような、カッテージチーズのような食感のものだ。少し酸味があるそれは、フォルという植物の樹液から作られていると説明された。
アリサ様はものすごく博識で、食材のことから始まりこの国の歴史、風習などいろいろなことを教えてくれた。彼女の様子だと外出もままならないだろうに、まるで見てきたかのように話すのが不思議でならない。時折イヴァンが会話に加わるが、私はもっぱら聞き役に回っていた。
「そなたから聞きたいことはないかえ?」
口直しのシャーベットを食べた後、甘酸っぱいコンポートを満喫していたところで突然話を振られた。口の中に入っていたフルーツをごくんと飲み込む。
聞きたいことは、ある。もちろん。
でもこの部屋にはわたしたちのほか、数人の侍女が壁際に控えている。ちらりとそちらに視線をやると、目ざとく気づいたアリサ様が手を軽く振る。すぐに全ての侍女が部屋を出た。
配慮をありがたいと思いつつ、気になっていたことを恐る恐る尋ねた。
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