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本編
94 巫女姫の望み1【side アリサ】
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アリサという名は、建国時に皇帝の右腕として活躍した初代の巫女姫にあやかって付けられた。私が生まれた日にはいくつもの流れ星が観測され、神の祝福だと先代の巫女姫であった叔母は涙を流して喜んだと聞く。
しかし私は予知の力と引き換えに体が弱かった。
魔術大国とも呼ばれるこの国、キリル公国では何よりも強い魔力こそが尊ばれる。国のトップたる皇族は桁違いの魔力をその身に有し、予知をはじめ常人ならざる能力を持つ者も多い。魔力を強めるため近親婚も多く、私の両親はいとこ同士だった。
その弊害か、時折私のように魔力量を肉体が受け止めきれず健康に害をきたす者が生まれる。視力も弱く、ぼんやりとしか物が見えない。1日の大半はベッドで過ごす。私はふつうの暮らしはできず、ひっそりと離宮に暮らしていた。
疎まれてはいないものの、父母とは疎遠だった。
皇族でありながら役に立たない出来損ない。未来視ができる唯一の巫女として生かされている以外、私に存在意義はない。物心ついたときから、ずっとそう思って生きてきた。
だけど。
「ねえさま、ねえさまの長いまっすぐな髪はとてもきれいです。」
たった一人、わたしの弟だけは機会も見つけては離宮に遊びにきてくれた。外に出られない私の代わりに野に咲く花を、街中の珍しい菓子を、さまざまな噂話をみやげに携えて。孤独だった私にとって弟は救いだった。
弟の小さな手をぎゅっとつかむ。目がよく見えない私は、直接触れることでぼんやりと相手の考えていることが「視える」ようになっていた。
弟から視えるのは、肉親としての純粋な好意。巫女姫ではなく、姉として慕ってくれている。近い将来皇帝となる弟の片腕として、初代巫女姫のように役立ちたいと思うものの、体は言うことをきいてくれないのがもどかしい。
(私は死ぬまでこのままなのか)
ある日私が視た「未来」は、愛する弟が無残にも殺される光景だった。
妻として娶った女性に毒を盛られ、苦しみながら血を吐き出す。女が残忍な笑みを浮かべているのに顔は見えない。弟の皮膚は紫に変色し、口から泡を吹いて倒れた。それ以上は視えなかった。
なんて・・・なんて悲しい未来。
おそらくそのときには既に私は世を去っているのだろう、彼に危険を告げることすらできず。
起こりえる死の光景の、あまりのむごさに気持ちが悪くなった。
巫女が視た未来は「予言」として皇帝に報告する決まりになっている。だがどうしてもそれを告げることができなかった。
なぜなら私が「予言」として口にすれば、それが真実だと思われてしまうから。
こんな悲しい未来を、ひとかけらの可能性でも表に出したくはなかった。
どうすれば予言を回避できるのだろうか。まだ弟には婚約者はいない。誰を選び、誰に毒を盛られるのかはわからないが、私さえ生きていれば、弟に伴侶ができたときに触れればいい。悪意があればきっとわかる。
(愛する弟の死を回避できないのなら、なんのための未来視なのか)
今まで運命のまま生かされ、利用されるだけだと思っていた。でも弟を幸せにするために、自分の意志で生きたいという欲を持つようになった。
解決の糸口は王宮の禁書庫から密かに取り寄せた書物だった。罪人などを対象に人体実験を繰り返し「悪魔」と呼ばれた魔術師アル・ザカリアが書いた禁断の魔導書。毒をもって毒を制すると言うべきか、肉体を苛む強すぎる魔力に対して、異質の魔力をぶつけて体内の時間を止める方法があるという記載があったのだ。
医師からは、この体では20歳まで生きられないだろうと言われている。チャンスは一度きりだ。
10年に1度、召還の年がやってくる。理由は告げずに自分が召喚の依代になりたいと皇帝に伝えたところ、受け入れられた。
正直、儀式のことはほとんど記憶にない。
夢のなかで、誰か知らない相手と話をした気がする。でもよく憶えてはいない。
しかし私は予知の力と引き換えに体が弱かった。
魔術大国とも呼ばれるこの国、キリル公国では何よりも強い魔力こそが尊ばれる。国のトップたる皇族は桁違いの魔力をその身に有し、予知をはじめ常人ならざる能力を持つ者も多い。魔力を強めるため近親婚も多く、私の両親はいとこ同士だった。
その弊害か、時折私のように魔力量を肉体が受け止めきれず健康に害をきたす者が生まれる。視力も弱く、ぼんやりとしか物が見えない。1日の大半はベッドで過ごす。私はふつうの暮らしはできず、ひっそりと離宮に暮らしていた。
疎まれてはいないものの、父母とは疎遠だった。
皇族でありながら役に立たない出来損ない。未来視ができる唯一の巫女として生かされている以外、私に存在意義はない。物心ついたときから、ずっとそう思って生きてきた。
だけど。
「ねえさま、ねえさまの長いまっすぐな髪はとてもきれいです。」
たった一人、わたしの弟だけは機会も見つけては離宮に遊びにきてくれた。外に出られない私の代わりに野に咲く花を、街中の珍しい菓子を、さまざまな噂話をみやげに携えて。孤独だった私にとって弟は救いだった。
弟の小さな手をぎゅっとつかむ。目がよく見えない私は、直接触れることでぼんやりと相手の考えていることが「視える」ようになっていた。
弟から視えるのは、肉親としての純粋な好意。巫女姫ではなく、姉として慕ってくれている。近い将来皇帝となる弟の片腕として、初代巫女姫のように役立ちたいと思うものの、体は言うことをきいてくれないのがもどかしい。
(私は死ぬまでこのままなのか)
ある日私が視た「未来」は、愛する弟が無残にも殺される光景だった。
妻として娶った女性に毒を盛られ、苦しみながら血を吐き出す。女が残忍な笑みを浮かべているのに顔は見えない。弟の皮膚は紫に変色し、口から泡を吹いて倒れた。それ以上は視えなかった。
なんて・・・なんて悲しい未来。
おそらくそのときには既に私は世を去っているのだろう、彼に危険を告げることすらできず。
起こりえる死の光景の、あまりのむごさに気持ちが悪くなった。
巫女が視た未来は「予言」として皇帝に報告する決まりになっている。だがどうしてもそれを告げることができなかった。
なぜなら私が「予言」として口にすれば、それが真実だと思われてしまうから。
こんな悲しい未来を、ひとかけらの可能性でも表に出したくはなかった。
どうすれば予言を回避できるのだろうか。まだ弟には婚約者はいない。誰を選び、誰に毒を盛られるのかはわからないが、私さえ生きていれば、弟に伴侶ができたときに触れればいい。悪意があればきっとわかる。
(愛する弟の死を回避できないのなら、なんのための未来視なのか)
今まで運命のまま生かされ、利用されるだけだと思っていた。でも弟を幸せにするために、自分の意志で生きたいという欲を持つようになった。
解決の糸口は王宮の禁書庫から密かに取り寄せた書物だった。罪人などを対象に人体実験を繰り返し「悪魔」と呼ばれた魔術師アル・ザカリアが書いた禁断の魔導書。毒をもって毒を制すると言うべきか、肉体を苛む強すぎる魔力に対して、異質の魔力をぶつけて体内の時間を止める方法があるという記載があったのだ。
医師からは、この体では20歳まで生きられないだろうと言われている。チャンスは一度きりだ。
10年に1度、召還の年がやってくる。理由は告げずに自分が召喚の依代になりたいと皇帝に伝えたところ、受け入れられた。
正直、儀式のことはほとんど記憶にない。
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