98 / 133
本編
96 キスと毒薬1
しおりを挟む
わたしはイヴァンから振り払われた手を呆然と見つめた。正直、あんなふうに拒絶されるなんてショックだった。
(知らないうちに、なにか嫌がることでもしてしまったんだろうか)
ガタンっと馬車が大きく揺れる。目の前の黒髪も揺れた。
正面の相手に目を向けると、汗ばみ、息をするのも苦しそうなイヴァンと目が合い、直後に逸らされた。
「う・・・すまん。姫、頼むから近寄らないでくれ。恐らく薬を盛られた。どうか、あなたを・・・傷つけたくはない。」
顔を背け苦しそうに告げられたのは、考えていたものとは違う言葉だった。発汗、興奮、動悸。薬と濁してはいるが、見覚えがある症状は媚薬を盛られたという理解で間違いないだろう。
でも今日は朝からずっと一緒で、とくだん体調が悪い気配はなかった。飲食は、さきほど神殿で取ったっきりだ。
つまり彼ひとりが、神殿の食事に何か盛られたということになる。遅効性の薬という可能性もあるだろうが、薬の性質上、また自分の経験上、それは考えにくいように思えた。
誰が、何のために実行したのか、まったく想像できない。
馬車を止めたらどうかと提案したが、このまま屋敷に帰ったほうが良いと言う。確かにこれは休んだところで改善するわけでもない。
血が滲む手は、正気を保つために彼自身が爪を立てていたからだった。「意識が飛びそうになると襲い掛かりそうなんでな。」とイヴァンは苦い笑いをこぼす。
ラジウスから魔力を止める方法を教わっておいてよかった。もしアナスタシアの魅了の魔力が駄々洩れ状態のままだったら、この馬車内は大惨事だっただろう。
(どうしよう・・・)
重苦しい空気が馬車内に満ちる。爆弾を抱えて密室にいるみたいな緊張感といえば伝わるだろうか。中はそれほど広くないため、対角線上に寄ったとしてもそう距離は離れない。手を伸ばせばすぐに届く距離だ。
解毒薬なんて持ち合わせていないから、このまま熱が引くのを待つしかない。今までのやりとりでイヴァンに対して好意を持ったのは確かだが、さすがに「じゃあエッチしましょう」なんて言えるわけもない。馬車内でそういう行為をすることがあると聞いたことはあるが、そもそもこんなに揺れて狭く不安定なところでうまくやれる自信もない。
「あの・・あのね、苦しいのであれば、手で、しようか?」
とりあえず出すものを出してしまえば、落ち着くのではないか。そんな安易な提案だったが、わたしの言葉を聞いてイヴァンががばりと顔を上げた。目が、いつもと違ってぎらぎらとしている。飢えた獣が獲物を見つけたかのような色だった。
騎士らしく実直な彼が、今まで見たことがないような目でわたしを見ている。
いつもと違う表情を目の当たりにして、自分のなかに熱が灯った。わたしには媚薬の影響がないはずなのに、何かに強いられているように下半身が疼く。
「しなくていいから、少しだけ、触れてもいいだろうか?」
控えめな提案に対して、こくりと頷いた。
イヴァンは、しばらく手を空にさまよわせた後、おそるおそるといった体でわたしに熱い手が触れた。
右手が頬に触れ、左腕が腰をさらう。あっという間にイヴァンに抱え込まれた。鍛えられた騎士らしい肉体に触れ、心臓がはねる。
わずかでも逃がす気はないと知らしめるように、硬く絡まった腕はほどけない。
「ひぁっ・・。」
べろり、と生暖かい舌が首筋に触れ、思わず小さな声が漏れた。ざらざらとした舌が熱を押し付けるように首筋の上から下まで進み、いつの間にか彼の手によってはだけられた胸元にまで舌が伸びる。
「は・・・皮肉だな。まさかこんな形で、姫に触れられるなんて。」
熱のこもった吐息が漏れ、耳元で囁かれる。ごつごつした手が、わたしの熱を確認するかのように触れる。
あとは、箍が外れたかのように無心でからだじゅうを舐めまわされた。
掴みだすようにして晒された胸の頂に、熱い唇が触れる。ぢゅう、と音がするくらい強く吸われる。
「あ、んっ・・・。」
「声、出して。もっと、そういう声が聞きたい。・・・頼む。」
かすれたような声が耳元でした直後、耳の中に舌を入れられ、れろれろと舐られた。
(知らないうちに、なにか嫌がることでもしてしまったんだろうか)
ガタンっと馬車が大きく揺れる。目の前の黒髪も揺れた。
正面の相手に目を向けると、汗ばみ、息をするのも苦しそうなイヴァンと目が合い、直後に逸らされた。
「う・・・すまん。姫、頼むから近寄らないでくれ。恐らく薬を盛られた。どうか、あなたを・・・傷つけたくはない。」
顔を背け苦しそうに告げられたのは、考えていたものとは違う言葉だった。発汗、興奮、動悸。薬と濁してはいるが、見覚えがある症状は媚薬を盛られたという理解で間違いないだろう。
でも今日は朝からずっと一緒で、とくだん体調が悪い気配はなかった。飲食は、さきほど神殿で取ったっきりだ。
つまり彼ひとりが、神殿の食事に何か盛られたということになる。遅効性の薬という可能性もあるだろうが、薬の性質上、また自分の経験上、それは考えにくいように思えた。
誰が、何のために実行したのか、まったく想像できない。
馬車を止めたらどうかと提案したが、このまま屋敷に帰ったほうが良いと言う。確かにこれは休んだところで改善するわけでもない。
血が滲む手は、正気を保つために彼自身が爪を立てていたからだった。「意識が飛びそうになると襲い掛かりそうなんでな。」とイヴァンは苦い笑いをこぼす。
ラジウスから魔力を止める方法を教わっておいてよかった。もしアナスタシアの魅了の魔力が駄々洩れ状態のままだったら、この馬車内は大惨事だっただろう。
(どうしよう・・・)
重苦しい空気が馬車内に満ちる。爆弾を抱えて密室にいるみたいな緊張感といえば伝わるだろうか。中はそれほど広くないため、対角線上に寄ったとしてもそう距離は離れない。手を伸ばせばすぐに届く距離だ。
解毒薬なんて持ち合わせていないから、このまま熱が引くのを待つしかない。今までのやりとりでイヴァンに対して好意を持ったのは確かだが、さすがに「じゃあエッチしましょう」なんて言えるわけもない。馬車内でそういう行為をすることがあると聞いたことはあるが、そもそもこんなに揺れて狭く不安定なところでうまくやれる自信もない。
「あの・・あのね、苦しいのであれば、手で、しようか?」
とりあえず出すものを出してしまえば、落ち着くのではないか。そんな安易な提案だったが、わたしの言葉を聞いてイヴァンががばりと顔を上げた。目が、いつもと違ってぎらぎらとしている。飢えた獣が獲物を見つけたかのような色だった。
騎士らしく実直な彼が、今まで見たことがないような目でわたしを見ている。
いつもと違う表情を目の当たりにして、自分のなかに熱が灯った。わたしには媚薬の影響がないはずなのに、何かに強いられているように下半身が疼く。
「しなくていいから、少しだけ、触れてもいいだろうか?」
控えめな提案に対して、こくりと頷いた。
イヴァンは、しばらく手を空にさまよわせた後、おそるおそるといった体でわたしに熱い手が触れた。
右手が頬に触れ、左腕が腰をさらう。あっという間にイヴァンに抱え込まれた。鍛えられた騎士らしい肉体に触れ、心臓がはねる。
わずかでも逃がす気はないと知らしめるように、硬く絡まった腕はほどけない。
「ひぁっ・・。」
べろり、と生暖かい舌が首筋に触れ、思わず小さな声が漏れた。ざらざらとした舌が熱を押し付けるように首筋の上から下まで進み、いつの間にか彼の手によってはだけられた胸元にまで舌が伸びる。
「は・・・皮肉だな。まさかこんな形で、姫に触れられるなんて。」
熱のこもった吐息が漏れ、耳元で囁かれる。ごつごつした手が、わたしの熱を確認するかのように触れる。
あとは、箍が外れたかのように無心でからだじゅうを舐めまわされた。
掴みだすようにして晒された胸の頂に、熱い唇が触れる。ぢゅう、と音がするくらい強く吸われる。
「あ、んっ・・・。」
「声、出して。もっと、そういう声が聞きたい。・・・頼む。」
かすれたような声が耳元でした直後、耳の中に舌を入れられ、れろれろと舐られた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件
こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる