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本編

97 キスと毒薬2

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(やだやだやだ、わたしのほうが気持ちよくなっちゃう)

なにせ快感に弱いこのからだは、ちょっとしたことでもすぐに気持ちよくなってしまう。これはあくまで媚薬の症状を緩和するための行為であって、わたしが感じるわけにはいかない。

本能的な恐れでいやいやと首を振る。それを拒絶と捉えたのか、イヴァンの目に鋭い光が宿った。

「やっ・・・」

乳首をやわく噛まれて悲鳴が出た。痛くはないが、強い刺激がそのまま快感に変換されてしまう。

セイとよく似た青い瞳が、ひた、とわたしを見据えて離さなかった。目を逸らすこともできずに、イヴァンに舐められる。

耳朶を。
首筋を。鎖骨を。
胸元を。

唇が生き物のように肌を這い、ちゅ、ちゅ、と口づけながら進む。愛撫のような行為は気持ちよくなるには充分で、もっと触れてほしくて猫がするように擦り寄る。

わたしの行動に気づいたイヴァンが恋人を愛おしむようなキスを額に落とす。そのまま頬まで唇が触れる。

途中から、お互い一言もしゃべらなかった。イヴァンは一心不乱にわたしの肌をまさぐる。手で、唇で。わたしは感じているのをこらえるのに必死で、でももっと気持ちよくしてほしくて。

数分なのか、数十分なのか、それともわずか一瞬のことなのか。短いような、ものすごく長いような時間が過ぎた後、酸素を求めるようにふう、とイヴァンが息を吐いた。

媚薬の効果が少しは弱まったのだろうか。瞳に冷静さが戻ってきているように見える。

ようやくお役御免かと気を緩めたタイミングで、再びぎゅっと強く抱きしめられた。甘く耳を食まれ、首筋にキスを落とされる。

でも。

これらの行為のあいだ、イヴァンは決して口にはキスしなかった。胸元より下に手が伸びることも。お尻あたりで、硬くなったモノの感触はすごく感じるのに、彼はそれについて言及しなかった。

わたしのことを慮ってくれたんだろうとは思う。でも、中途半端に愛撫されてしまったので、高められた熱が行き場をなくして余計につらい。触れられていないスカートの中も、すでに濡れてじっとりと気持ちが悪い。

(不可抗力だと割り切っちゃえばいいのに)

そんな器用なことができない性格だということは、もうわかってしまった。だから彼の頬に触れ、こちらを向かせる。思い切ってわたしからイヴァンにキスした。

驚いたように目を瞬かせたが、拒まなかった。イヴァンは腕の力を籠め、わたしを力強く抱きしめる。

「んっ・・・むぅ・・っ、はぁ」

決して上手なわけではないけど、求められていると強く感じるキスだった。

厚い舌が咥内を蹂躙する。息をする間も与えぬくらい、絶え間なく舌が蠢く。わたしもやめたくない。熱に浮かされたみたいに、互いに唇を離そうとはしなかった。



毒と薬は紙一重。イヴァンとのキスは、毒みたいだと、最中にぼんやりと思う。過ぎた量は身を滅ぼすとわかっているのに、どうしてもやめられない。

「口づけは・・・はじめて、した。」

これ以上はまずいと正気に戻ったところで、呆然とした、イヴァンの声が聞こえた。
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