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本編
103 ヤヌスの望み2 【閑話・side ?】
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ミハイルは、半ば信じられないような気持ちでヴィクトルを見た。
最悪の場合は国が滅びるかもしれない局面で、仮にも国王の対応とは思えなかった。議論もせずにあっさりと決断することは勿論、失敗するとは微塵も考えていないことに対しても、だ。
(まるで、絶対の自信でもあるかのようだ)
自信を裏付ける根拠が何かはわからない。だが信憑性を持たせるために隣国で暗殺未遂を起こしたとしても不思議はなかった。
目の前の国王は、自分と同じ年頃の息子を持つ年代のはずなのに不思議と年齢を感じさせない。見た目だけは穢れを知らぬ天使のようだ。しかし無邪気に笑う表情には、えも言われぬ毒があった。
そのヴィクトル本人は、もうその話題からは気持ちが離れている。部屋の中央で性交している複数の男女を、家畜を見るような目で眺めていた。
「あとちょっとでね、ほんの少量で素晴らしい効果が期待できる媚薬も完成しそうなんだ。だからもうしばらく部屋に籠もってたいかなーって。そういうわけなんで、表向きのことは、よろしくね。」
表向きのこととは、もちろん政治のことだ。この王は最愛のキアナ王妃を病で亡くしてから、どこか壊れてしまった。部屋に籠もりきりで国民の前にはめっきり姿を見せなくなり、王としての責務や威厳、対面といったものを全て捨ててしまっている。
しかも率先して自分の悪評を広めようとする姿勢に、王子時代から彼を知っている身として、そして宰相として、いったい何と諫めればよいのかわからなかった。
何よりも可哀想なのは、王子であるアレクセイ殿下だ。父親が色事に耽っていると陰口を叩かれ、自分がなんとかしなくてはと思い詰めている。
息子であるセイからは、このままでは父である王に対して刃を向けかねないとまで言われた。そんな事態になれば、国は混乱するばかりで過去の二の舞になりかねない。
王に対してこのようなことを口にするのは不敬だと思いつつ、長い付き合いから来る気安さから、ミハイルはヴィクトルに尋ねた。
「陛下は、一体何をお望みなのですか? どんなに願っても、魔力を行使しても、キアナ様は生き返りません。残されたアレクセイ殿下のためにも、きちんと政治の場に出られたほうがよいのでは?」
どんなに媚薬を開発して国庫が潤ったとしても、このままだと遠くないうちに国内の有力貴族や隣国が王位の簒奪を狙って動き出すだろう。聖ルーシ王国は、つい20年前まで内戦やら隣国との戦争やらで疲弊の極みだった。いまでこそ平和になったが、治世は盤石ではない。
「いーんだよ。もうすぐアレクセイが私を殺してくれるはずだから。」
歌うような、希うようなヴィクトルの言葉に、ミハイルは息が止まりそうになった。
「陛下──いったい何を・・・!?」
「私はねえ、自分の命は最大限に有効利用したいと考えているんだ。どうせ自分で死ぬこともできないんだから、愛するキアナの子に殺してもらうのがいちばんいいんだよ。」
「本当は一緒に逝きたかったのに・・・」そう呟く声の主は、もう部屋の誰のことも見ていなくて。
ミハイルは、自分が仕える相手の望みを理解して、ぞわりと鳥肌が立った。
「ちゃんと、後ろめたいことがなく私を殺してもらうためには、もっとダメな王様にならないとねえ。」
そう言って、白いガウンを愛しい相手のように抱きしめながら、うっとりとヴィクトルは微笑んだ。
最悪の場合は国が滅びるかもしれない局面で、仮にも国王の対応とは思えなかった。議論もせずにあっさりと決断することは勿論、失敗するとは微塵も考えていないことに対しても、だ。
(まるで、絶対の自信でもあるかのようだ)
自信を裏付ける根拠が何かはわからない。だが信憑性を持たせるために隣国で暗殺未遂を起こしたとしても不思議はなかった。
目の前の国王は、自分と同じ年頃の息子を持つ年代のはずなのに不思議と年齢を感じさせない。見た目だけは穢れを知らぬ天使のようだ。しかし無邪気に笑う表情には、えも言われぬ毒があった。
そのヴィクトル本人は、もうその話題からは気持ちが離れている。部屋の中央で性交している複数の男女を、家畜を見るような目で眺めていた。
「あとちょっとでね、ほんの少量で素晴らしい効果が期待できる媚薬も完成しそうなんだ。だからもうしばらく部屋に籠もってたいかなーって。そういうわけなんで、表向きのことは、よろしくね。」
表向きのこととは、もちろん政治のことだ。この王は最愛のキアナ王妃を病で亡くしてから、どこか壊れてしまった。部屋に籠もりきりで国民の前にはめっきり姿を見せなくなり、王としての責務や威厳、対面といったものを全て捨ててしまっている。
しかも率先して自分の悪評を広めようとする姿勢に、王子時代から彼を知っている身として、そして宰相として、いったい何と諫めればよいのかわからなかった。
何よりも可哀想なのは、王子であるアレクセイ殿下だ。父親が色事に耽っていると陰口を叩かれ、自分がなんとかしなくてはと思い詰めている。
息子であるセイからは、このままでは父である王に対して刃を向けかねないとまで言われた。そんな事態になれば、国は混乱するばかりで過去の二の舞になりかねない。
王に対してこのようなことを口にするのは不敬だと思いつつ、長い付き合いから来る気安さから、ミハイルはヴィクトルに尋ねた。
「陛下は、一体何をお望みなのですか? どんなに願っても、魔力を行使しても、キアナ様は生き返りません。残されたアレクセイ殿下のためにも、きちんと政治の場に出られたほうがよいのでは?」
どんなに媚薬を開発して国庫が潤ったとしても、このままだと遠くないうちに国内の有力貴族や隣国が王位の簒奪を狙って動き出すだろう。聖ルーシ王国は、つい20年前まで内戦やら隣国との戦争やらで疲弊の極みだった。いまでこそ平和になったが、治世は盤石ではない。
「いーんだよ。もうすぐアレクセイが私を殺してくれるはずだから。」
歌うような、希うようなヴィクトルの言葉に、ミハイルは息が止まりそうになった。
「陛下──いったい何を・・・!?」
「私はねえ、自分の命は最大限に有効利用したいと考えているんだ。どうせ自分で死ぬこともできないんだから、愛するキアナの子に殺してもらうのがいちばんいいんだよ。」
「本当は一緒に逝きたかったのに・・・」そう呟く声の主は、もう部屋の誰のことも見ていなくて。
ミハイルは、自分が仕える相手の望みを理解して、ぞわりと鳥肌が立った。
「ちゃんと、後ろめたいことがなく私を殺してもらうためには、もっとダメな王様にならないとねえ。」
そう言って、白いガウンを愛しい相手のように抱きしめながら、うっとりとヴィクトルは微笑んだ。
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