不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

105 夢にみた約束1

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びっくりするくらいに上機嫌なルーと、それとは対照的にぐったりしたラジウスが帰ってきたのは、夕方になってからだった。

「もうやだ。この人なんでこんなに細かすぎるんですか。」

げんなりした顔でラジウスがぶつぶつと文句を言う。部屋の隅に用意されたワゴンからデカンタを手に取り、やけ飲みみたいにグラス(中身はジュース)を一気にあおった。

やさぐれてるなあ、いつもの余裕はどこかに行ってしまったようだ。

「おつかれさまでした。今日のお出かけはどうだったの?」

あまりにぶすくれているので薬草園の話に水を向けると、ラジウスは待ちかねたように話し出した。

「もー、聞いてくださいってば。ひどいんですよう。」

聞けば、朝からわたしと別行動で不機嫌極まりなかったルーは、薬草園に入った途端に機嫌が直ったそうだ(たんじゅ・・・いや、素直だ)。で、出迎えてくれた薬草園の管理者をさんざん質問攻めにした挙句、広大な敷地の隅から隅まで見て回り、片っ端から気になる植物を観察して細かな質問をしてからまた移動して、それを後からラジウスが追いかけていって・・・という感じだったらしい。

「もうさんざん。足も気持ちもクタクタですもん。」

靴も泥だらけになっちゃったし、というラジウスの泣き言は全然気にならないのか、ルーは至極満足げだった。

「さすが天下のキリル公国。なかなか現物はお目にかかれないような薬草もたくさんあったし、管理者のおじさんがいい人で、薬草も分けてもらえたし。」

「そりゃあ殿下から最上級のもてなしをするよう言われてるんですから。それに、あんな物欲しそうな目で見られたら誰でもそうなりますって・・・。」

ほくほくと戦利品を手にするルーを横目に、心底疲れた顔でラジウスが答えてわたしの隣に座った。

「僕にも癒しがないとやってられないです。ひめー、もっと褒めてくださいよう。」

うるうるとつぶらな瞳で見つめながら擦り寄るので、思わず手元の砂糖菓子を差し出す。ラジウスは、ぱくりと一口で食べた後、ぺろりとわたしの指まで舐めた。こてりとわたしの肩に頭を乗せる。

あざといとわかっていながらも、こういうしぐさに弱い。

柔らかく、少しくせがある髪を撫でようとしたタイミングで、ラジウスはイヴァンから「話がある」と引っ張っていかれてしまった。きっと媚薬を盛られた件で尋問されるんだろうなあと思うと、不憫でならない。

ちなみにルーには、この件は内緒にしておくことにした。「心配するし、よけい騒ぎそうだからね」とアレクが言い、セイが同意したからだ。

夕食まで応接室で時間を過ごす予定だったが、約1名すぐにでも部屋に戻りたそうにしているので、一度部屋に戻った。すぐにルーは薬草の束を整理しながらノートに今日のことを書き込んでいた。声をかけるのもはばかられるくらい集中していて、雑談するような雰囲気もない。

ルーは天才型というか、自分中心主義というか、ひとつのことに熱中し始めると、自分で納得がいくまでずーっと作業し続ける質だ。おそらく1時間以上はこのままだろう。夕食までに終わってほしいものだ。

わたしは神殿でイヴァンに聞いたあることを思い出し、セイの持つ魔道具経由でこっそりと呼び出した。ずっと前──はじめて会ったその日に、わたしが望めば魔力に反応して通信できると言われていたものだ。実際に試みたのは初めてだったが、問題なく呼び出せた。




大きく取られた窓から見える空は、きれいな茜色だった。夕暮れと夜が交じり合うなかに、少しだけ欠けた月が覗く。

待ち合わせ場所に指定した一階ロビーには、既に人影があった。背が高く黒づくめの外見はどこにいても目立つ。

急ぎ足で近づくと、セイはシャワーを浴びてきたのか少し髪が濡れていた。先ほどさんざん不埒なことをしていたせいか、少しだけ気怠げで・・・ものすごい色気を感じる。

「ごめんね、突然呼び出して。」

「いいえ、まったく。それより、よく魔道具のことを憶えてられましたね。あのとき一度しか説明しませんでしたのに。」

不思議がるセイの目の前に、わたしは、にゅっと左腕を差し出した。そこに嵌められた銀製のブレスレットに気づいたセイの目が、驚きに見開く。

「なぜこれを・・・」

「アナスタシアの荷物の中にあったの。」

細かな魔石をはめ込んだブレスレットは特殊な魔道具で、互いの魔力を登録するようになっている。できるのは片方向の通信と、両者の同意があれば往来もできる。この魔道具を見つけたから、セイに通信できることも思い出したというわけだ。

「ああ、そうか・・・そうですよね。神殿から持ち帰ってくださって、ありがとうございました。」

懐かしそうに目を細めるセイに、わたしは無言で丁寧に畳まれた白い紙を渡した。セイは怪訝な顔で白い紙を開くと、中には小さな押し花が挟まれていた。

「これは・・・」

無言で押し花を凝視するセイに、わたしは言葉をかけた。

「あのトランクの中身はね、セイからもらった物ばかりだったんだよ。」
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