僕は美女だったらしい

寺蔵

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荒れた高校

 息を吸い込みながら口の中で猛獣の名前を呼ぶ。周りの男たちは床にはいつくばって、完全に失神していた。

 八鬼は僕の前にとても十五歳とは思えない隆々とした体躯で立ち塞がった。

「淫売野郎」

 地獄から響いてきたような声に、体に一気に鳥肌が立った。

「違…………!」

 僕はこんなことを望んでたわけじゃない!
 力任せだったんだ、無理やりだったんだ!

「何が違うんだ? あぁ? おっ立てやがって、気色悪ぃ」

 目だけは八鬼を睨みながら、頬が真赤になった。興奮した体を見られていたんだ。
 せっかく拭った目に涙がまた溢れてきた。触られれば、反応してしまう。相手が男でも――男ってそんなもんだろう! ましてや僕は経験も無いんだから。

 恥ずかしくて堪らなくて、言い返す言葉がなくて、それでも必死に睨み続ける。

 ドガッ!

 僕の顔の横に、八鬼の重い蹴りが入った。

 あと数センチずれていたら、僕の顔は踏み潰されていた。

 僕みたいなひ弱で人畜無害な人間には一生掛ったって体得出来そうにない、馬鹿みたいに重たい喧嘩専用の蹴りだ。

「お前みたいな淫売野郎――見てるだけで吐き気がすんな。こいつらはお前が誘ったのか? 股開いて入れてくれってねだったのか?」
「違う――――……!」
「違わねぇだろうが」

 八鬼の巨大な体が伸し掛かってきた。

「や……! やだ……!」

 この体なら、ウエイトは少なくとも八十以上のヘビー級。それに引き換え、僕は五十も越えない、ランク付けするのもおごがましい鶏がらだ。
 どれだけ暴れたって、こいつを押し返せるはずはない。
 それでも。

 「嫌だ」と、必死に腕を伸ばした。

「うるせぇ」

 ぱん、と横面を張られ、抽象画の世界にでも放り投げられたかのように視界が歪んだ。

 父さんに殴られた経験は数え切れないほどある。兄さんと殴り合いの喧嘩をしたことだってある。けど、脳震盪を起こしそうな本気の平手を食らったのは初めてで、抵抗するという思考が霧散して消えてしまう。

 絶対に、勝てないから。

 襟首をつかまれ引き起こされる。僕の口の中に何かが突っ込まれた。

 男の、性器、だ。

 一気に吐き気が込み上げて歯を立てそうになったけど、噛み付きでもしようものなら確実に殺されてしまう。懸命に堪えて歯を浮かせる。
 頭を鷲掴みにされて、喉の奥まで犯されてぐぅ、とえづく。

「ん…………んぅ…………」

 僕の口の中で、八鬼のが大きくなっていく。
 ただでさえ口に治まる大きさじゃないのに。
 顎はすぐにだるくなり、喉の奥に先走る精で吐き気が増していく。

 腰を押し付けられ頭を前後に動かされ、めちゃくちゃに喉の奥まで突っ込まれる。
 頬に、上あごに、喉の奥に押し込められて、僕の唾液と先走りで口の中が泡立つ。固まりになった泡が唇からだらりと流れ落ちていった。
 苦しい。もう駄目だ。そう思うのを待っていたかのように八鬼のが引き抜かれた。

 そして。

 ぐ、と足をこじ開かれた。

「てめぇは最初から気に食わなかったんだよ」

 何故?
 僕は何もしてないのに。

 机を蹴り飛ばされても文句もいわなかったのに。

「こんな、淫売野郎だったとはな。気に食わなくて当たり前だ」
「や…………!」

 いきり立った雄がいきなり押し付けられ――……。



 僕は、薄汚くカビ臭い体育館倉庫で犯された。



 目を覚ましたのは六時五十分。


 腕時計を見た僕は夜の六時だと思ったんだけど、外は白々と空けていた。
 どうやら朝の六時らしい。
 気を失っていた上級生達は一人残らず居なくなっていた。
 気が付いたのなら、僕も起こしてくれればよかったのに。

 体を起こそうとするけど、体の芯が疼いて立ち上がるどころでは無かった。

 辛くて、痛くて、小さかったけど金切りの悲鳴を上げてしまう。
 呆けていた頭に昨日の映像が高速で流れ去った。

 嫌だ。思い出したくない。必死に意識を逸らして立ち上がろうと踏ん張るが、どうがんばっても足に力が入らない。

 今日は欠席かな。

 目が覚めたら全部夢だったらいいのに。取りとめも無く思いながら、僕の記憶はゆっくりと意識の底へと沈んで行った。




 次に目を覚ましたのが四時三十分。今度の空は赤くって、あぁ、夕方なんだな、と体に力を入れる。ありがたいことに今度はちゃんと足が立った。

「食欲がないなぁ……」

 力の無い声が狭い体育倉庫に響く。
 お風呂に入ってさっさと寝てしまおう……。
 壁に手をついて立ち上がり、マットの上に寝ていたせいで痛む体を引きずって、とにかく浴場へ向かった。

 風呂にはまだ誰も居なくて、当然ながら全然お湯も沸いてなかったけど、シャワーだけでも浴びる。

「痣になっちゃってる……」

 踏みつけられて出来た痕が肘に浮き、手首にはくっきりと八鬼の手形が付いていた。
 誰も居なくて良かったよ。こんなのを見られたら、どんな噂が立ったかわからない。
 鏡の中の自分にクスリと笑い、突然震えが襲ってきた。
 洗面器の湯に水滴が弾けて消える。

「う……くぅ……」

 ぱん、と顔を叩くように両手で押さえつける。泣きじゃくる声と涙を抑えようとするが、無駄だった。
 涙はきりもなく洗面器で弾け、嗚咽は漏れていく。

 どうして僕は、弱かったんだ。

 もっと力があって、体力があって、根性があったら、ひょっとしたら逃げ出せたかもしれないのに。
 力がなくても、賢かったらあんな場所へのこのこ出て行ったりしなかったのに。
 僕が弱かったから、僕が、僕が……。
 手の感触を忘れたい。
 きりも無く肌を擦る。赤くなっても擦り続けた。そうするしかなかった。

 頭までガシガシ洗って、洗面器で水を何度もぶっかけて、窒息しそうになるまでシャワーを顔面に引っ掛け風呂場を出た。

 一刻も早く体を洗いたかったせいで着替えの服を準備して無かった。
 埃に汚れた制服を着るしかない。嫌だ。この服を着るだけで、昨日のことを思い出してしまいそうだ。
 さっさと帰って、着替えて、寝よう。
 こんな時は本当に、同室者が居ないのはありがたい。

 金目の物は置いてなかったので部屋に鍵はかけて無かった。俯きながらドアを開け――電気がついてて、は、と顔を上げる。

「遅かったじゃねえか」
 空っぽのはずの隣のベッドに、窮屈そうに横たわる長身。八鬼が――――。
 がくがく足が震えた。
 猛獣が、のっそりと立ち上がる。

「今日から同室だからよ、よろしく頼むぜ、羽鳥夏樹君」
 震える足じゃ逃げられもせずに、ベッドに転がされた。

「や、……やだっ……」
「安心しとけ、飯の時間になる前にやめてやるからよ」
 逃げる術も、力も無い。
 ぐい、と力任せにこじ開けられて、迸りそうになる絶叫を懸命に抑えることだけが、僕に出来ることだった。


 八鬼は言葉どおりにご飯前には僕を離した。だけど、立ち上がる気力もなくて、晩御飯を食べないまま朝まで浅い眠りを貪った。
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