僕は美女だったらしい

寺蔵

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はじめての――――。

ハッピーエンド!(完)

「おい、起きろ。飯だぞ」

 揺すられて目を覚ます。
「ん……」

 頭まで被っていた布団から目までを出す。電灯の光が眩しい。
 窓の外は真っ暗になっていた。
 弛緩してた体に力を入れた途端、びりっと腰に甘い痺れが走って「んぅ」と呻いてしまった。慌てて布団で口を塞いで声を消す。

「エロい声出してんじゃねーよ」
 しっかり聞かれてた。八鬼に意地悪く笑われたのが悔しいのと恥かしいのとで、布団の中に戻りそうになってしまう。

 テーブルの上にはご飯の乗ったトレイが二つ置かれていた。

「また……ご飯? 最近ご飯ばかり食べてるよ……。三日ぐらい食べなくていい……」
「馬鹿いってんじゃねえ。ちゃんと食え」

「…………」

 それでもベッドから起きないでいると、軽く抱え上げられて椅子に座らされてしまった。

 晩御飯のメニューは目玉焼き、ハンバーグ、エビフライ。お味噌汁とご飯。

 僕の正面に八鬼が座る。

「ほら、食え」
 綺麗な手さばきでエビフライを切り分けて、フォークで差し出してくる。

「…………」

 海老は大好きだ。
 こんな大きなエビフライなんて、年に一回も食べさせてもらえなかった。
 中学時代の僕なら喜んで真っ先に食べただろうに。

 口はどうしても開かない。

 八鬼はエビフライを皿に戻し、今度はミニトマトを差し出した。
「これならどうだ?」
 つやつやとした赤いトマト。これも、大好きだったけど……。

 やっぱり口が開かなくて、八鬼の目を見たまま首を振る。

「それ、やめろ」
 それ?

「悲しそうな目で俺を見て首を振るのやめろ。どうしょうもねえ気分になる」
 どうしょうもない?

「お前みたいな綺麗な小さいのが、弱って死んでいくのを見てることしか出来ないなんて冗談じゃねーんだよ……くそ、折角回復してたのに、あんな連中に返したせいで全部水の泡だ」

 八鬼が椅子を鳴らして立ち上がった。

 お粥を作ってくれるのかな?

 あれ? でも。
 ご飯は持っていかなかった。

 ……。
 なんか、一人にされると。
 体に触れた八鬼の手の感触を思い出して恥ずかしくなる……。
 僕の顔ぐらい簡単につかめてしまう大きな掌が――うぅ、駄目だ考えるのはやめよう。

 そういえば、あんなにドロドロになったのに、体、べたべたしない……。顔も、あれだけ泣いたのに気持ち悪くないし……。
 ひょっとして八鬼が後始末してくれたのかな?
 意外だ。こんなに甲斐甲斐しくしてくれるなんて。

(入寮日だって、お前から俺に媚び売ってきたくせにさ。金持ちがいるってわかったら即乗り換えるってビッチにも程があんだろ!)

 本当に突然に、僕の頭の中に船寺の声が反響した。
 鼓膜が痛くなるぐらい勢い良く耳を塞ぐ。

 八鬼……!

 ふらつく足で立ち上がり、冷蔵庫の置いてあるフリースペースのドアを開いた。
 広い背中を見た途端に全身の緊張が和らぐ。

「丁度出来た所だ」
 出来た? 材料もないのに何が?

 八鬼はトレイを横に避け、ランチョンマットの上に土鍋を置いた。

「ほら」
「わ」

 中に入ってたのは、ネギとかまぼこの乗せられたうどんだった!

「これなら食えるか?」
「――うん! いただきます! ……ありがとう」

 嬉しくて、身を乗り出すようにして御礼を言うと、大きな掌が僕の顔を撫でた。

 八鬼?

 ゆっくり何度か撫でてから、意を決したみたいに八鬼が口を開く。

「いっぺんしかいわねえからな。ちゃんと聞けよ」

 うん? 何?

 うどん、早く食べたいから早く言って欲しい。
 八鬼を急かすみたいに、ぐぅ。って僕のお腹が鳴った。八鬼は小さく肩を揺らして笑ってから、僕の目を覗きこんで言った。

「いままで、殴ったり無理やり抱いたりして、悪かった」

 え!? や、八鬼が、この暴君が謝った……!?
 驚きすぎて固まる僕に、八鬼は続けた。

「お前に惚れてる。ちゃんと、付き合いたい――……」


 え?


「倉庫で……お前が男達に囲まれてるのを見て頭ん中ぶっ千切れた。俺は……ひょっとしたら、列車でお前と目が会った時に、一目惚れしてたのかもしれねえ」


 それから、間が少し開いて、


「好きだ」


 そう、はっきりと、口にした。
 告げた八鬼の目元がほんの少しだけど照れたみたいに赤くなってて――――――!





「八鬼――――ぼ、僕も――――」





 僕は、どうしょうもない気分に突き動かされ、


 感極まった子供みたいに大粒の涙を落とし、声を振るわせながら。





 幸せな返事をした――――。














<完>
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