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<ただ、幸せなだけの日常>
こんな関係は一時的なことだ。
「……僕は、八鬼の邪魔はしたくない。八鬼はちゃんと女の人と幸せになって欲しい。八鬼の子供なら絶対可愛いから僕も見てみたいしね。高校を卒業したら二度と会わないよ。働き始めたら、買ってもらった物の代金も利子をつけてちゃんと返す」
「はぁ? 何よそれ。あんたはそれでいいの?」
「いいも悪いも無いよ。僕と八鬼は、偶然、この学校で一緒になっただけで住んでる世界が違うんだから。八鬼は結婚しても赤ちゃんが出来ても報道されるだろうから雑誌を一杯集めるんだ。八鬼が幸せになるのを見たい。幸せな家族を作るの見たい」
薫君が、はあーと大きな溜息を吐いた。
「ほんとに八鬼のことが好きなのねぇ」
繰り返し同じ事を言う。でも、一回目は質問で、今回は呆れの交じった確信だった。
「アンタのこと誤解してたわ」
誤解?
首を傾げる僕に薫君は続けた。
「アンタは綺麗な顔だし毛並みがいいから、いい所の育ちの「お嬢様」だと思ってたのよ。それこそ金持ちの家に生まれて我侭三昧に育って、その上に男に貢がせて来たって感じのね。メイクしていると思ってたのも本音よ」
えええ!?
僕、物凄く地味な家庭で育ってきたのに。
我侭なんて言ったらお父さんに殴られてたよ。
メイクなんてとんでもない!
「八鬼は、あんたはそんな子じゃないって言ってたけど、どうしても納得できなくて。ごめんなさいね。試すような事をして……。八鬼をよろしくね」
「うん……?」
試すようなことって何だろう? 僕は何をされたんだろう?
「ちなみに、結婚するなんてのはウ・ソよ。あいつは八鬼グループを父親から乗っ取るつもりで動いているから、父親が決めた相手と結婚するなんて有り得ないわ。それどころか、八鬼の家に集中している権力を分散させていくつもりよ。子どもが居たら邪魔になるから結婚さえしないかもね」
「え、そんな」
「なんで結婚しないって言ってるのにそんな悲しそうな顔すんのよ」
コツンと軽く拳で叩かれてしまう。
だって、八鬼の子どもを見たいから……。
「昼間にヒロトも言ってたけど……金銭的な面は遠慮なく甘えちゃいなさい。あいつの父親はね、息子が何の考える力もないバカ息子であることを望んでるから、遊ぶ金は湯水のように使ってあげるのが親孝行なの」
「……??? どういう意味?」
「将来グループの総帥にする跡取り息子をこんな偏差値の低い学校に入れてるのよ。ちょっと考えればわかるでしょ。あいつの親父は引退後も息子を傀儡にして自分がグループを動かしていくつもりなの。下手に知恵をつけられたら面倒だから、バカ息子のままでいてほしいのね」
む、難しい……僕には良くわからないよ。
「まぁ、八鬼は八鬼で海外で口座を作った上に経済学を勉強して、他国の株取引で儲けてるのよね……。あいつは暴力だけが取り得にしか見えないかもしれないけど、周りの大人が想像する以上に悪知恵も働くから気をつけておきなさいね。あんたの人生設計なんか片っ端から潰されるかも。――あら、旦那様のお越しね。じゃ、私はこれで」
とん。と僕の肩を叩いて薫君が歩き出す。
いつの間にか八鬼がコミュニケーションルームに下りてきていた。
「薫……夏樹に余計な事吹き込んでねーだろうな」
「何も? ラブラブで羨ましい限りだわぁ」
そんなやり取りをして八鬼と薫君がすれ違う。
「あ、そうそう。その子、高校卒業したらアンタの前から消えるつもりらしいわよ。しっかり捕まえておきなさいね」
「ヒィ!? か、薫君!!」
酷いよ! 八鬼には告げるつもりなかったのに!
抗議するのに、薫君は振り返りもしなかった。
「夏樹」
名前を呼ばれてビクンと体を竦めてしまう。
怒られる。いや――怒られるのは、いいんだ。消えたら許さないってことだから、むしろ嬉しい。
でも、安心した顔をされたらどうしよう。
無関心に流されたらどうしよう。
胸が軋んだ。
胸が軋む? どうして? 僕は判ってたはずじゃないか。ここを卒業したら女の代用品なんて必要なくなるって。
「今のは、本当か?」
「――、うん、卒業したら、女の人と毎日会える様になるから、むしろ居ない方がいい――」
八鬼の手が僕の手首を握った。
顔の高さまで上げられて、ギリって音がするぐらいに強く握られた。
「――!? いた……!! や、八鬼、痛い……痛い……!!」
会ったばかりの頃のような容赦無い力に悲鳴が漏れる。
まだ残っていた連中が慌しくコミュニケーションルームを出ていくのが横目に見えた。
「消えるなんて許さねぇぞ。逃げようとしたら、お前の両足両手の骨叩き折ってやるから覚悟しとけ」
八鬼は冷たく光る目でそう宣告して、僕の唇に噛み付いた。
「はぁ? 何よそれ。あんたはそれでいいの?」
「いいも悪いも無いよ。僕と八鬼は、偶然、この学校で一緒になっただけで住んでる世界が違うんだから。八鬼は結婚しても赤ちゃんが出来ても報道されるだろうから雑誌を一杯集めるんだ。八鬼が幸せになるのを見たい。幸せな家族を作るの見たい」
薫君が、はあーと大きな溜息を吐いた。
「ほんとに八鬼のことが好きなのねぇ」
繰り返し同じ事を言う。でも、一回目は質問で、今回は呆れの交じった確信だった。
「アンタのこと誤解してたわ」
誤解?
首を傾げる僕に薫君は続けた。
「アンタは綺麗な顔だし毛並みがいいから、いい所の育ちの「お嬢様」だと思ってたのよ。それこそ金持ちの家に生まれて我侭三昧に育って、その上に男に貢がせて来たって感じのね。メイクしていると思ってたのも本音よ」
えええ!?
僕、物凄く地味な家庭で育ってきたのに。
我侭なんて言ったらお父さんに殴られてたよ。
メイクなんてとんでもない!
「八鬼は、あんたはそんな子じゃないって言ってたけど、どうしても納得できなくて。ごめんなさいね。試すような事をして……。八鬼をよろしくね」
「うん……?」
試すようなことって何だろう? 僕は何をされたんだろう?
「ちなみに、結婚するなんてのはウ・ソよ。あいつは八鬼グループを父親から乗っ取るつもりで動いているから、父親が決めた相手と結婚するなんて有り得ないわ。それどころか、八鬼の家に集中している権力を分散させていくつもりよ。子どもが居たら邪魔になるから結婚さえしないかもね」
「え、そんな」
「なんで結婚しないって言ってるのにそんな悲しそうな顔すんのよ」
コツンと軽く拳で叩かれてしまう。
だって、八鬼の子どもを見たいから……。
「昼間にヒロトも言ってたけど……金銭的な面は遠慮なく甘えちゃいなさい。あいつの父親はね、息子が何の考える力もないバカ息子であることを望んでるから、遊ぶ金は湯水のように使ってあげるのが親孝行なの」
「……??? どういう意味?」
「将来グループの総帥にする跡取り息子をこんな偏差値の低い学校に入れてるのよ。ちょっと考えればわかるでしょ。あいつの親父は引退後も息子を傀儡にして自分がグループを動かしていくつもりなの。下手に知恵をつけられたら面倒だから、バカ息子のままでいてほしいのね」
む、難しい……僕には良くわからないよ。
「まぁ、八鬼は八鬼で海外で口座を作った上に経済学を勉強して、他国の株取引で儲けてるのよね……。あいつは暴力だけが取り得にしか見えないかもしれないけど、周りの大人が想像する以上に悪知恵も働くから気をつけておきなさいね。あんたの人生設計なんか片っ端から潰されるかも。――あら、旦那様のお越しね。じゃ、私はこれで」
とん。と僕の肩を叩いて薫君が歩き出す。
いつの間にか八鬼がコミュニケーションルームに下りてきていた。
「薫……夏樹に余計な事吹き込んでねーだろうな」
「何も? ラブラブで羨ましい限りだわぁ」
そんなやり取りをして八鬼と薫君がすれ違う。
「あ、そうそう。その子、高校卒業したらアンタの前から消えるつもりらしいわよ。しっかり捕まえておきなさいね」
「ヒィ!? か、薫君!!」
酷いよ! 八鬼には告げるつもりなかったのに!
抗議するのに、薫君は振り返りもしなかった。
「夏樹」
名前を呼ばれてビクンと体を竦めてしまう。
怒られる。いや――怒られるのは、いいんだ。消えたら許さないってことだから、むしろ嬉しい。
でも、安心した顔をされたらどうしよう。
無関心に流されたらどうしよう。
胸が軋んだ。
胸が軋む? どうして? 僕は判ってたはずじゃないか。ここを卒業したら女の代用品なんて必要なくなるって。
「今のは、本当か?」
「――、うん、卒業したら、女の人と毎日会える様になるから、むしろ居ない方がいい――」
八鬼の手が僕の手首を握った。
顔の高さまで上げられて、ギリって音がするぐらいに強く握られた。
「――!? いた……!! や、八鬼、痛い……痛い……!!」
会ったばかりの頃のような容赦無い力に悲鳴が漏れる。
まだ残っていた連中が慌しくコミュニケーションルームを出ていくのが横目に見えた。
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