僕は美女だったらしい

寺蔵

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<ただ、幸せなだけの日常>

自分で食ってみろ

 薫君が僕を凝視したまま青ざめて、八鬼はめちゃくちゃイラッとした顔になった。

「本気で言ってるのか」
「ほ」

 んきだけど? って言おうとして表情の不穏さに慌てて

「んきじゃないです」

 と否定する。

「なら自分で食ってみろ」

 八鬼の掌が包むように僕に箸を持たせた。

 まずは、サラダに乗ってた残りのミニトマトを食べる。

 トレイに並ぶのは生姜焼き、ワカメと豆腐のお味噌汁。ご飯。
 どれもほかほかと湯気を立てて美味しそう。

 ……ふむ。

「今はお腹減ってないから後で食べるよ。空腹になれば嫌でも食べたくなるから」

 笑って箸を置く。

 二人の表情が益々怖くなった。
 気の弱い人だったら顔だけで殺せるんじゃないかってぐらいに。

 怒らせなれた僕でも流石に怖くて冷や汗が浮くものの、食べられないものは食べられない。

 お腹が減るまで待って欲しい。
 膝の上に両手を置いて視線を逸らす。

 顎を掴まれ顔を上げさせられて、逸らした視線を無理やり覗き込まれた。

「わかった。もし俺が死にそうになったら先にお前をブチ殺して死ぬからそれでいいな」

「あ、すごい。それで全部問題解決だね!」
 さすが八鬼。意外と頭が良いだけある。

 薫君が今度は物凄く嫌そうな表情で僕を覗きこんできた。

「この子本気で言ってんの?」
「本気なんだろうよ」

 八鬼が左の掌で顔を隠してうな垂れてしまった。声に力が無い。
 自分から言い出したくせになぜ脱力するんだろうか。

 八鬼はすぐに顔を上げて僕の頭を押さえるみたいに撫でた。

「まぁ今はいい。無理やり食わせようとしたら益々駄目になるだろうからな。少しずつでも、食えるようになっていけ」
「こんな調子でいつなれるのよ」
「果物は自分で食えるから一年もあればなんとかなるだろ」

 おお。一年も猶予ができた。

「うん。一年もすれば普通に食べれるようになるよ! 多分!」
「いい笑顔で多分を強調するんじゃないわよ。……でも、反動で太ったら面白いわね。二倍ぐらいに」

 薫君が嫌な事を言ってくる。
 それは絶対に嫌だな。
 太ったりしたらさっくりと八鬼に捨てられてしまいそうだし。
 食べられるようになったら体重に気をつけないと。

「太ったら太ったで愛嬌あっていいだろ」

「「ええ!?」」
 思いもよらなかった八鬼の言葉に、僕と薫君の悲鳴みたいなのが重なった。

「あんたデブ専だったぁ!? この身長で八十キロ越えてもいいっての!?」

 がし、と今度は薫君に頭を押された。やめて縮む縮む。

「この状態よりは太ってたほうが健康だろうからな……」

 大きな掌が僕の手首を掴んだ。
 そんな八鬼を凝視して、薫君がよろりと後ろに足を出した。

「あんたマジでこの子に惚れてんのねぇ……!」
「あ? うるせーな。出て行けよ」

 八鬼が薫君の足をガシっと蹴った。
 薫君はご飯持ってきてやったのにって文句を言いながらも「ごゆっくりー」と手を振って、部屋を出て行った。

「ほら」
 生姜焼きを箸で取って、口元に差し出してくれる。

 お皿に乗っている間は単なる焼いた薄い豚肉だったのに、八鬼にそうされると霜降りの最高級の肉に見える。
「ありがとう……」

 いつものように目を少し伏せて箸に口をつけた。

 美味しい……!

 咀嚼してから箸を受け取って、二口目からは自分で食べた。

「食わせりゃ美味そうに食うのにな」


 八鬼が困ったみたいに笑った。
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