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時間を戻して、夏の話
「み、皆が笑ってる……、男が女装してるからバカにした目で……」
「真十郎君うるさい!!」
僕も苛立った感情のまま叫び返す。
「やべえ……! 中身が夏樹さんだってわかってても超緊張する」
「すげえなぁ。やっぱさ、夏樹ちゃん髪を伸ばしたほうがいいよ。ショートカットも似合うけど、アップした髪最高に可愛い」
絶対伸ばさないよ……!
「いってらっしゃーい。花火大会楽しんできてねー」
八鬼と並んでいるところや薫君と並んでるところ、ヒロト君達と一緒のところ、と、何枚も何枚も写真を撮られてからようやく、スナック麗子から解放された。
ただでさえ人通りの多いお祭りの最中に、女装して歩くなんて……!
「み、皆が笑ってる……、男が女装してるからバカにした目で……」
八鬼の袖を掴んで巨体の陰に隠れるものの完全に隠れられるものじゃない。
見られている。すれ違う人たちが全員僕を見ている。あざ笑ってる……。
「あんた私に喧嘩売ってんの?」
「薫君のことじゃないよ! 薫君は似合ってるからいいけど僕は変だもん……!」
恥ずかしい。いっそのこと消えたい。
「今の夏樹さん見て、『男が女装してる』って見抜ける奴いたら江戸川コナン以上の探偵になれますよ」
「完璧に女だからなぁ。しかも最高クラス。夏樹ちゃん見てからほかの女見たら全部ブスに見えるのがこえーわ。夏樹ちゃんってガチで女の敵かも」
なぜ不良な人たちは身内びいきが過ぎるんだろうか。僕が八鬼の女だから八鬼に遠慮してるんだろうか。
普通に浴衣着てる女の子の方が普通に僕より可愛いに決まってるじゃないか……!!!
八鬼の浴衣に顔を伏せる。
ふわりと僕の横顔を八鬼の浴衣の袖が覆った。
僕を隠してくれる袖に甘えて、ぎゅうぎゅうにしがみ付く。
「疲れたなぁ……。少し座りたいです……」
僕の要望に応えてくれて皆の行き先が変わった。
沢山の丸テーブルが設置してある広場だ。周りをぐるりと屋台が取り囲み、大勢の人でにぎわっていたけど、幸いにも開いているテーブルがあった。
「ふー」
「足、靴擦れしてねえか?」
「うん。それは平気」
疲れたのは精神的な衝撃のせいです。
「どぞー、夏樹さん! チョコバナナ買ってきました」
「チョコバナナ?」
真十郎君が差し出してきたのはチョコレートをかけてトッピングを散らしたバナナだった。凍らせてあってアイスみたいだ。
「わ、美味しそう! ありがとう。いただきます」
僕の口には艶々と光る口紅が塗られていた。
口紅を食べたら気分が悪くなりそうなんで、できるだけ口を大きく開け舌を出し、バナナの先っぽを舐める。
「ん……おおきい……」
どこ産のバナナなんだろ。普通のバナナより大きいぞ。
「太いし、すごくかたい……」
食べにくいなぁ。
側面も舐めて、また、先っぽに。
「美味しい……」
とろりと溶け出したチョコレートが美味しい。
舌先で掬い取った途端に――――
ゴン、と、強烈なげんこつが頭に落ちた。
薫君だ。
「ったああ~~! な、何するんだよ!?」
「わざとやってんのあんた!!!?」
「わざとって何を!?」
怒鳴り合う僕と薫君の横で、
「やべ、勃った勃った」と真十郎君が前かがみになり
「すげーイイモン見ちゃった」とヒロト君がニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる。
「あっ」
八鬼が僕の手からチョコバナナを取った。
氷みたいに固かったそれを一噛みで食いちぎって、僕の頭を引き寄せる。
「ん――――!?」
僕たちが今居るのはお祭りの真っただ中で。
周りにはたくさんの人が居て。
屋台で仕事をしてる人もたくさんいるというのに。
八鬼が、口移しで僕にチョコバナナを食べさせた。
「なにひゅんらよ!」
ドン、と突き飛ばして八鬼から離れる。
な、泣きたい……!
真っ赤になって顔を隠すしかできない。
「かわいー」女の人の笑う声が聞こえる。指の隙間からそっと伺うと、会社帰りらしいスーツを着た女性の集団が僕を指さして笑っていた。
「~~~~!!! もういらなひ! やぎにやる!」
居てもたってもいられなくなって、口の中のバナナをバリバリ食べて、逃げ出すみたいに歩き出す。
「どこ行くんだよ」
「ヤキソバ買ってくる!」
あ。
「お金……」
「ほら」
八鬼が財布から千円札を出してくれた。
「ありがとうございます」
「怒っていても礼は言うのね」
面白そうな薫君の声を後に、僕は立ち並ぶ屋台に向かったのだった。
僕も苛立った感情のまま叫び返す。
「やべえ……! 中身が夏樹さんだってわかってても超緊張する」
「すげえなぁ。やっぱさ、夏樹ちゃん髪を伸ばしたほうがいいよ。ショートカットも似合うけど、アップした髪最高に可愛い」
絶対伸ばさないよ……!
「いってらっしゃーい。花火大会楽しんできてねー」
八鬼と並んでいるところや薫君と並んでるところ、ヒロト君達と一緒のところ、と、何枚も何枚も写真を撮られてからようやく、スナック麗子から解放された。
ただでさえ人通りの多いお祭りの最中に、女装して歩くなんて……!
「み、皆が笑ってる……、男が女装してるからバカにした目で……」
八鬼の袖を掴んで巨体の陰に隠れるものの完全に隠れられるものじゃない。
見られている。すれ違う人たちが全員僕を見ている。あざ笑ってる……。
「あんた私に喧嘩売ってんの?」
「薫君のことじゃないよ! 薫君は似合ってるからいいけど僕は変だもん……!」
恥ずかしい。いっそのこと消えたい。
「今の夏樹さん見て、『男が女装してる』って見抜ける奴いたら江戸川コナン以上の探偵になれますよ」
「完璧に女だからなぁ。しかも最高クラス。夏樹ちゃん見てからほかの女見たら全部ブスに見えるのがこえーわ。夏樹ちゃんってガチで女の敵かも」
なぜ不良な人たちは身内びいきが過ぎるんだろうか。僕が八鬼の女だから八鬼に遠慮してるんだろうか。
普通に浴衣着てる女の子の方が普通に僕より可愛いに決まってるじゃないか……!!!
八鬼の浴衣に顔を伏せる。
ふわりと僕の横顔を八鬼の浴衣の袖が覆った。
僕を隠してくれる袖に甘えて、ぎゅうぎゅうにしがみ付く。
「疲れたなぁ……。少し座りたいです……」
僕の要望に応えてくれて皆の行き先が変わった。
沢山の丸テーブルが設置してある広場だ。周りをぐるりと屋台が取り囲み、大勢の人でにぎわっていたけど、幸いにも開いているテーブルがあった。
「ふー」
「足、靴擦れしてねえか?」
「うん。それは平気」
疲れたのは精神的な衝撃のせいです。
「どぞー、夏樹さん! チョコバナナ買ってきました」
「チョコバナナ?」
真十郎君が差し出してきたのはチョコレートをかけてトッピングを散らしたバナナだった。凍らせてあってアイスみたいだ。
「わ、美味しそう! ありがとう。いただきます」
僕の口には艶々と光る口紅が塗られていた。
口紅を食べたら気分が悪くなりそうなんで、できるだけ口を大きく開け舌を出し、バナナの先っぽを舐める。
「ん……おおきい……」
どこ産のバナナなんだろ。普通のバナナより大きいぞ。
「太いし、すごくかたい……」
食べにくいなぁ。
側面も舐めて、また、先っぽに。
「美味しい……」
とろりと溶け出したチョコレートが美味しい。
舌先で掬い取った途端に――――
ゴン、と、強烈なげんこつが頭に落ちた。
薫君だ。
「ったああ~~! な、何するんだよ!?」
「わざとやってんのあんた!!!?」
「わざとって何を!?」
怒鳴り合う僕と薫君の横で、
「やべ、勃った勃った」と真十郎君が前かがみになり
「すげーイイモン見ちゃった」とヒロト君がニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる。
「あっ」
八鬼が僕の手からチョコバナナを取った。
氷みたいに固かったそれを一噛みで食いちぎって、僕の頭を引き寄せる。
「ん――――!?」
僕たちが今居るのはお祭りの真っただ中で。
周りにはたくさんの人が居て。
屋台で仕事をしてる人もたくさんいるというのに。
八鬼が、口移しで僕にチョコバナナを食べさせた。
「なにひゅんらよ!」
ドン、と突き飛ばして八鬼から離れる。
な、泣きたい……!
真っ赤になって顔を隠すしかできない。
「かわいー」女の人の笑う声が聞こえる。指の隙間からそっと伺うと、会社帰りらしいスーツを着た女性の集団が僕を指さして笑っていた。
「~~~~!!! もういらなひ! やぎにやる!」
居てもたってもいられなくなって、口の中のバナナをバリバリ食べて、逃げ出すみたいに歩き出す。
「どこ行くんだよ」
「ヤキソバ買ってくる!」
あ。
「お金……」
「ほら」
八鬼が財布から千円札を出してくれた。
「ありがとうございます」
「怒っていても礼は言うのね」
面白そうな薫君の声を後に、僕は立ち並ぶ屋台に向かったのだった。
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