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第十七話 夢で逢いましょう
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その日の夜、元秋は夢を見た。
病院のベッドで寝ている元秋の上に西女の緑色の制服を来た奈々が寂しげな表情で立っていた。
奈々はスカートの裾を持ちながら、元秋の上で腰を下ろし始めた。
元秋が思わず生唾を飲み込んだ、まさにその瞬間。
奈々が安藤に変わった。
安藤は元秋の腹の上に乗り、笑っていた。
「お前は何も知らない。病院の事も、障害の事も、俺と奈々の事も。ハハハハハ」
安藤はそう言って、元秋の上で何時までも笑っていた。
『なんだってんだ!安藤は!』
早朝、いつもの様にランニングに出かけた元秋は、夢の中の安藤と奈々に怒っていた。
『折角いい所でなんで奈々から安藤に変わるんだ!?安藤の奴思わせ振りな事ばっか言って笑ってやがるし。大体昨日の奈々と安藤は何なんだ?奈々も奈々で俺の知らない事が次々出てくるし。夢も現実も、皆で俺をからかってるのか?』
昨日、『また明日の朝』と言って別れた奈々が待っている川原へと元秋はいつもより早足で走った。
『何が何でも聞いてやる。気になってしょうがない』
元秋の頭にはそれしかなかった。
元秋は程なく川原に着いた。
土手の下、河川敷には奈々の姿が見えた。川の方を向いて今日は久し振りにトランペットを吹いていた。
プーーー
元秋は土手を下りて、奈々の方へとゆっくりと歩いた。
奈々は気付かずに、元秋に背を向けてトランペットを吹いていた。
奈々の後姿を見ているうちに元秋は穏やかな気持ちになり、少しふざけたくなった。
「何か見えますか?」
元秋が奈々の直ぐ後ろで声色を使って言った。
「えっ」
奈々はビックリして振り向いた。
元秋はニコニコして立っていた。
「やだー、ビックリするじゃないですかー。それにこれ、望遠鏡じゃないですよぉ、トランペット」
奈々は笑顔でそう言った。
『この子はいつも俺の前では屈託のない笑顔だ。奈々が泣くのは俺が色々聞いて泣かせるからだ。奈々は俺の前では笑顔だけ見せたいから、色々隠してるのか?俺には今目の前にいるこの奈々を見て貰いたいから。そうなのか?でも、昨日の安藤と奈々の話は、嬉しい話だと安藤は言ってた』
元秋はそんな事を思った。
「へへ、知ってる。ワザと」
「もう」
元秋が笑いながら言うのに、奈々も笑って返す。
『きっとこうやって二人で笑っている時が奈々は幸せなんだろうな。でも俺は、やっぱり気になって奈々に聞く。どんなに俺が大丈夫だと言っても、奈々は心配そうに悲しい顔をするんだろうな。それでも聞かないでいられない』
そう思って元秋は口を開く。
「ところでさ、昨日の安藤との話、なんだったの?凄い気になるんだけど」
「えー、それはまだ内緒ですよ」
元秋の問いに、奈々は直ぐに答えた。
「でもさ、なんか安藤と昔からの知り合いだったみたいじゃん。髪型がどうとか、手を振ったがどうとか」
元秋も食い下がる。
「髪型はの事は元秋君にも言いました」
奈々もキッパリ返す。
「だってさ、安藤モテるし、実は昔付き合った事あるのかな?とか、色々心配になっちゃうじゃん」
元秋が少し拗ねた様に言ったのを見た奈々は、
「あれ、嫉妬ですか?」
と、嬉しそうに返した。
どうやら今回のはいつもの様な深刻な話ではなさそうだ。と、元秋は思った。
「そんなんじゃないけど」
元秋はまた拗ねた様に言った。
奈々は堪らなく嬉しそうな顔で元秋を眺めた。
「フフ、じゃあ良いですよ。この滅多に鳴らないトランペット。一回で鳴らせたら教えます」
そう言うと奈々は手に持っていたトランペットを元秋の方に向けた。
「それって、間接キス?」
ポロッと、元秋は言った。
つづく
病院のベッドで寝ている元秋の上に西女の緑色の制服を来た奈々が寂しげな表情で立っていた。
奈々はスカートの裾を持ちながら、元秋の上で腰を下ろし始めた。
元秋が思わず生唾を飲み込んだ、まさにその瞬間。
奈々が安藤に変わった。
安藤は元秋の腹の上に乗り、笑っていた。
「お前は何も知らない。病院の事も、障害の事も、俺と奈々の事も。ハハハハハ」
安藤はそう言って、元秋の上で何時までも笑っていた。
『なんだってんだ!安藤は!』
早朝、いつもの様にランニングに出かけた元秋は、夢の中の安藤と奈々に怒っていた。
『折角いい所でなんで奈々から安藤に変わるんだ!?安藤の奴思わせ振りな事ばっか言って笑ってやがるし。大体昨日の奈々と安藤は何なんだ?奈々も奈々で俺の知らない事が次々出てくるし。夢も現実も、皆で俺をからかってるのか?』
昨日、『また明日の朝』と言って別れた奈々が待っている川原へと元秋はいつもより早足で走った。
『何が何でも聞いてやる。気になってしょうがない』
元秋の頭にはそれしかなかった。
元秋は程なく川原に着いた。
土手の下、河川敷には奈々の姿が見えた。川の方を向いて今日は久し振りにトランペットを吹いていた。
プーーー
元秋は土手を下りて、奈々の方へとゆっくりと歩いた。
奈々は気付かずに、元秋に背を向けてトランペットを吹いていた。
奈々の後姿を見ているうちに元秋は穏やかな気持ちになり、少しふざけたくなった。
「何か見えますか?」
元秋が奈々の直ぐ後ろで声色を使って言った。
「えっ」
奈々はビックリして振り向いた。
元秋はニコニコして立っていた。
「やだー、ビックリするじゃないですかー。それにこれ、望遠鏡じゃないですよぉ、トランペット」
奈々は笑顔でそう言った。
『この子はいつも俺の前では屈託のない笑顔だ。奈々が泣くのは俺が色々聞いて泣かせるからだ。奈々は俺の前では笑顔だけ見せたいから、色々隠してるのか?俺には今目の前にいるこの奈々を見て貰いたいから。そうなのか?でも、昨日の安藤と奈々の話は、嬉しい話だと安藤は言ってた』
元秋はそんな事を思った。
「へへ、知ってる。ワザと」
「もう」
元秋が笑いながら言うのに、奈々も笑って返す。
『きっとこうやって二人で笑っている時が奈々は幸せなんだろうな。でも俺は、やっぱり気になって奈々に聞く。どんなに俺が大丈夫だと言っても、奈々は心配そうに悲しい顔をするんだろうな。それでも聞かないでいられない』
そう思って元秋は口を開く。
「ところでさ、昨日の安藤との話、なんだったの?凄い気になるんだけど」
「えー、それはまだ内緒ですよ」
元秋の問いに、奈々は直ぐに答えた。
「でもさ、なんか安藤と昔からの知り合いだったみたいじゃん。髪型がどうとか、手を振ったがどうとか」
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「髪型はの事は元秋君にも言いました」
奈々もキッパリ返す。
「だってさ、安藤モテるし、実は昔付き合った事あるのかな?とか、色々心配になっちゃうじゃん」
元秋が少し拗ねた様に言ったのを見た奈々は、
「あれ、嫉妬ですか?」
と、嬉しそうに返した。
どうやら今回のはいつもの様な深刻な話ではなさそうだ。と、元秋は思った。
「そんなんじゃないけど」
元秋はまた拗ねた様に言った。
奈々は堪らなく嬉しそうな顔で元秋を眺めた。
「フフ、じゃあ良いですよ。この滅多に鳴らないトランペット。一回で鳴らせたら教えます」
そう言うと奈々は手に持っていたトランペットを元秋の方に向けた。
「それって、間接キス?」
ポロッと、元秋は言った。
つづく
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