彼女の音が聞こえる (改訂版)

孤独堂

文字の大きさ
23 / 31

第十八話 土曜日のタマネギ

しおりを挟む
 「そうですよぉ。唾一杯入ってるし」
 ニコニコしながら奈々は言った。
 『きっとこういう所が奈々が普通の子と違う所なのかも知れない。でも、普通って何だろう?大多数と同じである事?奈々と同じ障害でも軽度だと高校、大学って行く人もいる。しかし、社会人になると、適応出来なかったりする。勉強はマイペースでも出来るけど、仕事はマイペースじゃ出来ないから?それは今の社会のスピードが速すぎるから?それは今の社会の基準にも問題があるから?一体世の中は誰のペースで進んでいるんだ?俺はこういう変な事を言う子供だったり大人だったり変化する奈々が面白いと思うし、好きなのに』
 奈々の言葉ににやけながら元秋は思った。
 「いいよ、やってやる」
 そう言うと元秋は奈々からトランペットを受け取り、トランペットの吹く方を自分の方に向けた。
 「わ、ここ、マウスピースって言うんだっけ、吹く所」
 「何?」
 急に元秋が驚いて見せたので、思わず奈々は声を挙げた。
 「なんか涎でビショビショ」
 「嘘!?」
 奈々はそう言うと恥ずかしそうな顔をした。
 「ハハハハ、嘘嘘、綺麗だよ」
 元秋は笑いながらそう言った。
 奈々はちょっと膨れっ面をした。
 奈々といると自分も子供っぽくなっちゃうなと、元秋は思った。
 『感染するのかな?でも、一緒にいて楽しいんだから、いいんじゃないか』

 元秋はトランペットを再度吹く構えに持って来た。
 そして指は何処も押さないまま、勢い良く吹いた。
   ポ~~~
 変な音だが確かに鳴った。
 「ほらー、鳴った」
 元秋は満足気に言った。
 「やっぱり神様だから鳴っちゃうんだなー」
 奈々は悔しがらず、寧ろニコニコした顔でそう言った。
 「約束だから教えろよ」
 「約束だからね」
 元秋の言葉を奈々は繰り返した。
 「ちゃんと教えるよ。土曜日に」
 「土曜日?」
 今度は奈々の言葉を元秋が繰り返す。
 「なんで土曜日?」
 「日曜でも良いけど、土曜のが良いでしょ?」
 「何の話?今教えてよ」
 元秋は訳が分らず聞いた。
 「今教えるとは言ってません。それにある所に一緒に行って貰いたいんだ。そしたら全部教える。知りたい事何でも教えちゃう」
 嬉しそうな顔で、奈々はそう言った。
 「えー、今教えてくれないの?」
 元秋は凄く不満そうな顔をして言った。
 「でも、元秋君が心配している様な事はないよ。安心して」
 「そうなの?」
 元秋はまだ納得してない様な感じで言った。
 「しょうがないなー。ん」
 そう言うと奈々は元秋に近づき頬にキスをした。
 「奈々って、子供なのか大人なのか分らないなぁ」
 元秋は嬉しそうににやけながらそう言った。
 「じゃあ、土曜日で良い?」
 「しょうがないなー。じゃあせめて、何で俺が奈々の神様なのか教えてよ」
 元秋は言った。
 「だって、元秋君といる時だけトランペット音が出たから」
 「え、それだけ?」
 「そう、それもある。後は土曜日に教えるから、今日から金曜まではもう聞かないでね。うわー、土曜日が楽しみ」
 奈々は楽しそうに言った。
 「えー、後で聞けないならせめて何処に行くのか位教えてよ」
 元秋が慌てて聞いた。
 「土曜日はピクニックに行きます。私サンドイッチ作ってくね。玉ねぎもなんかで使おうかな?」
 「ピクニック?」


  つづく


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...