24 / 31
第十九話 電車でGO
しおりを挟む
それからの木・金は朝夕、奈々に会っても元秋は何も質問しなかった。
そして金曜日の別れ際に奈々が言った。
「じゃあ明日、この駅前で八時ね」
「え、朝川原には行かないの?」
元秋は尋ねた。
「だって明日はピクニックだよ。お弁当作んなきゃ」
「そうか」
その事を完璧に忘れていた元秋は苦笑いしながら言った。
「大丈夫?忘れないでよ」
心配になった奈々が尋ねた。
「大丈夫、大丈夫。そっちこそ約束忘れるなよ」
「何の約束?」
「は?」
元秋は一瞬固まって、しかし、障害で忘れっぽいというのもあるし、でも奈々は変に記憶力良いし、こういう時どう対処すれば良いんだ?と悩んだ。
「嘘だよー。ちゃんと覚えてるから」
元秋が悩み込んだ顔をニコニコしながら見て、奈々は言った。
「ホントに?」
元秋は半信半疑で聞く。
「大丈夫、ちゃんと覚えてるよ。何でも私の事教えるって約束。でも、Hな質問とかスリーサイズとか聞くのはナシね」
「ああ、ちゃんと覚えてたんだ」
「元秋君、私が忘れてるかもと思って、色々考えたでしょ?障害の所為とか。で、なんて声掛けようかって。顔に全部書いてあった。優しいね。ありがとう」
奈々は微笑みながら元秋に一礼した。
「そんなの普通だよ」
元秋は照れくさそうに言った。
「それより俺の顔って、そんなに表情に出てた?」
「うん!ばっちし!」
そう言うと奈々はVサインをした。
「マジかー」
それから直ぐに電車の時間で、元秋と奈々は別れた。
次の日の朝(土曜日)八時、駅前。
元秋より先に奈々が来ていた。
「待った?」
「ううん、ちょっとだけ。じゃあ行こう」
奈々はそう言うとトートバッグを肩に背負い、スタスタと駅の方へ向かって歩き出した。
「ちょっと」
慌てて元秋も後を歩く。
今日の奈々の服装は中に白いブラウス、表は黒いワンピースだった。全身真っ黒の中に首周りの白い襟が唯一色違いになって顔を目だ立たせていた。
『ホントに可愛いや』
元秋は思わず奈々に見惚れていた。
奈々は定期で、元秋は切符を買い、二人は改札を抜けてホームへ向かい、電車が来るまでの時間を過ごした。
「それで、何処に行くの?」
元秋が尋ねた。
「私の町」
ホームのベンチに座りながら奈々が答えた。
「は?奈々の街?まさか実家に挨拶とかじゃないよね」
「違うよ。元秋君、ホントに顔に出過ぎ。慌ててんの丸見えだよ」
奈々は少し笑いながら言った。
「まだ電車来るまで十分以上あるから、元秋君も座ったら」
奈々に言われ、元秋は隣に座った。
「そうだよな。流石に実家はないよな」
「もしかしてビビッてる?ウチに行くの嫌だ?」
元秋の言葉に奈々が尋ねた。
「そんな事ないけど」
元秋の言葉に奈々は反応せず、少し間を空けてから言った、
「もし、元秋君が別れたくなったら直ぐ言ってね」
「えー!」
元秋は奈々の言葉に驚いた。
「何で急にそんな事言うんだよー」
「私たまに凄く愛情が気になっちゃうの。今はどうだろう、今はどうだろうて。それでいつも好きなのか嫌いなのか、はっきりして貰いたくなっちゃう。あー上手く言えないけど、言ってる事伝わってる?元秋君と居て凄く幸せなのに、凄く不安なの」
「つまり俺が今、奈々の事を好きかどうかって事?」
元秋の言葉に奈々は黙って頷いた。
「好きに決まってるだろ。無茶苦茶大好きだよ」
元秋がそう言うと奈々の表情が急速に笑顔に戻った。
『実家の話で俺がビビッてると思って、急に不安になったんだな。こういう子と付き合う時はそういう所にも気を付けないといけないのか』
元秋は少しずつ覚えて慣れていこうと思った。
「お墓参りしたいの」
気持ちの落ち着いた奈々が言った。
「お墓参り?」
元秋が繰り返す。
「北村颯太君の、あの両足を失った幼馴染の」
「え、あの病院の幼馴染?なんで」
元秋は急に重い気分になった。正直その病院の話は聞きたくなかったからだ。
「あ、電車来た」
ホームに電車が滑り込んで来て、奈々は立ち上がりながら言った。
つづく
そして金曜日の別れ際に奈々が言った。
「じゃあ明日、この駅前で八時ね」
「え、朝川原には行かないの?」
元秋は尋ねた。
「だって明日はピクニックだよ。お弁当作んなきゃ」
「そうか」
その事を完璧に忘れていた元秋は苦笑いしながら言った。
「大丈夫?忘れないでよ」
心配になった奈々が尋ねた。
「大丈夫、大丈夫。そっちこそ約束忘れるなよ」
「何の約束?」
「は?」
元秋は一瞬固まって、しかし、障害で忘れっぽいというのもあるし、でも奈々は変に記憶力良いし、こういう時どう対処すれば良いんだ?と悩んだ。
「嘘だよー。ちゃんと覚えてるから」
元秋が悩み込んだ顔をニコニコしながら見て、奈々は言った。
「ホントに?」
元秋は半信半疑で聞く。
「大丈夫、ちゃんと覚えてるよ。何でも私の事教えるって約束。でも、Hな質問とかスリーサイズとか聞くのはナシね」
「ああ、ちゃんと覚えてたんだ」
「元秋君、私が忘れてるかもと思って、色々考えたでしょ?障害の所為とか。で、なんて声掛けようかって。顔に全部書いてあった。優しいね。ありがとう」
奈々は微笑みながら元秋に一礼した。
「そんなの普通だよ」
元秋は照れくさそうに言った。
「それより俺の顔って、そんなに表情に出てた?」
「うん!ばっちし!」
そう言うと奈々はVサインをした。
「マジかー」
それから直ぐに電車の時間で、元秋と奈々は別れた。
次の日の朝(土曜日)八時、駅前。
元秋より先に奈々が来ていた。
「待った?」
「ううん、ちょっとだけ。じゃあ行こう」
奈々はそう言うとトートバッグを肩に背負い、スタスタと駅の方へ向かって歩き出した。
「ちょっと」
慌てて元秋も後を歩く。
今日の奈々の服装は中に白いブラウス、表は黒いワンピースだった。全身真っ黒の中に首周りの白い襟が唯一色違いになって顔を目だ立たせていた。
『ホントに可愛いや』
元秋は思わず奈々に見惚れていた。
奈々は定期で、元秋は切符を買い、二人は改札を抜けてホームへ向かい、電車が来るまでの時間を過ごした。
「それで、何処に行くの?」
元秋が尋ねた。
「私の町」
ホームのベンチに座りながら奈々が答えた。
「は?奈々の街?まさか実家に挨拶とかじゃないよね」
「違うよ。元秋君、ホントに顔に出過ぎ。慌ててんの丸見えだよ」
奈々は少し笑いながら言った。
「まだ電車来るまで十分以上あるから、元秋君も座ったら」
奈々に言われ、元秋は隣に座った。
「そうだよな。流石に実家はないよな」
「もしかしてビビッてる?ウチに行くの嫌だ?」
元秋の言葉に奈々が尋ねた。
「そんな事ないけど」
元秋の言葉に奈々は反応せず、少し間を空けてから言った、
「もし、元秋君が別れたくなったら直ぐ言ってね」
「えー!」
元秋は奈々の言葉に驚いた。
「何で急にそんな事言うんだよー」
「私たまに凄く愛情が気になっちゃうの。今はどうだろう、今はどうだろうて。それでいつも好きなのか嫌いなのか、はっきりして貰いたくなっちゃう。あー上手く言えないけど、言ってる事伝わってる?元秋君と居て凄く幸せなのに、凄く不安なの」
「つまり俺が今、奈々の事を好きかどうかって事?」
元秋の言葉に奈々は黙って頷いた。
「好きに決まってるだろ。無茶苦茶大好きだよ」
元秋がそう言うと奈々の表情が急速に笑顔に戻った。
『実家の話で俺がビビッてると思って、急に不安になったんだな。こういう子と付き合う時はそういう所にも気を付けないといけないのか』
元秋は少しずつ覚えて慣れていこうと思った。
「お墓参りしたいの」
気持ちの落ち着いた奈々が言った。
「お墓参り?」
元秋が繰り返す。
「北村颯太君の、あの両足を失った幼馴染の」
「え、あの病院の幼馴染?なんで」
元秋は急に重い気分になった。正直その病院の話は聞きたくなかったからだ。
「あ、電車来た」
ホームに電車が滑り込んで来て、奈々は立ち上がりながら言った。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる