彼女の音が聞こえる (改訂版)

孤独堂

文字の大きさ
26 / 31

第二十一話 やさしい旅 その②

しおりを挟む
 「じゃあ、またね」
 「うん、また」
 同級生は手を振りそう言うと、駅の方へと歩いて行った。

 「さっきの人、中学の同級生だよね」
 「そうだよ」
 駅へ向かう奈々の同級生の遠ざかる後姿を見ながら元秋は言った。
 「マジで、野沢菜って呼ばれてたね」
 クスクス笑いながら元秋が言う。
 「だから、最初に元秋君当てた時、ビックリしたんじゃん」
 奈々は恥ずかしそうな顔で頬を膨らませて言った。
 「へー、野沢菜、野沢菜」
 歩きながら面白がって、元秋は言った。
 「もお、元秋君、それよりなんか分ったの?ふざけてないでちゃんと考えて、いつ、何処で、私に会ったのか」
 奈々はちょっと怒った様に言った。
 「あ、そか。思ったんだけど、この旅は、イヤ、ピクニックは、奈々ちゃんの過去を辿る旅なのかな?『地獄の黙示録』みたいな」
 「地獄の・・・知らない」
 「知らない?有名な映画なんだけど。ある男の人生を別の男が辿る様な、あ、でも女の子向きじゃないか」
 元秋の話に前を歩いていた奈々が振り向いた。
 「元秋君、ちゃんと考えて。私の事なんだよ。私の事を元秋君に探して貰うピクニックなんだよ」
 そう言う奈々の目は涙目になっていた。
 「そうなの?あ、ごめん。分ったちゃんと考える」
 奈々の涙目を見て、元秋は真面目に考えようと思った。
 「じゃあさ、さっきの同級生の人。俺の事見て奈々みたいに神様って言ってたけど、奈々の中学校じゃ、俺、有名なの?」
 「んー、私が写真クラスの友達とかに見せたから。一部有名」
 「写真?俺の写ってる写真なんか持てたの?」
 元秋はビックリして聞いた。
 「へへー、貰った。安藤さんも写ってるよ。皆そっちばっかり格好良いって言ってたけど」
 奈々はニヤニヤして答えた。
 「見せてよ。その写真」
 「駄目ー、まだ駄目。お墓に着いたら見せてあげる」
 「ちぇ」
 「それと何処かコンビニとお花屋さん回らなくちゃ」
 「コンビニとお花?」
 「お墓参り行くのに、線香もお花も持ってかないんじゃ、バチがあたるでしょ」
 「ああ、そうか」
 そう言って二人は近くのコンビニに入った。

 線香とライターと、花屋に回って花も購入して、二人はお寺のの墓地を目指して坂道を登っていた。
 この町は小高い小さな山が幾つもあり、坂道の多い町だった。
 お寺は必ず少し高い位置にあった。
 「もう少し上がると、お寺の石段だから」
 先を歩く奈々が言った。
 「石段って、そこから更に上がるの?」
 「そう。この辺のお寺は皆そうだよ。がんばって、陸上部なんでしょ?この町の中高の陸上部は皆こういう所で練習してるよ」
 「えー、マジか。そう言えばこの町の高校、陸上で有名校だもんな。あっちこっちから人集めたりして。俺も中学から何回か大会でこの町来た事あるや」
 元秋は疲れて肩で息をしながら言った。
 「俺、こういう坂道練習してないもんな。ん、あっ、分った!」
 そう言うと元秋は急に立ち止まった。
 奈々も立ち止まり振り返る。
 「何?」
 「これから墓参りする幼馴染って、陸上部だった?」
 「そうだけど」
 奈々は何食わぬ顔をして言った。
 「じゃあ、陸上だ!陸上部の大会で俺が写ってる写真を貰ったんだ!もしかしてそこで奈々に会ってるのか?俺」
 「ピンポーン!大正解!」
 奈々は嬉しそうな顔でそう言った。


    つづく

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...