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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第26話
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何となく分っていた事とはいえ、突然の言葉に斜め下を見たままの美紗子の脳は一瞬活動を停止でもしたのか、僅か数秒だったが、瞳孔が開いた。
そのまま言葉が見つからず沈黙を守り続ける美紗子。
「はぁ」
その様子を見てやっぱりかと水口は溜息を漏らした。
「確証はなかったんだけど、やっぱりそうなのね。さっき斉藤さんを連れて保健室に行った時先生に尋ねたの。先生ははっきりとは答えなかった」
扉に背中を当てたまま、胸のところで腕組をしながら水口は出来る限り冷静にそう言った。
「そう…」
観念したのか、相変わらず視線を合わせようとはせず、口を僅かに開いて美紗子はそれだけを言った。
「何処にいたの? 何をしていたの?」
相変わらず冷静に水口は尋ねる。
しかしそれにも美紗子は何も答えず、その場で急いで、考えを巡らせていた。
実際バレた時にどうするかを決めていなかったツケが此処で露になった。
幸一との図書室で過ごしていた時間を語るべきか?
語るとしたら何処から?
もしその事を話したら、きっと今まで以上に冷やかされるだろう。
(私はいい。どんなに冷やかされても幸一君と一緒にいられれば。でも彼は…幸一君はきっと凄く嫌がるだろう。もしかすると冷やかされるのが嫌で、私の側から離れて行ってしまうかも知れない。私にとって一番重要で大切な事は…)
考えれば考える程、美紗子は答えられなくなって行った。
そんな美紗子を鋭い目付きで睨みながら、暫く待って、水口は再び口を開いた。
「どうして答えられないの? もしかして、男子と居たんじゃないの? それだけは止めてよね。二組のみっちゃんって子に、『そら見た事か!』って馬鹿にされるから。本当にそれだけは止めて」
途中からは懇願する様に言う。
その言葉に美紗子は、水口は真実を望んでいないと理解した。
そして自分も。
「なんと言われても、私はやっぱり保健室にいたの。きっと、先生が忘れてしまったのよ」
突然正面を向き、水口と目を合わせると、美紗子はそう言った。
それを聞いて水口は一瞬ニヤリとすると、直ぐにまた鋭い眼差しに戻り、美紗子に向かって話し始めた。
「そうなの、フーン。じゃあそれでも良いけど。私にだけ本当の事を教えて。私はあの日の他の三人にもこの事を伝えなければいけないし。副委員長としての立場もあるの。こんな事で美紗子が虐められる様な事があったら、私の責任も浮上するし。お願い」
水口のそんな言葉を聞いても、美紗子の意思はもう変わらなかった。
この時にはもうはっきりと美紗子の中には守りたいものがあったからだ。
ーこれから先も変わらず続く筈の大切な時間ー
ただそれだけを思い、美紗子は口を開いた。
「やっぱり私は、保健室にい
バシッ!!
美紗子が言い終わらないうちに、水口の右手が美紗子の頬を叩いた。
叩かれた勢いで横を向く美紗子。
今まで抑えて来た怒りがどうしようもなく出てきたのか、目尻を上げ、今までにない怒りの表情で水口は言い出した。
「頑固者! 此処まで私は譲歩してるのに! それでも私にも言えない事なの! どうせ男子と居たんでしょ! 山崎幸一君? フン! もういいよ! 私は副委員長としてクラス全体の事を見て、考えてるの。美紗子、あなたはもういいよ。私はあなたをクラスの一人とは認めない。好きにすれば良い。私はクラスの皆んなとあなたを虐めたり、無視したりとかはしない。でも、私はあなたの存在を認めない。あなたの事なんか知らない!」
水口の罵声の中、横を向いて、叩かれた頬がじわじわと赤味を帯びる中、美紗子の瞳からはその頬へと続く一筋の涙が流れた。
つづく
そのまま言葉が見つからず沈黙を守り続ける美紗子。
「はぁ」
その様子を見てやっぱりかと水口は溜息を漏らした。
「確証はなかったんだけど、やっぱりそうなのね。さっき斉藤さんを連れて保健室に行った時先生に尋ねたの。先生ははっきりとは答えなかった」
扉に背中を当てたまま、胸のところで腕組をしながら水口は出来る限り冷静にそう言った。
「そう…」
観念したのか、相変わらず視線を合わせようとはせず、口を僅かに開いて美紗子はそれだけを言った。
「何処にいたの? 何をしていたの?」
相変わらず冷静に水口は尋ねる。
しかしそれにも美紗子は何も答えず、その場で急いで、考えを巡らせていた。
実際バレた時にどうするかを決めていなかったツケが此処で露になった。
幸一との図書室で過ごしていた時間を語るべきか?
語るとしたら何処から?
もしその事を話したら、きっと今まで以上に冷やかされるだろう。
(私はいい。どんなに冷やかされても幸一君と一緒にいられれば。でも彼は…幸一君はきっと凄く嫌がるだろう。もしかすると冷やかされるのが嫌で、私の側から離れて行ってしまうかも知れない。私にとって一番重要で大切な事は…)
考えれば考える程、美紗子は答えられなくなって行った。
そんな美紗子を鋭い目付きで睨みながら、暫く待って、水口は再び口を開いた。
「どうして答えられないの? もしかして、男子と居たんじゃないの? それだけは止めてよね。二組のみっちゃんって子に、『そら見た事か!』って馬鹿にされるから。本当にそれだけは止めて」
途中からは懇願する様に言う。
その言葉に美紗子は、水口は真実を望んでいないと理解した。
そして自分も。
「なんと言われても、私はやっぱり保健室にいたの。きっと、先生が忘れてしまったのよ」
突然正面を向き、水口と目を合わせると、美紗子はそう言った。
それを聞いて水口は一瞬ニヤリとすると、直ぐにまた鋭い眼差しに戻り、美紗子に向かって話し始めた。
「そうなの、フーン。じゃあそれでも良いけど。私にだけ本当の事を教えて。私はあの日の他の三人にもこの事を伝えなければいけないし。副委員長としての立場もあるの。こんな事で美紗子が虐められる様な事があったら、私の責任も浮上するし。お願い」
水口のそんな言葉を聞いても、美紗子の意思はもう変わらなかった。
この時にはもうはっきりと美紗子の中には守りたいものがあったからだ。
ーこれから先も変わらず続く筈の大切な時間ー
ただそれだけを思い、美紗子は口を開いた。
「やっぱり私は、保健室にい
バシッ!!
美紗子が言い終わらないうちに、水口の右手が美紗子の頬を叩いた。
叩かれた勢いで横を向く美紗子。
今まで抑えて来た怒りがどうしようもなく出てきたのか、目尻を上げ、今までにない怒りの表情で水口は言い出した。
「頑固者! 此処まで私は譲歩してるのに! それでも私にも言えない事なの! どうせ男子と居たんでしょ! 山崎幸一君? フン! もういいよ! 私は副委員長としてクラス全体の事を見て、考えてるの。美紗子、あなたはもういいよ。私はあなたをクラスの一人とは認めない。好きにすれば良い。私はクラスの皆んなとあなたを虐めたり、無視したりとかはしない。でも、私はあなたの存在を認めない。あなたの事なんか知らない!」
水口の罵声の中、横を向いて、叩かれた頬がじわじわと赤味を帯びる中、美紗子の瞳からはその頬へと続く一筋の涙が流れた。
つづく
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