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二日目
第9話 「黒猫の訪問」
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「な、なんで……ここへ来たの? わたしのところへ……なんなの、あなた!」
猫に言っても通じないと思いつつ、ガーネットは言葉を発する。するとどうだろう。また謎の少年の声が聞こえてきた。
――――やっぱり変だ、この人間……おかしい。胸がざわざわして……何なんだいったい。こいつ、ボクに何をした!
声が聞こえるのと同時に、黒猫はガーネットに飛びかかってくる。
思わず手で顔をかばいながらガーネットは床に倒れ込んだ。
「黒猫……さん! あなた、しゃべれるの? ボクに何をしたって……今の言葉を言ったのはやっぱりあなたなの?!」
ガーネットは胸の上にのしかかられながら、そう叫んだ。
信じられないが、この声の主はきっとこの黒猫だ。そうであるならすべてのつじつまが合う。昼間の声はやはりこの猫が言ったのだ。こちらの問いに応えてくれるかは賭けだったが、ガーネットは思い切ってそう言ってみた。
――――こいつ、ボクの考えていることが……わかるのか?
思いがけず向こうからの反応があったので、ガーネットは続けて問う。
「ええ。声が……聞こえるわ。男の子の声が……これ、あなたの声なんでしょう?」
おずおずと見上げると、黒猫は驚いたように目を見開いていた。
ガーネットの上から一歩下がり、床に降りる。
――――なんなんだ? お前……普通の人間じゃないな。こんなこと、はじめてだ。いったい何者だ!
ガーネットは、意を決して答える。
「わ、わたしも猫と話すなんてはじめてよ……。わたしは、宝石加護の力を持った人間。ガーネットっていうの。わたしと同じ名前の宝石の力を持ってる人間よ。もしかしたらこの力が……何らかの形であなたに作用しているのかもしれないわ」
――――宝石……加護?
「ええ。知らない? 神様が特定の人間にお与えになった奇跡の力よ。わたしの場合は……作物の成長スピードを早くしたり、よく育つようにさせる力があるの」
――――ああ、そういえば少し聞いたことがあるな。たしか、街の中心の広場にもあった。そんな力を持ったやつの……石像が。
「石像?」
――――ああ。英雄ファンネーデルとか言ったか。良くわからないが、そいつも不思議な力を持っていたらしい。
ガーネットはその名にハッとした。幼いころに聞かされた物語を思い出した。
「ああ、その人のことなら……わたしも教会で聞いたことがあるわ。有名な宝石加護持ちの一人だったって。たしかその英雄は、サファイアの力を持っていて……」
――――今はそんなことどうでもいい。とにかくその妙な力がボクに作用しているっていうんだな。いったいそれはどういうことだ、説明しろ!
「わ、わたし自身、まだ自分の能力がどういうものか完全にはわかっていないのよ……。村の畑を豊作にしたことがあるくらいで……。でも前から人や動物に対しても元気にさせられることがあったから、そういう部分が働いているのかも」
――――「元気に」する?
「ええ。『ガーネット』には血のめぐりを良くしたり、老廃物を排出させたりする効果があるそうなの。体を、活性化させるというのかしら。だから……わたしの周りにいる人はいつもみんな元気だったわ。あなたがどうして話せるようになったのかはわからないけど……もともとあなたには他の人に意思を伝えやすいところがあったんじゃないかしら? もしかしたらそれが……」
――――意志……まあ、普段から人間には良くしてもらってるけどな。向こうが持ってる食べ物をくれないかなと思って見てたら、すぐにもらえたりとか……。
「そう。じゃあ、もともとコミュニケーションが上手だったのね。それがわたしの力によって増幅されたのかも」
黒猫はなにやら考え込むようにしてうつむく。
――――仮にそうだとして……人とすぐにこんなふうにしゃべれるようになるものか? まあ、ひとまずお前のせいだってことにしておくが……。じゃあ、この胸のざわつきは何なんだ?
青い瞳がガーネットを射抜く。
「え? ざわつき? よ、よくわからないけど……そもそも、あなたはどうしてここに来たのよ? 昼間魚がどうとか言っていたけれど……あれは何のことなの」
――――昨日、幌馬車で街を走っていただろう。その時、お前の馬車が木に当たって、ボクの食べていた魚が鳥に横取りされちまったんだ。その時からだ、この胸がざわざわしてきたのは。ああ、イラつく。お前をぎゃふんと言わせなきゃ気がおさまらない!
そう言って、黒猫はまたガーネットに跳びかかった。しかし、仰向けに倒れたままのガーネットはなす術もなく、上に乗ってきた猫にひたすら謝り倒す。
「ご、ごめんなさい! そ、そんなことになってたなんて知らなくて……。あの馬車は、わたしを攫った人たちの馬車なの。だから……その人たちに代わって謝るわ。なんだったらその魚の代わりに違う食べ物をあげるから!」
――――今、なんて言った。
「あ、明日の朝食のときにこっそり何か拝借してくるわ。今は何も持ってないから……。だから明日の朝、また来てちょうだい。昼間のように……そうね、中庭に来てくれれば……」
――――そうじゃない。今お前、攫われたって……。どういうことだ?
「え? それは……わたし、ここの街の人間じゃないのよ。ユリオン村っていう、山に囲まれた田舎から来たの。人攫いに攫われて……ここのお屋敷に連れてこられたんだけど……」
ガーネットの言葉に、黒猫は急に黙り込んでしまった。そして、憐れむような目で見下ろしてくる。
ガーネットは少しだけ自分の境遇を恥ずかしく思ったが、その青く透き通った瞳に見つめられているとだんだんとそこに吸い込まれそうになっていった。
「あ、あの……それで、この街の人を救ってほしいって言われて……それまでは村に帰さないって……だから、その……」
――――街を救う? 何を救うんだ。
「えっと……なぜか目の病気になる人が多いんですって。でも……わたしの力でその人たちを治せるかどうかはわからなくて……自信はないわ」
しゅんとしながら言うと、黒猫はくるりと背を向け、窓辺に移動した。
――――そうか。わかった。じゃあ……また明日の朝来る。ちゃんとボクが来るまでに、代わりの食い物を用意しておけよ。
「あっ……!」
気が付くと、もう窓の外へ行ってしまった後だった。
不思議な猫の訪れに、まだ胸がどきどきしている。ガーネットは、自由に屋敷を出入りしている猫を少しだけうらやましく思った。
猫に言っても通じないと思いつつ、ガーネットは言葉を発する。するとどうだろう。また謎の少年の声が聞こえてきた。
――――やっぱり変だ、この人間……おかしい。胸がざわざわして……何なんだいったい。こいつ、ボクに何をした!
声が聞こえるのと同時に、黒猫はガーネットに飛びかかってくる。
思わず手で顔をかばいながらガーネットは床に倒れ込んだ。
「黒猫……さん! あなた、しゃべれるの? ボクに何をしたって……今の言葉を言ったのはやっぱりあなたなの?!」
ガーネットは胸の上にのしかかられながら、そう叫んだ。
信じられないが、この声の主はきっとこの黒猫だ。そうであるならすべてのつじつまが合う。昼間の声はやはりこの猫が言ったのだ。こちらの問いに応えてくれるかは賭けだったが、ガーネットは思い切ってそう言ってみた。
――――こいつ、ボクの考えていることが……わかるのか?
思いがけず向こうからの反応があったので、ガーネットは続けて問う。
「ええ。声が……聞こえるわ。男の子の声が……これ、あなたの声なんでしょう?」
おずおずと見上げると、黒猫は驚いたように目を見開いていた。
ガーネットの上から一歩下がり、床に降りる。
――――なんなんだ? お前……普通の人間じゃないな。こんなこと、はじめてだ。いったい何者だ!
ガーネットは、意を決して答える。
「わ、わたしも猫と話すなんてはじめてよ……。わたしは、宝石加護の力を持った人間。ガーネットっていうの。わたしと同じ名前の宝石の力を持ってる人間よ。もしかしたらこの力が……何らかの形であなたに作用しているのかもしれないわ」
――――宝石……加護?
「ええ。知らない? 神様が特定の人間にお与えになった奇跡の力よ。わたしの場合は……作物の成長スピードを早くしたり、よく育つようにさせる力があるの」
――――ああ、そういえば少し聞いたことがあるな。たしか、街の中心の広場にもあった。そんな力を持ったやつの……石像が。
「石像?」
――――ああ。英雄ファンネーデルとか言ったか。良くわからないが、そいつも不思議な力を持っていたらしい。
ガーネットはその名にハッとした。幼いころに聞かされた物語を思い出した。
「ああ、その人のことなら……わたしも教会で聞いたことがあるわ。有名な宝石加護持ちの一人だったって。たしかその英雄は、サファイアの力を持っていて……」
――――今はそんなことどうでもいい。とにかくその妙な力がボクに作用しているっていうんだな。いったいそれはどういうことだ、説明しろ!
「わ、わたし自身、まだ自分の能力がどういうものか完全にはわかっていないのよ……。村の畑を豊作にしたことがあるくらいで……。でも前から人や動物に対しても元気にさせられることがあったから、そういう部分が働いているのかも」
――――「元気に」する?
「ええ。『ガーネット』には血のめぐりを良くしたり、老廃物を排出させたりする効果があるそうなの。体を、活性化させるというのかしら。だから……わたしの周りにいる人はいつもみんな元気だったわ。あなたがどうして話せるようになったのかはわからないけど……もともとあなたには他の人に意思を伝えやすいところがあったんじゃないかしら? もしかしたらそれが……」
――――意志……まあ、普段から人間には良くしてもらってるけどな。向こうが持ってる食べ物をくれないかなと思って見てたら、すぐにもらえたりとか……。
「そう。じゃあ、もともとコミュニケーションが上手だったのね。それがわたしの力によって増幅されたのかも」
黒猫はなにやら考え込むようにしてうつむく。
――――仮にそうだとして……人とすぐにこんなふうにしゃべれるようになるものか? まあ、ひとまずお前のせいだってことにしておくが……。じゃあ、この胸のざわつきは何なんだ?
青い瞳がガーネットを射抜く。
「え? ざわつき? よ、よくわからないけど……そもそも、あなたはどうしてここに来たのよ? 昼間魚がどうとか言っていたけれど……あれは何のことなの」
――――昨日、幌馬車で街を走っていただろう。その時、お前の馬車が木に当たって、ボクの食べていた魚が鳥に横取りされちまったんだ。その時からだ、この胸がざわざわしてきたのは。ああ、イラつく。お前をぎゃふんと言わせなきゃ気がおさまらない!
そう言って、黒猫はまたガーネットに跳びかかった。しかし、仰向けに倒れたままのガーネットはなす術もなく、上に乗ってきた猫にひたすら謝り倒す。
「ご、ごめんなさい! そ、そんなことになってたなんて知らなくて……。あの馬車は、わたしを攫った人たちの馬車なの。だから……その人たちに代わって謝るわ。なんだったらその魚の代わりに違う食べ物をあげるから!」
――――今、なんて言った。
「あ、明日の朝食のときにこっそり何か拝借してくるわ。今は何も持ってないから……。だから明日の朝、また来てちょうだい。昼間のように……そうね、中庭に来てくれれば……」
――――そうじゃない。今お前、攫われたって……。どういうことだ?
「え? それは……わたし、ここの街の人間じゃないのよ。ユリオン村っていう、山に囲まれた田舎から来たの。人攫いに攫われて……ここのお屋敷に連れてこられたんだけど……」
ガーネットの言葉に、黒猫は急に黙り込んでしまった。そして、憐れむような目で見下ろしてくる。
ガーネットは少しだけ自分の境遇を恥ずかしく思ったが、その青く透き通った瞳に見つめられているとだんだんとそこに吸い込まれそうになっていった。
「あ、あの……それで、この街の人を救ってほしいって言われて……それまでは村に帰さないって……だから、その……」
――――街を救う? 何を救うんだ。
「えっと……なぜか目の病気になる人が多いんですって。でも……わたしの力でその人たちを治せるかどうかはわからなくて……自信はないわ」
しゅんとしながら言うと、黒猫はくるりと背を向け、窓辺に移動した。
――――そうか。わかった。じゃあ……また明日の朝来る。ちゃんとボクが来るまでに、代わりの食い物を用意しておけよ。
「あっ……!」
気が付くと、もう窓の外へ行ってしまった後だった。
不思議な猫の訪れに、まだ胸がどきどきしている。ガーネットは、自由に屋敷を出入りしている猫を少しだけうらやましく思った。
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