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五日目
第28話 「警告」
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「あっ、ファンネーデル!」
夕食を終えてガーネットが部屋に戻ってくると、ほぼ同時のタイミングで黒猫が窓から入ってきた。
ガーネットは嬉しくなって駆け寄る。
「良かった。今日は来てくれたのね!」
――――おい、ガーネット、それどころじゃない。お前、狙われてるぞ!
「えっ、狙われてる……? なんのこと?」
黒猫が妙に焦っているのを、ガーネットは不思議に思った。
「狙われているって、誰によ」
――――魔女にだ! それと、この間のやつらにも……。
「魔女……? この間のやつらって?」
――――ええと、魔女ってやつは、この街に「目腐れ病」を流行らせてるって女のことだ! とんがった黒い帽子に、黒いマントを着てる金髪の女……。昨日ボクはそいつに遭ったんだ!
「その人って……たしか今、手配書が出ている人よね。ほんとに、許せないわ。いったいなんのためにこんなことをしたのかしら……」
――――お前、そいつのこと知ってるのか?
「ええ。うん、まあね……」
ガーネットは伏し目がちに言うと、黒猫が来てなかった間のことを話した。
街の画家やルークを、わずかながら治療したことを説明する。
――――そうか。そんなことがあったんだな……。画家って、もしかしてあいつか……?
黒猫はその中で気になるところがあったらしく、しきりと首をひねっている。
「ファンネーデル。わたし、その人たちの視力までは取り戻せなかったわ。その魔女って呼ばれている人が捕まれば、完全に治す方法も……わかるのかもしれない。けど……捕まっても、すんなりその方法を教えてくれるとは限らないのよ。どんどん死んでいく人を助ける時間は、もうないのかも……」
ベッドに腰掛けてうつむいていると、黒猫がひょいとその膝の上に跳び乗ってきた。
――――おい、それは……お前のせいじゃないだろ。
見上げられて、はっきりとそう告げられた。
ガーネットはその一言に、心の中がじんわりと暖かくなる。思わぬ慰めに、泣きそうになった。
「あ、ありがと。ファンネーデル。そ、それで……この間のやつらってのは、何なの?」
必死で張りつめていた気持ちが、緩みそうになる。
このままではいけないと、あわてて話の続きを促した。黒猫は……ガーネットの顔が少し良い方に変わったのを見て、ホッとしたようだった。そしてすぐに鋭い目つきになる。
――――そいつは……馬車のやつらだ。
「馬車……? って、もしかしてわたしを攫った人たちのこと?」
――――ああ。この屋敷の周辺を、さっきまでうろついてた。なにか企んでそうだったから……もしかしたらまたお前をまた攫いに来たのかもしれない。
「そ、そんな……」
――――魔女に、人攫い。まったくえらいことになったな。あともう少しすれば……教会ってところのやつらも、お前を見つけに来てくれるかもしれないのに……。
「えっ、待ってファンネーデル。教会がって何?」
――――それは……。
その時、ノックの音がした。
耳をすませると、覚えのある声が部屋の外から聞こえてくる。
「おい……いるのか? ガーネット。ここを開けろよ!」
ガーネットはハッとすると、震える手でファンネーデルを胸に抱き寄せた。
――――お、おい、ガーネット!?
動揺して暴れるその体を、ぎゅっと抱きしめる。
「ごめん、ファンネーデル。少しの間……こうしていて?」
ガーネットが弱々しく頼み込むと、黒猫は抵抗をやめてくれた。ベットに上がり、ガーネットは迫りくる恐怖に耐える。
以前、扉をノックする音は止まない。
「おい、いるんだろ? 早く開けろ!」
「マーク様、またいったい何をなさっているんですか?」
突然ケイトの声がした。
どうやらマークの大声を聞いて、向かいの部屋から出てきたようだ。
「おう、ケイト。俺はこっちに用があるんだ、お前じゃない。悪いな」
「そう言われましても。誰も寄せ付けるなと、旦那様からご命令されておりますので」
「まぁた、それで実力行使に出るってのか? 今日はそうはいかないぜ」
しばらくの間があって。
動揺したようなケイトの声が廊下であがった。
「な、なんですか、それは……」
「ああ、俺が持っているこれか? メモだよ。ここになんて書いてあると思う? これは、サーシャってメイドが持ってたものなんだが……」
「…………」
「はっ、黙ってたってネタはもう割れてるんだぜ。お前があの下っ端メイドに、『何を頼んでたか』ってことはな」
「な、何をおっしゃって……」
「とぼける気か? まあ、いいけどな。あとはこれを父上に報告するまでだ。父上はどう思うだろうなあ、信じて仕事を任せていたメイドが、まさか裏切り者だったとは。あの宝石加護の娘に……情でも湧いたか?」
ぎりぎり、と。ケイトの悔しそうな歯ぎしりが聞こえてくる。
「私はただ……ラーレス教の敬虔な信者なだけです。ガーネット様の奇跡の力は……こんな風に、持ち主の自由や尊厳を奪ってまで、使われていいものではありません。もちろん、マーク様……貴方がこれからなさろうとしていることについても同様です。非常に……許されないことです。神がお怒りになれば、貴方がたにきっと罰をお与えになることでしょう!」
「ほざけ。これもすべてサンダロスのためだ。それなのに……メイドの分際で父上を陥れようとしやがって。いいからそこをどけ。この件を話されたくなかったら、俺の邪魔をするな!」
「いえ、ダメです。マーク様。私はどうなっても構いません。しかしガーネット様だけは……」
「うるさい!」
押し問答と物音が扉の向こうから聞こえてくる。
ガーネットは、黒猫の背に顔をうずめながら、ひたすら体を震わせていた。
そのとき、背後のバルコニーで複数の足音がした。
振り返ると、ファンネーデルの言った通り、レイリー商団のメンバーたち三人が窓から顔をのぞかせている。彼らはバルコニーに縄梯子をかけて登ってきたようだった。
「やあ、また会ったな。宝石加護の娘……ガーネット!」
黒マントの男レイリーが、挨拶と共に不敵な笑みを浮かべていた。
夕食を終えてガーネットが部屋に戻ってくると、ほぼ同時のタイミングで黒猫が窓から入ってきた。
ガーネットは嬉しくなって駆け寄る。
「良かった。今日は来てくれたのね!」
――――おい、ガーネット、それどころじゃない。お前、狙われてるぞ!
「えっ、狙われてる……? なんのこと?」
黒猫が妙に焦っているのを、ガーネットは不思議に思った。
「狙われているって、誰によ」
――――魔女にだ! それと、この間のやつらにも……。
「魔女……? この間のやつらって?」
――――ええと、魔女ってやつは、この街に「目腐れ病」を流行らせてるって女のことだ! とんがった黒い帽子に、黒いマントを着てる金髪の女……。昨日ボクはそいつに遭ったんだ!
「その人って……たしか今、手配書が出ている人よね。ほんとに、許せないわ。いったいなんのためにこんなことをしたのかしら……」
――――お前、そいつのこと知ってるのか?
「ええ。うん、まあね……」
ガーネットは伏し目がちに言うと、黒猫が来てなかった間のことを話した。
街の画家やルークを、わずかながら治療したことを説明する。
――――そうか。そんなことがあったんだな……。画家って、もしかしてあいつか……?
黒猫はその中で気になるところがあったらしく、しきりと首をひねっている。
「ファンネーデル。わたし、その人たちの視力までは取り戻せなかったわ。その魔女って呼ばれている人が捕まれば、完全に治す方法も……わかるのかもしれない。けど……捕まっても、すんなりその方法を教えてくれるとは限らないのよ。どんどん死んでいく人を助ける時間は、もうないのかも……」
ベッドに腰掛けてうつむいていると、黒猫がひょいとその膝の上に跳び乗ってきた。
――――おい、それは……お前のせいじゃないだろ。
見上げられて、はっきりとそう告げられた。
ガーネットはその一言に、心の中がじんわりと暖かくなる。思わぬ慰めに、泣きそうになった。
「あ、ありがと。ファンネーデル。そ、それで……この間のやつらってのは、何なの?」
必死で張りつめていた気持ちが、緩みそうになる。
このままではいけないと、あわてて話の続きを促した。黒猫は……ガーネットの顔が少し良い方に変わったのを見て、ホッとしたようだった。そしてすぐに鋭い目つきになる。
――――そいつは……馬車のやつらだ。
「馬車……? って、もしかしてわたしを攫った人たちのこと?」
――――ああ。この屋敷の周辺を、さっきまでうろついてた。なにか企んでそうだったから……もしかしたらまたお前をまた攫いに来たのかもしれない。
「そ、そんな……」
――――魔女に、人攫い。まったくえらいことになったな。あともう少しすれば……教会ってところのやつらも、お前を見つけに来てくれるかもしれないのに……。
「えっ、待ってファンネーデル。教会がって何?」
――――それは……。
その時、ノックの音がした。
耳をすませると、覚えのある声が部屋の外から聞こえてくる。
「おい……いるのか? ガーネット。ここを開けろよ!」
ガーネットはハッとすると、震える手でファンネーデルを胸に抱き寄せた。
――――お、おい、ガーネット!?
動揺して暴れるその体を、ぎゅっと抱きしめる。
「ごめん、ファンネーデル。少しの間……こうしていて?」
ガーネットが弱々しく頼み込むと、黒猫は抵抗をやめてくれた。ベットに上がり、ガーネットは迫りくる恐怖に耐える。
以前、扉をノックする音は止まない。
「おい、いるんだろ? 早く開けろ!」
「マーク様、またいったい何をなさっているんですか?」
突然ケイトの声がした。
どうやらマークの大声を聞いて、向かいの部屋から出てきたようだ。
「おう、ケイト。俺はこっちに用があるんだ、お前じゃない。悪いな」
「そう言われましても。誰も寄せ付けるなと、旦那様からご命令されておりますので」
「まぁた、それで実力行使に出るってのか? 今日はそうはいかないぜ」
しばらくの間があって。
動揺したようなケイトの声が廊下であがった。
「な、なんですか、それは……」
「ああ、俺が持っているこれか? メモだよ。ここになんて書いてあると思う? これは、サーシャってメイドが持ってたものなんだが……」
「…………」
「はっ、黙ってたってネタはもう割れてるんだぜ。お前があの下っ端メイドに、『何を頼んでたか』ってことはな」
「な、何をおっしゃって……」
「とぼける気か? まあ、いいけどな。あとはこれを父上に報告するまでだ。父上はどう思うだろうなあ、信じて仕事を任せていたメイドが、まさか裏切り者だったとは。あの宝石加護の娘に……情でも湧いたか?」
ぎりぎり、と。ケイトの悔しそうな歯ぎしりが聞こえてくる。
「私はただ……ラーレス教の敬虔な信者なだけです。ガーネット様の奇跡の力は……こんな風に、持ち主の自由や尊厳を奪ってまで、使われていいものではありません。もちろん、マーク様……貴方がこれからなさろうとしていることについても同様です。非常に……許されないことです。神がお怒りになれば、貴方がたにきっと罰をお与えになることでしょう!」
「ほざけ。これもすべてサンダロスのためだ。それなのに……メイドの分際で父上を陥れようとしやがって。いいからそこをどけ。この件を話されたくなかったら、俺の邪魔をするな!」
「いえ、ダメです。マーク様。私はどうなっても構いません。しかしガーネット様だけは……」
「うるさい!」
押し問答と物音が扉の向こうから聞こえてくる。
ガーネットは、黒猫の背に顔をうずめながら、ひたすら体を震わせていた。
そのとき、背後のバルコニーで複数の足音がした。
振り返ると、ファンネーデルの言った通り、レイリー商団のメンバーたち三人が窓から顔をのぞかせている。彼らはバルコニーに縄梯子をかけて登ってきたようだった。
「やあ、また会ったな。宝石加護の娘……ガーネット!」
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