魔法猫ファンネーデルと宝石加護の娘

津月あおい

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六日目

第36話 「人攫いたちとの闘い」

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「なんだ、お前……どっから湧いて出た」

 レイリーは侵入してきた賊に対して、不可解といった様子で尋ねた。
 さりげなく近くに寄ってきたグスタフが、耳打ちする。

「団長……。こいつ、鳥につかまって……ここに飛び込んできました……少し、おかしいです」
「なんだと? そうか、お前……さては魔法使いの類だな? 何者だ!」

 レイリーの問いに、ファンネーデルは苦笑いを浮かべる。

「フッ、魔女か。あんなやつと一緒にしてもらっちゃ困る。けど……まあ、そんなようなものだな。ボクの名はファンネーデル。魔法猫ファンネーデル!」
「魔法猫、だと?」
「ああ、ボクは……お前らに昨夜殺された『黒猫』だ! 死んだおかげで、こういう存在になれたんだ。そういう意味じゃ感謝するぜ!」

 そう言うと、ファンネーデルは男たちに対して身構えた。

「黒猫、だと? 昨夜の……?」
「そんなまさか……」

 黒マントの男と細身の男は、ファンネーデルの話を聞いて、正体がわかったようだった。
 半裸の男も同様で、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

「お前は……俺たちが殺した……あのバケモノ猫ってことか。いったい、どうやって……生き返った!」
「フフッ。それは例の『魔女』が手助けしてくれたんだ。この姿になるために……ボクはあいつと契約した。後悔はしてないよ」

 ファンネーデルは、男たちを警戒したまま答える。

「魔女……? ああ、あの街で指名手配されてたヤツか。まさかそいつとグルだったとはな……。さしづめお前は、魔女の使い魔ってわけか」

 黒マントの男はそう言うと、さっと懐の銃を抜いてファンネーデルに発砲した。
 だが、銃弾はファンネーデルを通過して、背後の壁にめりこむ。

「い、いきなり何するんだ!」
「なっ!? 当たらない、だと? たしかに今……」

 驚く黒マントの男に、ファンネーデルはじりじりと近寄っていく。

「ボクは別に、あいつの手下じゃない! でももう、ただの猫じゃない。魔法……猫だ! そんなもの効かないぞ!」

 そう叫ぶと一足飛びで男たちに駆け寄る。
 最初に向かってきたのは半裸のガタイの大きな男だった。自分をさきほど痛めつけた大きな拳が、降ってくる。

「な、何ッ?」

 だが、男の拳は空を切っていた。
 ファンネーデルの体は霞のように実体がなく、拳が深々と背中まで突き抜けている。驚く男に、ファンネーデルのカウンターが炸裂した。
 一瞬で手から大きな爪を出現させ、ファンネーデルは男の胸を切り裂く。

「うぐっ、ぐあああっ!」
「グスタフ!」

 鋭い痛みに絶叫する大男。
 黒マントの男は声をかけるが、大男は大量の血を噴出させ床に昏倒していった。

 ファンネーデルはその結果に満足し、次の獲物へと向かっていく。
 お次は細身の男。
 彼は、腰の鞭を取り出すとぶんぶんとそれを振りまわし始めた。

「なめるなよ、クソ猫!」
「フン、お前も……ボクをけっこう痛めつけてくれたな! 倍にして返す!」
「せいっ!」

 細身の男は、そう言って鞭をしならせる。だが、今度はファンネーデルの体を捕えることはできなかった。幻影ゆえ、すべての攻撃が当たらなくなっているのだ。
 驚く細身の男の顔を、ファンネーデルは容赦なく切り裂いた。

「喰らえっ!」
「ぐ、ぐあああああっ!」

 細身の男は痛みに悶絶し、顔を押さえてうずくまった。

 残るは黒マントの男だけである。
 男は相変わらず銃を構えていたが、それすらもファンネーデルはもう怖くなかった。一切当たることがない弾をどうやって恐れるというのだろう。

 流れ弾がガーネットに当たるのだけは避けたいファンネーデルは、男の真横に回り込んだ。
 何度か発砲されるが、弾切れになったあたりを見計らって、飛びかかる。鋭い爪で、首と腹を切り付けた。鮮血がパッと舞う。

「う、ぐ、ぐおおおおっ!」

 うめき声とともに、黒マントの男も血の海に倒れ伏す。

「はあ、はあ……。お前らは……人でなしの人攫い、だ。こんなことを、これからもガーネットにし続けるつもりなら……死ね! ここで死んでしまえ!」

 憎しみのこもった声でそう言い捨てると、男たちは徐々に青ざめ、そのうち動かなくなっていった。

「……ん」

 ふと、少女のうめく声がする。
 ファンネーデルはあわててガーネットのもとへ駆け寄った。

「が、ガーネット! 大丈夫か!」

 名を呼びながら近づくと、少女はうっすらと目を開けるところだった。
 長椅子から身を起こそうとする少女を、ファンネーデルは介助する。

「ゆっくり、ゆっくり起きて……」
「あの、あなたどうして……わたしのこと知ってるの? あの人たちは……え?」

 ガーネットは部屋の惨状を見て、小さく悲鳴をあげた。

「ひッ、ど、どうしてみんな倒れているの? こ、これ……あなたがやったの?」
「まあ……ね」

 床には血の一滴もこぼれてはいない。あくまで先ほどの攻撃は、男たちに見せていた幻覚だったため、部屋の状況は、三人の気絶した男たちが床で転がっていただけだった。

「え? あ、あなた誰なの? なんで、こんなこと……」
「話せば長くなるけど……まあ、助けにきたんだよ」
「わ、わたしのことを……? どうして……」
「ねえ、ボクの目……見憶えない? あと、ボクの声も」

 言われてガーネットはハッと気づいた。

「え、嘘……あなた……もしかして……」

 ガーネットは、その青い瞳を見つめながらぼろぼろと涙をこぼす。

「ふぁ、ファンネーデル? あなた……ファンネーデルなの?! 嘘、ありえない! どうして、だってあなた……猫じゃ」
「そうだよ。ボクは……ファンネーデル。お前に名付けられた、小さな英雄ファンネーデルだ」
「ど、どうして……そんな姿に……」

 ファンネーデルは悲しげに笑うと、事の顛末を話しだした。
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