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十五池田風呂
最終
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池田屋敷の表門を照らす、蝶の文様をあしらった飾り提灯に灯りが点った。
「ぷは~っ、生き返る。お七も、この勝三郎おじさんと風呂に入るのが嬉しいか」
池田家の大風呂にお七を入れる恒興がある。
守山城で、一騒動あり、城代として信時が任ぜられ、お善もお七も家族そろって移ることになった。
恒興は、亡くした娘、星の代わりに、お七を我が子のようにかわいがっている。
信時とお善の夫婦は、しばしの別れに恒興にお七を会わせに来たのだ。
「勝三郎の父様、明日も船で鵜飼いへ連れて行ってくれるのですか?」
お七が澄んだ瞳で恒興に尋ねた。
「そうだなぁ、お七が池田家の娘になれば見せてやるが、お七は、明日、信時の父上と母上について守山へ行くことになっておる」
「いや、いや、いや! お七は、勝三郎の父様と一緒にいる‼」
と、そこへ、お善が、桶に冷酒を運んで来た。
「これ、お七、勝三郎に無理を言っちゃダメでしょう」
「お善、構わんのだ。俺はお七とこうしている時が、何より幸せなのだ」
お善は、恒興に御猪口を渡して、酒を注いだ。
「それで、村木砦で消えた桂月さんの消息はつかめたの?」
恒興は首を振って、
「わからん。信時の手当てによって、一命を取りとめたものとは聞いておる。深手といえるあの傷だ。生きていて欲しいがのう……」
お善が、いきなり、「バチンッ!」と、恒興の背を叩いた。
「おっと!」
危うく、お七を風呂に落としそうになった。
「勝三郎、弱気になったらダメ! 桂月さんの無事を信じるのよ」
恒興が顔を赤くして、
「お善、危ないではないか、お七になにかあったらなんとする!」
「あら、ごめんなさい。お七は、勝三郎に預けておけば安心だもの。おほほ」
暖簾(のれん)がひらりと揺れた。
「おい、恒興、俺たちも入れさせてもらうぜ」
逞しい体躯の褌一丁の男たちだ。河尻秀隆、毛利良勝、織田信時、岩室重休、丹羽長秀が一気に池田家の大風呂に入る。
大人数が一気に入ったものだから、湯が溢れた。
並んだ毛利良勝が、湯船で顔を洗った勢いで恒興に尋ねた。
「おい、恒興。お前、養徳院様とはうまくやっているのか?」
清州を手に入れた信長は、弟、信行の元から乳母であるお福こと養徳院を引き取った。そして、子の恒興に預けた。
「母上は、あの気性だろう。毎日、起床から寝床へ着くまで叱られておるよ」
「うはははは、養徳院様も、幼いお前を残して殿の乳母に上がったのだ。今更ながら母子の暮らしを取り戻したいのであろう」
大風呂の戸板をスッと開いて、恒興の組下になった森寺忠勝が顔を出した。
「皆様方、膳の用意が調いました」
「では、皆で旨い飯でも食うか」
「よし、今夜は、信時が城代になる出世祝いだ。朝まで飲むぞ!」
河尻秀隆、毛利良勝が機嫌よく立ち上がった。
「ならば、私も今夜は飲もう」
岩室重休がつづく。
「岩室さんも飲むのですか?」
「そうだ、悪いか長秀?」
「ならば私も付き合おうか」
「下戸でならす岩室さんに長秀まで……仕方ない私も飲むか、恒興、今夜はお前も酒を解禁だ。一緒に祝ってくれ」
生まれて間もなく一人ぼっちで生きてきた赤児が、たくさんの仲間の仲間に出会い、今や仲間たちの友情に磨かれ一人の漢になった。
孤独で、喧嘩っ早くて、人の言うことを聞かない少年だった池田勝三郎は、いまでは、戦場を共に駆けた気のおけない仲間たちと酒を酌み交わしている。
障子をスッと開いて、お福こと養徳院が、恒興を手招きした。
恒興は立ち上がって、養徳院の前に行くと、「恒興、手を見せなさい」
すると、養徳院は、袖口から饅頭を取り出して、ポンッと、恒興の手の平にのせた。
「なんです母上?」
「甘いものを腹に入れてから、酒を飲むと悪酔いをしないと聞きましてね。お食べなさい」
恒興は、何も言わずに母のくれた饅頭をほおばった。饅頭は、なんとも甘く涙がこぼれるほどに甘かった。恒興は喉を詰まらせながら口に押し込むと、母から茶を渡された。
「勝三郎、よく頑張りましたね」
その日、池田家の提灯は煌々と輝き続けた。
了
「ぷは~っ、生き返る。お七も、この勝三郎おじさんと風呂に入るのが嬉しいか」
池田家の大風呂にお七を入れる恒興がある。
守山城で、一騒動あり、城代として信時が任ぜられ、お善もお七も家族そろって移ることになった。
恒興は、亡くした娘、星の代わりに、お七を我が子のようにかわいがっている。
信時とお善の夫婦は、しばしの別れに恒興にお七を会わせに来たのだ。
「勝三郎の父様、明日も船で鵜飼いへ連れて行ってくれるのですか?」
お七が澄んだ瞳で恒興に尋ねた。
「そうだなぁ、お七が池田家の娘になれば見せてやるが、お七は、明日、信時の父上と母上について守山へ行くことになっておる」
「いや、いや、いや! お七は、勝三郎の父様と一緒にいる‼」
と、そこへ、お善が、桶に冷酒を運んで来た。
「これ、お七、勝三郎に無理を言っちゃダメでしょう」
「お善、構わんのだ。俺はお七とこうしている時が、何より幸せなのだ」
お善は、恒興に御猪口を渡して、酒を注いだ。
「それで、村木砦で消えた桂月さんの消息はつかめたの?」
恒興は首を振って、
「わからん。信時の手当てによって、一命を取りとめたものとは聞いておる。深手といえるあの傷だ。生きていて欲しいがのう……」
お善が、いきなり、「バチンッ!」と、恒興の背を叩いた。
「おっと!」
危うく、お七を風呂に落としそうになった。
「勝三郎、弱気になったらダメ! 桂月さんの無事を信じるのよ」
恒興が顔を赤くして、
「お善、危ないではないか、お七になにかあったらなんとする!」
「あら、ごめんなさい。お七は、勝三郎に預けておけば安心だもの。おほほ」
暖簾(のれん)がひらりと揺れた。
「おい、恒興、俺たちも入れさせてもらうぜ」
逞しい体躯の褌一丁の男たちだ。河尻秀隆、毛利良勝、織田信時、岩室重休、丹羽長秀が一気に池田家の大風呂に入る。
大人数が一気に入ったものだから、湯が溢れた。
並んだ毛利良勝が、湯船で顔を洗った勢いで恒興に尋ねた。
「おい、恒興。お前、養徳院様とはうまくやっているのか?」
清州を手に入れた信長は、弟、信行の元から乳母であるお福こと養徳院を引き取った。そして、子の恒興に預けた。
「母上は、あの気性だろう。毎日、起床から寝床へ着くまで叱られておるよ」
「うはははは、養徳院様も、幼いお前を残して殿の乳母に上がったのだ。今更ながら母子の暮らしを取り戻したいのであろう」
大風呂の戸板をスッと開いて、恒興の組下になった森寺忠勝が顔を出した。
「皆様方、膳の用意が調いました」
「では、皆で旨い飯でも食うか」
「よし、今夜は、信時が城代になる出世祝いだ。朝まで飲むぞ!」
河尻秀隆、毛利良勝が機嫌よく立ち上がった。
「ならば、私も今夜は飲もう」
岩室重休がつづく。
「岩室さんも飲むのですか?」
「そうだ、悪いか長秀?」
「ならば私も付き合おうか」
「下戸でならす岩室さんに長秀まで……仕方ない私も飲むか、恒興、今夜はお前も酒を解禁だ。一緒に祝ってくれ」
生まれて間もなく一人ぼっちで生きてきた赤児が、たくさんの仲間の仲間に出会い、今や仲間たちの友情に磨かれ一人の漢になった。
孤独で、喧嘩っ早くて、人の言うことを聞かない少年だった池田勝三郎は、いまでは、戦場を共に駆けた気のおけない仲間たちと酒を酌み交わしている。
障子をスッと開いて、お福こと養徳院が、恒興を手招きした。
恒興は立ち上がって、養徳院の前に行くと、「恒興、手を見せなさい」
すると、養徳院は、袖口から饅頭を取り出して、ポンッと、恒興の手の平にのせた。
「なんです母上?」
「甘いものを腹に入れてから、酒を飲むと悪酔いをしないと聞きましてね。お食べなさい」
恒興は、何も言わずに母のくれた饅頭をほおばった。饅頭は、なんとも甘く涙がこぼれるほどに甘かった。恒興は喉を詰まらせながら口に押し込むと、母から茶を渡された。
「勝三郎、よく頑張りましたね」
その日、池田家の提灯は煌々と輝き続けた。
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