低級精霊も積もれば神となる~最弱の俺がいつの間にか最強パーティの中心です~

遖なリ

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12 冒険者になりました

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床を踏み鳴らす重たい足音。
金属の擦れ合う音。
豪快な笑い声。

(まさに…冒険者ギルド…!!)

「あそこの受付で登録できる。簡単だからすぐ終わる。」

「ありがとうございます!」

「それじゃ、登録が終わったらまた会おうぜ!」

ここまで案内してくれた冒険者の剣士はそう言って、軽く手を振った。

そのまま踵を返し、人混みの中へと消えていく。

(あ、名前聞くの忘れてた…また後で聞けばいいか)

「ご主人様、ぼーっとしていないで早く登録してしまいましょう。」

セラが一歩前に出て、受付の方を指す。

木製の長いカウンター。
その向こうで、数人の受付嬢が書類を捌いている。
冒険者たちが入れ替わり立ち替わり訪れ、依頼書を叩きつけたり、報酬袋を受け取ったりしていた。

「……並ぶのか?」

イグニスが首を傾げる。

「ええ。順番は守りましょう」

「面倒だなぁ」

「面倒でもです」

そんなやり取りを背に、俺は列の最後尾についた。

前に並ぶのは、見るからにベテラン風の男。
革鎧は擦り切れ、剣の柄には無数の傷。
それでも背筋は伸びていて、無駄な動きがない。

(……冒険者って、こんな人ばっかりなのか?)

少し緊張する。

やがて、順番が回ってきた。

「次の方、どうぞ」

落ち着いた声に呼ばれ、カウンターの前へ。

受付嬢は書類から顔を上げ、俺を見て――
一瞬、ほんの一瞬だけ目を瞬かせた。

だが、すぐに表情を整える。

「要件は何でしょう?」

「冒険者登録をしたくて、」

そう告げると、受付嬢は俺の顔を見て――
一瞬だけ、ほんの一瞬、視線を止めた。

年齢を測るような目。

だが、拒む色はない。

「……確認ですが」

ペンを持ったまま、穏やかな声で言う。

「冒険者の仕事は危険を伴います。依頼によっては、命に関わることも少なくありません」

少しだけ、声の調子が和らぐ。

「無理をしない、ということはお約束いただけますか?」

「はい。分かってます」

そう答えると、受付嬢は小さく頷いた。

「ありがとうございます。では、登録手続きを進めますね」

(たぶん、訳アリの子どもだと思われたな…)

「それではお名前を伺ってもよろしいですか?」

一瞬の沈黙。

(名前…名前…)

脳裏に何も浮かばない。
名乗るための名前を俺は持っていなかった。

「………」

どう答えるべきか迷っていると――

「ルカ様です!」

背後からセラの声が飛んだ。

「あ、じゃあそれで。」

「ルカさんですね。」

受付嬢は一切気にした様子もなく、さらさらと書類に書き込んでいく。

その瞬間――

「ちょっと待て! 勝手に決めるな!」

「ずるいです! 私の案も聞くべきです!」

「フィオラ・ルミエール・ヴァル=セレスティア・ノヴァリスの方がいいですわ!!」

「長いのは却下って言ったでしょ!」

背後で、一斉に声が弾けた。

(始まった……)

だが、カウンターの向こうは実に平和だった。

「では、こちらをどうぞ」

受付嬢はそう言って、記入用の用紙とペンを差し出してきた。

「内容を確認のうえ、記入が終わりましたら、またお持ちください」

「分かりました」

そう答えて、俺は紙を受け取る。

……受け取ってから、気づいた。

(……あれ?)

視線を落とす。

並んでいるのは、見慣れない文字。
曲線と直線が混ざった、規則性はありそうなのに――意味が、まるで分からない。

(……読めない)

一文字も、読めない。

(そうか……俺、この世界の文字……)

俺が用紙を見つめたまま固まっていると――
ひょい、と横から紙が持ち上げられる。

「はいはーい! 貸して貸して!」

軽い声。

「ヴェント?」

「大丈夫大丈夫!」

「近くの机をご利用ください」

受付嬢にそう言われ、俺たちはカウンター脇に並べられた簡易机へ移動した。

ところどころ刃物の跡や焦げ跡が残っている。
年季の入った机だ。

ヴェントは軽やかに椅子へ腰掛け、用紙を机に広げた。

「読めるのか?」

「風の精霊は物知りだからね! 読み書きくらい朝飯前!」

俺はヴェントの隣に立ち、用紙を覗き込む。

細かい文字がびっしり。
やっぱり、さっぱり分からない。

「名前はもう決まってるから楽だね。ルカ、と」

さらさら、とペンが走る。

「次は……登録動機っと。えーと……“生活基盤の確保および自立のため”」

(それっぽい……)

「……ヴェント、賢そうに見える…」

テラが上からのぞき込む。

「賢そうじゃなくて賢いんだよ!
 え~と、得意分野はー……」

そこで、ヴェントのペンが止まった。

「……どうする?」

「……え?」

「戦闘?補助?探索?」

一瞬、迷う。

だが、迷っている間にも後ろは騒がしい。

「回復だろ!」

「いや、俺の回復はたぶん精霊にしか効かないから…」

「じゃあ“未申告”っと」

(それでいいのか……?)

「よし、書けた!」

ヴェントは満足そうに用紙を持ち上げる。

「行こ、ご主人様。受付に戻そう!」

「もう終わり?!」

「冒険者登録なんてこんなもんだよ!たぶん」

「”たぶん”が一番怖いんだよ!」

小さく突っ込みつつ、俺は用紙を受け取った。

紙の重みはほとんどないのに、
なぜかそれがやけに“現実”として手に残る。

俺たちは再びカウンターへ戻る。

「記入、終わりました」

用紙を差し出すと、受付嬢はそれを受け取り、
慣れた手つきで内容を確認していく。

視線が、上から下へ。
ときおり、ペン先が止まる。

(……何かまずかったか?)

一瞬だけ緊張したが――

「問題ありません」

あっさりと告げられた。

「続いて、魔力の波長を記録させてもらいます。本人確認などに用います。」

受付嬢はそう言って、カウンターの下から一つの器具を取り出した。

透明な水晶板。
掌に収まるほどの大きさで、内部には淡い光が漂っている。

「こちらに手を」

言われるまま、俺は手を伸ばした。

ひんやりとした感触。

――その瞬間。

水晶板の奥で、光が揺れた。

最初は小さく、静かな明滅。
だが次第に、波紋のように幾重にも広がっていく。

「……記録、完了しました」

受付嬢は平静な声でそう告げ、
何事もなかったように書類へ視線を戻す。

ペンが走り、最後の欄に印が入る。

「これで登録は完了です」

差し出されたのは、小さな金属のプレート。
裏にはこの世界の文字で、名前が彫られている。

「基本はあちらの掲示板にある依頼をこなしていただきます。最初はFランクからのスタートですので、Eランク以上の依頼は受けることができません。」

(ランク…依頼…)

実感がじわじわと湧いてくる。

「同行されている皆さんも登録なさいますか?」

その一言で、背後の空気が一気に弾けた。

「します!」

「俺もだ!」

「登録…したいです…!」

「……一緒」

「僕もー!」

「当然ですわ!!」

口々に返事が飛び、ほぼ同時にうなずき合う精霊たち。

その様子を見て、受付嬢はほんのわずかに目を細めた。

「承知しました。では、皆さまも順に登録手続きを行いましょう」

淡々とした声。
だが、その言葉は確かに――“仲間として認める”合図だった。

俺は手の中の金属プレートを見る。

冷たいはずなのに、不思議と温かい。

(冒険者、か……)

まだ何者でもない。
何ができるのかも、どこへ向かうのかも分からない。

それでも。

俺の隣には、騒がしくて、勝手で、頼もしい精霊たちがいる。

「……行こう」

冒険者ギルドの喧騒の中で――
俺たちの冒険者生活がついに始まった。
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