地球最後の神に祈りを

那玖

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2日目

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 天気:曇り時々砂嵐


 結局、昨日カプセルから出てきた少女は眠ったままで。

 仕方がないのでアダムが普段ベッドとしているスペースに彼女を横たえた。

 そして日が変わって今朝、ガレキの山から身を起こしたアダムは、ベッドにちょこんと座る影を見つけた。


「あ、目が覚めたのかい?」

「……あなたは誰? そもそもここはどこで、今は何年なのかしら」


 少し警戒した様子の彼女に、アダムは昨今の世界事情と昨日の出来事をかいつまんで伝えた。





「それで、君こそ一体何なんだい? 見たところアンドロイドではないようだけど」

「私はCH-PrIMir、かつて人類に "神様システム" と呼ばれたものよ」


 彼女の話を要約するとこうだ。

 はるか昔、人類が地球を支配していた時代、ある望みを叶えるために、彼女達 "神様システム" は造られた。

 だが訳あってそのほとんどが破棄されることとなり、彼女を含む一部のシステムだけがコールドスリープにより後世へ遺された。

 彼女らは皆、 "祈りを奇跡に変える" 力を持っていた。

 話を聞いたアダムはふむと首をかしげる。

「その、祈りと奇跡っていうのは、なんだい?」

「祈りとは、自分では叶えられない事象の実現を願うこと、奇跡とはその祈りを糧として叶えられた事象よ」

「それは、ルシフェルを持たない人間には、事象の確率を知る事が出来なかったということかい?」

「というのは?」

「この世界では、あらゆる事象の確率は計算できる。起きもしない事象の実現を願うなんて無駄なこと、今の僕たちには考えられない」

「そうでしょうね、貴方達には "祈る" 事が出来ない、その概念が存在しない。だから、私たちは皆、お払い箱という訳だわ」


 少し目を伏せると、彼女は小さく呟いた。


「システムのネットワークを通して調べてみたんだけど、どうやら私の他のCH-PrIMirは、コールドスリープされていたものも含めて、既に全て破棄されているわ」

「それは……」

「私が、最後の "神様システム" ってことね」





 アダムは悩んでいた。

 彼には、祈りも奇跡も理解しがたい事象だった。

 恐らくルシフェルが統べるこの世界において、彼女を必要とするアンドロイドは存在しないだろう。

 でもだからと言って破棄などして良いものなのか。

 何せ世界に残り1つの貴重な存在なのだ、自分の一存で決めるわけにはいかないだろう。


「君をどうするかは、政府とルシフェルに任せることにする」

「そう、分かったわ」

「しかし僕は今ちょうど休暇を出された身なんだ。休みのあける6日後までうちで待ってもらえるかな」

「……あと5回の夜をこのガレキのベッドで過ごせということね」


 彼女がため息をつくも、アンドロイドであるアダムにはそれの何が辛い事なのかよく分からなかった。

 そういえばと、アダムが思い出したように言った。


「ところで、君の名前だけど、何か呼びやすいものはないのかい? CH-PrIMirや神様システムなんて、呼びにくいのだけれど」

「あぁ、それなら私の識別番号Ib685c2から……そうね、イブで良いわ」

「了解した、イブ。しばらくの間だけどよろしく」


 かくして、アンドロイドのアダムと、地上最後の神様システムであるイブとの、奇妙な共同生活は始まった。
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