地球最後の神に祈りを

那玖

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3日目

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天気:雨のち霧


「奇跡というのは例えばどのようなものなんだい」


 昼食用にエネルギー剤を摂取しながらアダムは尋ねた。

 1日3食が基本だというイブに、昨日からアダムは合わせて "食事" をしていた。

 本当は3日に1度程度の供給で事は足りるのだが。


「奇跡というのは、そうね、あなた達風にいうと、確率がほぼ0に等しい事象のことよ」


 火を通したワームを口へ運びながらイブは答える。

『そんな奇妙なものを食べるのか』

 昨日アダムが聞いてみたが、貴重なタンパク源とのことだ。

 彼女が造られた時代の人類も同じものを摂取していたらしい。

『食べられるものがこの時代に残っていてよかったわ』

 確かに、星の環境がこれだけ変化したにもかかわらず、よくぞほとんど変わらない姿でいるものだ。


「……ますます分からないな」


 理解不能とばかりにアダムは肩をすくめる。


「確率が0ならその事象は起こり得ないはずだ」

「それが起きるから、 "奇跡" というのよ」


 最後のかけらを嚥下すると、ご馳走さま、イブは両手を合わせた。





 ほとんど壊れてはいるようだが、折角人類時代の貴重な機械を入手したのだ。

 ロボット技師としていい休暇しのぎが出来たと、アダムは工具片手にその塊に向かっていた。

 側で書籍データを読むイブと会話しながら、断線したケーブルを繋ぐ。


「そういえば、さっきの話だけれど」

「どの話かしら?」


 お互いに、興味の対象から目は上げないまま、会話だけが宙を舞う。


「奇跡の話」

「あぁ、その事」

「つまり君達は、どんな不可能な事も、その "祈り" さえあれば起こしてしまえるということかい?」

「いいえ」


 そこで初めて、イブは端末を置いた。

 視線を感じたアダムが、工具を手に振り返る。

 2人の目があった。


「私達が起こせるのはあくまで奇跡。すでに確定してしまった事象を変えたり、そうね、つまり確率が完全に0%の事象は不可能よ」

「確定した事象……」

「たとえば――」


 ふっと、イブは微笑みの表情を浮かべた。


「――死んだ者を生き返らせる、とかね」


 そういう彼女の笑顔は、アダムには何故だか、まるで泣いているようにも感じた。
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