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3日目
しおりを挟む天気:雨のち霧
「奇跡というのは例えばどのようなものなんだい」
昼食用にエネルギー剤を摂取しながらアダムは尋ねた。
1日3食が基本だというイブに、昨日からアダムは合わせて "食事" をしていた。
本当は3日に1度程度の供給で事は足りるのだが。
「奇跡というのは、そうね、あなた達風にいうと、確率がほぼ0に等しい事象のことよ」
火を通したワームを口へ運びながらイブは答える。
『そんな奇妙なものを食べるのか』
昨日アダムが聞いてみたが、貴重なタンパク源とのことだ。
彼女が造られた時代の人類も同じものを摂取していたらしい。
『食べられるものがこの時代に残っていてよかったわ』
確かに、星の環境がこれだけ変化したにもかかわらず、よくぞほとんど変わらない姿でいるものだ。
「……ますます分からないな」
理解不能とばかりにアダムは肩をすくめる。
「確率が0ならその事象は起こり得ないはずだ」
「それが起きるから、 "奇跡" というのよ」
最後のかけらを嚥下すると、ご馳走さま、イブは両手を合わせた。
◇
ほとんど壊れてはいるようだが、折角人類時代の貴重な機械を入手したのだ。
ロボット技師としていい休暇しのぎが出来たと、アダムは工具片手にその塊に向かっていた。
側で書籍データを読むイブと会話しながら、断線したケーブルを繋ぐ。
「そういえば、さっきの話だけれど」
「どの話かしら?」
お互いに、興味の対象から目は上げないまま、会話だけが宙を舞う。
「奇跡の話」
「あぁ、その事」
「つまり君達は、どんな不可能な事も、その "祈り" さえあれば起こしてしまえるということかい?」
「いいえ」
そこで初めて、イブは端末を置いた。
視線を感じたアダムが、工具を手に振り返る。
2人の目があった。
「私達が起こせるのはあくまで奇跡。すでに確定してしまった事象を変えたり、そうね、つまり確率が完全に0%の事象は不可能よ」
「確定した事象……」
「たとえば――」
ふっと、イブは微笑みの表情を浮かべた。
「――死んだ者を生き返らせる、とかね」
そういう彼女の笑顔は、アダムには何故だか、まるで泣いているようにも感じた。
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