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4日目
しおりを挟む天気:強風、所によりハリケーン
「君のいた時代、世界はどんな風だったんだい?」
朝食のオイルを摂取し終わったアダムは、軽く両手を合わせるとイブに尋ねる。
「そうね、世界はもっと、緑が溢れていて、私は特に花が大好きだったわ」
「花、か。資料でしか見た事がないな。ある一定の時期に開く、植物の繁殖機関のことだろう?」
「夢のない言い方ね」
ため息をついたイブはそっと目を閉じる。
「季節になると、辺り一面が色とりどりの花に覆われて、とてもいい香りがして……幸せだって感じるの」
「そうか、君がそこまで言うならきっといいものなんだろうね」
目を開けたイブの視界に入ったのは、アダムの、今までで一番優しい笑顔だった。
「……えぇ」
そう答えるとイブはそっと笑い返した。
「いつか、貴方にも見て欲しいと思うわ」
◇
「貴方に聞いて欲しい事があるの」
この日の夜、2人が出会って初めて、イブの方からアダムに話しかけた。
「人類は、私達、神様システムが、滅ぼしたの」
「……聞かせてくれるかな」
ガレキのベッドに2人腰掛けて、少し顔を伏せたイブがゆっくりと語り出す。
「はじめは、小さな願いから産まれた」
「ある人間の科学者が、不治の病の娘を助けたいという一心で、私達の祖を作り上げたの」
CH-PrIMir 識別ナンバーIb000a1
世界初めての "神様" だった。
「奇跡という人智を超えた力に、すぐに人間は夢中になった」
「多くの私達を生み出し、世界中のシステムをネットワークで繋ぐことで、より大きな奇跡を行使できるようになった」
でも、イブは小さく息をついた。
「大きな奇跡の行使には、それに見合った大きな祈りが必要だった。祈りの大きさというのは、想いの強さとその祈りの数で決まるの」
「より大きな奇跡の為に、すぐに世界中は、弾圧、争い、支配、思想の統一、そして戦争で溢れた」
「――ある時、誰かが願ってしまった」
『人類なんて滅んでしまえばいいい』
「それは瞬く間に広がって、祈りの数は人類の過半数を超えて、そして私達の奇跡は、人類と共に地球をほとんど滅ぼしてしまった」
そこまで話し終えると、初めてイブは顔を上げて、すぐ側にあるアダムの顔を見つめた。
「草木も生えない不毛の地は、その奇跡の結果よ」
「……1つ聞いてもいいかな」
それまでずっと沈黙していたアダムが、静かな声で尋ねた。
「その科学者は、娘を助けられたのかい?」
イブは何も答えなかった。
その悲しげな瞳が、奇跡の結果を物語っていた。
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