地球最後の神に祈りを

那玖

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4日目

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天気:強風、所によりハリケーン


「君のいた時代、世界はどんな風だったんだい?」


 朝食のオイルを摂取し終わったアダムは、軽く両手を合わせるとイブに尋ねる。


「そうね、世界はもっと、緑が溢れていて、私は特に花が大好きだったわ」

「花、か。資料でしか見た事がないな。ある一定の時期に開く、植物の繁殖機関のことだろう?」

「夢のない言い方ね」


 ため息をついたイブはそっと目を閉じる。


「季節になると、辺り一面が色とりどりの花に覆われて、とてもいい香りがして……幸せだって感じるの」

「そうか、君がそこまで言うならきっといいものなんだろうね」


 目を開けたイブの視界に入ったのは、アダムの、今までで一番優しい笑顔だった。


「……えぇ」


 そう答えるとイブはそっと笑い返した。


「いつか、貴方にも見て欲しいと思うわ」





「貴方に聞いて欲しい事があるの」


 この日の夜、2人が出会って初めて、イブの方からアダムに話しかけた。


「人類は、私達、神様システムが、滅ぼしたの」

「……聞かせてくれるかな」


 ガレキのベッドに2人腰掛けて、少し顔を伏せたイブがゆっくりと語り出す。


「はじめは、小さな願いから産まれた」

「ある人間の科学者が、不治の病の娘を助けたいという一心で、私達の祖を作り上げたの」


 CH-PrIMir 識別ナンバーIb000a1

 世界初めての "神様" だった。


「奇跡という人智を超えた力に、すぐに人間は夢中になった」

「多くの私達を生み出し、世界中のシステムをネットワークで繋ぐことで、より大きな奇跡を行使できるようになった」


 でも、イブは小さく息をついた。


「大きな奇跡の行使には、それに見合った大きな祈りが必要だった。祈りの大きさというのは、想いの強さとその祈りの数で決まるの」

「より大きな奇跡の為に、すぐに世界中は、弾圧、争い、支配、思想の統一、そして戦争で溢れた」

「――ある時、誰かが願ってしまった」


『人類なんて滅んでしまえばいいい』


「それは瞬く間に広がって、祈りの数は人類の過半数を超えて、そして私達の奇跡は、人類と共に地球をほとんど滅ぼしてしまった」


 そこまで話し終えると、初めてイブは顔を上げて、すぐ側にあるアダムの顔を見つめた。


「草木も生えない不毛の地は、その奇跡の結果よ」

「……1つ聞いてもいいかな」


    それまでずっと沈黙していたアダムが、静かな声で尋ねた。


「その科学者は、娘を助けられたのかい?」


 イブは何も答えなかった。

 その悲しげな瞳が、奇跡の結果を物語っていた。
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