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6日目
しおりを挟む「……ん……アダム……?」
「おはよう、イブ」
目が覚めて最初にイブの視界に入ったのはアダムの笑顔だった。
「さて、朝食にしようか」
◇
天気:晴れ
「一晩考えたんだ」
ワームを少しだけ齧ると、アダムは渋い顔をした。
結局、この味と触感にはどうにも慣れなかった。
「やはり君を政府へ引き渡すことはしないよ」
アダムが口をふきながらそう言うと、イブは表情を曇らせた。
「昨日も言ったでしょう。それでも私はもうすぐ動かなくなってしまうの」
「いや、1つ方法があったんだ」
アダムの視線の先には、コールドスリープ装置。
「最後にもう一度だけ、眠りについてくれないか、イブ」
「でも、装置はもう完全に壊れているわ」
「昨晩、修理は全て終わったよ」
装置は、イブが生存していたことが不思議なほどに、酷く損壊していたのだが。
驚いた表情を浮かべるイブに、アダムは誇らしげに笑った。
「これでも僕は、腕利きの技師なんだ」
◇
「君が眠ったら、この星について研究することにするよ」
完璧に修理された装置をなぞりながらアダムは言った。
「僕らの寿命はとても長いから、時間をかけて、君が生きられる環境へ変えてみせる」
振り返ったアダムの胸に、小さな身体が飛び込む。
ゆっくりとイブの頭を撫でながら、アダムは優しく囁いた。
「だからそれまで、夢でも見ながらゆっくり待っていてくれないか」
「えぇ、きっと私、愛しい貴方の夢を見るわ」
「それは嬉しいな。じゃあ僕は毎晩、眠る君におやすみを言うよ」
◇
簡単に身支度を整えると、イブは長年眠っていたそのスペースに身を横たえた。
装置の最後の調整を済ませたアダムが、その顔を覗き込んで笑う。
「寝心地はいかがかな? 以前に比べてかなり良くなったと思うんだけど」
「ええ、ガレキのベッドより眠りやすそうだわ。あれも慣れれば意外に悪くなかったけれど」
イブの頬に、アダムの指がそっと触れる。
「本当にありがとう、最後に1つお願いがあるんだ。君に――祈りを捧げたい」
イブは一瞬驚いたように目を見開くと、コクリと小さく頷いた。
それを確認したアダムは、そっと目を閉じる。
「じゃあ祈るよ――
『君が次に目覚めたとき、世界が君にとって優しく穏やかで、君の大好きな花で溢れていますように』
……どうだろう、叶えられそうかな」
「ええ、その祈りを、受け取ったわ。……きっと、素敵な奇跡が実現するわね」
酷く嬉しそうに、イブは微笑む。
その目の端から、一雫の涙が溢れた。
「ありがとう、アダム。おやすみなさい」
「おやすみ、イブ。いい夢を」
カプセルが閉じる。
すぐにその中は白い靄に包まれて、イブの姿はもう見えない。
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