地球最後の神に祈りを

那玖

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6日目

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「……ん……アダム……?」

「おはよう、イブ」


 目が覚めて最初にイブの視界に入ったのはアダムの笑顔だった。


「さて、朝食にしようか」





 天気:晴れ



「一晩考えたんだ」

 
 ワームを少しだけ齧ると、アダムは渋い顔をした。

 結局、この味と触感にはどうにも慣れなかった。


「やはり君を政府へ引き渡すことはしないよ」


 アダムが口をふきながらそう言うと、イブは表情を曇らせた。


「昨日も言ったでしょう。それでも私はもうすぐ動かなくなってしまうの」

「いや、1つ方法があったんだ」


 アダムの視線の先には、コールドスリープ装置。


「最後にもう一度だけ、眠りについてくれないか、イブ」

「でも、装置はもう完全に壊れているわ」

「昨晩、修理は全て終わったよ」


 装置は、イブが生存していたことが不思議なほどに、酷く損壊していたのだが。

 驚いた表情を浮かべるイブに、アダムは誇らしげに笑った。


「これでも僕は、腕利きの技師なんだ」





「君が眠ったら、この星について研究することにするよ」


 完璧に修理された装置をなぞりながらアダムは言った。


「僕らの寿命はとても長いから、時間をかけて、君が生きられる環境へ変えてみせる」


 振り返ったアダムの胸に、小さな身体が飛び込む。

 ゆっくりとイブの頭を撫でながら、アダムは優しく囁いた。


「だからそれまで、夢でも見ながらゆっくり待っていてくれないか」

「えぇ、きっと私、愛しい貴方の夢を見るわ」

「それは嬉しいな。じゃあ僕は毎晩、眠る君におやすみを言うよ」





 簡単に身支度を整えると、イブは長年眠っていたそのスペースに身を横たえた。

 装置の最後の調整を済ませたアダムが、その顔を覗き込んで笑う。


「寝心地はいかがかな? 以前に比べてかなり良くなったと思うんだけど」

「ええ、ガレキのベッドより眠りやすそうだわ。あれも慣れれば意外に悪くなかったけれど」


 イブの頬に、アダムの指がそっと触れる。


「本当にありがとう、最後に1つお願いがあるんだ。君に――祈りを捧げたい」


 イブは一瞬驚いたように目を見開くと、コクリと小さく頷いた。

 それを確認したアダムは、そっと目を閉じる。


「じゃあ祈るよ――

『君が次に目覚めたとき、世界が君にとって優しく穏やかで、君の大好きな花で溢れていますように』

……どうだろう、叶えられそうかな」


「ええ、その祈りを、受け取ったわ。……きっと、素敵な奇跡が実現するわね」


 酷く嬉しそうに、イブは微笑む。

 その目の端から、一雫の涙が溢れた。


「ありがとう、アダム。おやすみなさい」

「おやすみ、イブ。いい夢を」


 カプセルが閉じる。

 すぐにその中は白い靄に包まれて、イブの姿はもう見えない。

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