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謎の依頼編
10 魔法
しおりを挟むルゲル村へと行く途中、私は魔法の練習をする事にした。
王都で起こった出来事がもしこれから起こるようであればその時は誰も巻き込まず、かつ自分の力で切り抜けていきたい。
ならばやっぱり魔法は必要不可欠だと思う。
早速リュックから魔導書を取り出す。
魔力0だった頃、もしかしたら少しぐらい魔力があるかも……と魔法の練習を密かに行っていた頃のものである。その為少し黄ばんでいるし、色褪せてもいる。
私はページを開き、早速魔法の練習を始めた。
意識を集中させる。
でも呪文を覚えてないので、その集中はあっという間に切れてしまった。
「明かり程度の火をつける魔法……呪文はえっと」
そう呟いた時だった。
ボン!
手のひらから火の玉が現れたのは。
しかも明かり程度……なんかじゃない。
めらめらと燃え上がる炎は勢いよく風になびく。
勢いのある炎に驚きつつ私は必死に炎を消そうと試みる。
「と、取り敢えず消えて!」
そう言えば炎は一瞬で姿を消した。
魔法は呪文を唱えることで発動する筈。
なのに何故呪文を唱えていないのに炎が出てきたんだろう?
私は首を傾げた。
「あんた、魔導師なのか?」
「誰!?」
背中から聞こえてきた声に私は弾かれたように振り向く。
そんな私に声の主だと思われる人が慌てたように話し出す。
「そんな警戒すんなよ。俺はあんたの敵とかじゃないから。驚かせたみたいだな。謝るよ」
「こちらこそごめんなさい。私の方こそ驚かせたみたいですね」
こげ茶の髪に深緑の瞳。白シャツにオーバーオールという服装の男の人。落ち着いた雰囲気と高い背丈。所々敗れたり、ほつれたりしているけれど大切に使われているであろうオーバーオール。何だかジーンときた。
「ここでは見ない顔だけど……旅人? それとも……冒険者だったりするのか?」
「旅人です。ルゲル村へ行く途中にちょっと魔法の練習をしようと思いまして」
「冒険者……じゃないのか」
明らかにしょぼんりする男性。
どうやら私は彼の期待裏切ってしまったらしい。
けど直ぐにその男性は爽やかな笑みを浮かべる。
「ルゲル村に行きたいなら案内しようか?」
「もしかしてルゲル村の方なんですか?」
「そう。小さな村だけど、自然豊かでいい所だから」
男の人はそう言うと、小さく微笑んだ。
「俺はロキ。ルゲル村で父の牧場を手伝ってる」
「エデンと言います。魔導師です。よろしくお願いします」
簡単な自己紹介を済ませ、私は早速ルゲル村へと向かった。
…………そう言えば私、王都からここまで来るのにどれくらい掛かったんだろう?
何だかあっという間に着いた気がするぞ。
********
ルゲル村へ行くのに便利な近道という道に来た。
周りには鬱蒼と茂る木々たち。
自然に溢れたこの空間に思わずスキップしてしまいそうになる。
何より風が凄く気持ちよく感じた。
「エデン。さっき魔法使ってたよな? あれってなんて言う魔法なんだ?」
「さっきの魔法に名前という名前は無いんです。強いて言えば明かり程度の炎ですかね?」
「明かり程度!? いやいや、全然明かり程度の光なんかじゃ無かったぞ!?」
「私もそう思います……」
明かり程度の光を出した筈なのに、あの時の炎はどう見たって明かり程度の炎では無かった。
私のイメージでは十センチくらいなのに、あの時出てきたのは三十センチ以上はあったと思う。
これはもしかしてステータス1000なのが関係してるのかな?
魔法について学んできたけど、まだまだ分からない事ばかりだと思った。
「ロキさんは牧場を継ぐんですか?」
「あー……まぁ、そのつもり」
継ぐつもりねぇ……?
ロキさんを横目で見つめながら、何処か心残りのありそうなロキさんのその言葉に引っ掛かった。
でも、踏み込み過ぎてはいけない。
もうこの話は辞めようと次の話題を切り出す。
「そう言えばロキさんって、綺麗な黒髪ですね。私、黒髪の人、初めて見ました」
「……エデンってもしかして都会っ子?」
「えっと……都会っ子と言うか……」
ずっと家にこもってたからお父様、お母様、フェリーヌやセリア様、それから使用人達ぐらいしか知らないん。
お母様はブロンドだし、お父様は茶色。フェリーヌだって茶色でセリア様に至っては白髪だ。使用人に限っては色鮮やかすぎて何とも言えない。
特に驚いたのは青の髪の毛先に所々白のメッシュを入れた髪。あれは本当に衝撃的だった。
「冗談だよ。服装からして都会っ子ぽいなーって」
あ、冗談だったんですね。
私が都会っ子なのかは分からないが、服装的に都会っ子らしい。
確かに王都のお洋服屋で買ったんだからそりゃあ都会っぽいとは思う。何よりこの短いスカートがそれを象徴している気がした。
「もう少しでルゲル村に着くぞー」
私は大きな返事を返す。
ついに目的地のルゲル村に到着だ。
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