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始まりの王都編
05 暴力は却下
しおりを挟むアゼリア街から出る事に成功した私はアゼリア街から二十キロメートル離れた場所にある王都へ来ていた。
ルゲル村に行くためにはどうやら王都の東門を越える必要があるらしい。
本当は直ぐにでも東門に行き、ルゲル村を目指す予定だったんだけど……
私は立ち止まり、周りを見渡す。
王都に初めて来た私にとって、王都はまるで宝石箱みたいで私は王都の輝きに目を奪われていた。
何故宝石箱かと言うとそれは王都を行き交う人々は色とりどりの髪色で一人一人が鮮やかな服に身を包む綺麗な人達ばかりで、そんな王都の人達が何だか宝石のように私には見えたのだ。
王都には可愛らしいぬいぐるみのお店から、オシャレなお洋服のお店に美味しそうなスイーツのお店まである。
立ち寄ってみたい、という気持ちもあるけれど今は東門に向かう事だけを考えよう。
そうして私は好奇心を打ち消した。
*******
「あれ? おかしいなぁ……」
地図を見つめながら私は頭を抱えていた。
地図だけでは東門が何処にあるかは分からないので、まずは誰かに聞こうと思った。だけど、王都の人達は冷たかった。声を掛ければ仏頂面をし、逃げる様に行ってしまう。その姿はまるで昔のお母様を見てるみたいで胸が凄く苦しくなった。
中々東門に辿り着く事が出来ないし、昼食を食べてないからお腹も空いた。
私は休憩の為に小さな広場のベンチに腰を掛ける。
すると少し脆いベンチだったらしく、ギギィと木が軋む音がした。
静かな空間。
空を見上げれば青い透き通った青空と白い雲。
雲がまるで昔一度だけ食べたショートケーキに見え、私はお腹の虫が鳴いた。
ショートケーキ、いつかまた食べたいな。
あのふわふわの黄色の部分。えっと、スポンジだっけ? あとクリームにあの真っ赤な甘いフルーツの苺。
あれは本当に美味しかった。
確か、セリア様が持ってきてくれたんだっけ。
あの時は本当に嬉しかったな。
「……忘れなきゃいけないのに」
傷つくことをされもう私はリア様の婚約者でも何でもないのに自然とセリア様の事を考えてしまっていた。
はぁ、とため息を吐き自分の虚しさに項垂れる。
こう悲しい気持ちを吹き飛ばすにはどんな事をすればいいんだろう?
私は腕を組み、考えた。
そんな中、妙に不釣り合いな男女二人組が視界に入った。
「お願い! 離してください!」
「暴れんなクソガキ」
と私と同い年くらいの女の子と三十代少し前ぐらいの男性が言い合いしているのに気がついた。
可愛らしいフリルたっぷりドレスに、淡い桃色の髪の女の子。整った容姿と服装から貴族の子だと思う。そしてその隣にいる男性は女の子と並ぶには釣り合わない少し見窄らしい服装。使用人……では無さそう。使用人なら使用人らしい服を着ている筈だから。
それにしても……本当に不釣り合いな二人だ。
でもあそこに私が入ったらもっと凄い光景になりそうだ。
最初はそんな軽い気持ちでその光景を見ていた。
だけどそんな軽い気持ちで見ていられたのはこの時までだった。
バチン!
痛々しい音がした。
私は目を見張り、思わずベンチから立ち上がる。
男性が女の子に手を振るったのだ。
その場に倒れ込む女の子。
男性はそんな女の子の腕を掴み、引きずるようにどこかへ連れて行こうとする。だけど必死にもがく女の子。
気づけば勝手に体が動いていた。
「辞めなさい!」
私の声に目を見張る女の子と男性。
女の子の黄色の瞳と目が合い、取り敢えず微笑んでみせる。けど、きっとその笑みは引きつっていると思う。
男性は私の頭から爪先までしっかり見た後、不機嫌そうに呟く。
「何だ、 あんた? 平民が何の用だ?」
そして平民と言われた。
まぁ、裸足にリュックにおんぼろワンピースの私はどう見ても(一応)貴族には見えなかったらしい。
威圧感溢れる眼差しで見詰められ、私は一瞬固まる。
けど女の子の事を思うと黙ってはいられなかった。
「暴力はよくない!」
「はぁ?」
「だから、暴力は良くないんの! その子だって嫌がっているじゃない! それくらいも分からないの!?」
さすがの私でも暴力なんて受けたことは無い。
まぁ、暴力では無く言葉の暴力は受けてはいたが言葉の暴力よりも辛いのは明らかだ。
男性は大きな舌打ちをすると女の子の手を離した。
けど次の瞬間、男性の手は私へと振り上げられていた。
でも、パーでは無い。グーである。
「危ない!」
女の子の綺麗な声が横から聞こえた。
至近距離からの攻撃。
しかも相手は大人の男性。
普通ならそのまま打たれる筈だ。
けど……
「だから……暴力はダメって言ってるじゃない!」
私はその人のパンチを片手で止めてみせた。
男性の手はごつごつしててとても大きかった。
一方、私の手は小さい。
でもパンチを止める事が出来た。
その光景は異様な光景だろうけど、今ここには私と女の子、それとこの男性しか居ない。
まさかこんなにも容易く止める事が出来るとは私も思っていなかったので凄く驚いた。でも一番驚いたのは男性の手の動きがハッキリと分かったことである。
昔の私だったら絶対に出来なかったこと。
それはこの女の子を守ることだ。
「な、何なんだ……お前!?」
男性の顔色に不安の色が浮かび出した。
額には汗が滲んでいるし、何より男性の手がぷるぷると震えだしていた。
正直、私は全くもって力を出していない。
ただ単に腕を宙に浮かしたくらいの感覚である。
男性は顔を真っ青に染まる。
「くそっ! 今回は見逃してやる! 覚えてろよ!」
男性は顔色を変え、騒がしい足取りでどこかへ行ってしまった。
…………す、凄く……凄く怖かった。
今頃やってきた恐怖感に私はその場に崩れ落ちた。
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