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始まりの王都編
06 素敵な女の子
しおりを挟む「あの、助けて頂きありがとうございました。 とても困っていたので本当に助かりました」
女の子に深々と頭を下げられ焦る私。
近くで見てみると余計に可愛い女の子でまるでお人形さんみたいだった。
手を差し伸べられ、その手をとる。
ゆっくり立ち上がれば女の子が小さく微笑んだ。
「あの、よければ御礼をさせてはくれませんか?」
「御礼だなんて……私は当然のことをしたまでですよ」
「……ますます御礼をしたいです。私、ミレイと申します。お名前、伺ってもよろしいですか?」
「わ、私は……エデンと申します」
「エデン……さん。素敵な名前ですね」
こんな子の事をきっと【天使】と呼ぶのだろう。
同い年ぐらいに見えるのにミレイさんから溢れる気品。
それでいてこの美しい容姿。
思わず私は息を飲んだ。
「本当はお家におもてなしでもしたいんですが……その、今はいろいろあっておもてなし出来ないんです。なのでレストランにでも行きませんか?」
誘いは嬉しかった。
けど私は先を急いでる訳でのんびりしてはいられないのだ。
せめてこの子がまた変な人に絡まれないよう家まで見送る程度で済まそう。
そう思い断ろうとした時だった。
ぎゅるるるるるる
…………あ。
盛大にお腹の音が鳴ってしまった。
「あの、これはですね! その、違うんです!!」
どうやら身体は正直みたい。
私は慌てながらも言い訳を考える。
でも中々良い言い訳はポンとは浮かばなかった。
……恥ずかしい。
とてもと言っていいくらい恥ずかしい。
自分でも分かるくらい顔は真っ赤で、熱をおびている。
そんな私を見て、ミレイさんがくすくすと笑った。
「お腹は正直ですね。遠慮なんてしないで下さい。ね?」
「…………なら、お言葉に甘えて」
私はミレイさんの親切さに甘える事にした。
*********
人通りの多い道に出た。
私はミレイさんの少し後ろを歩いている。
最初は隣を歩こうと思ったけど隣に並ぶ勇気など無かった。
「えっと、エデンさんはどうしてここに? 見た所王都の方では無さそうですが……」
「自由にのんびり暮らしたいから……です」
嘘は言ってない。
けど私の答えが以外だったのかミレイさんが目を丸くして私を見詰めてきた。バッチリと目が合い、取り敢えず微笑んでみせたけど絶対に不自然だったと思う。
王都に来た理由が自由にのんびり過ごすためにと言うのはやっぱりおかしな事なのかな? それとも思考が子供っぽくて逆に引かれてるとか? それだったら悲しいな。
沈黙が流れ、気まずさに次の話題を考える。
「凄いのね……エデンさんは」
え……?
驚きのあまりに声が出なかった。
私は弾かれたようにミレイさんを見つめる。
そんな私の視線に気づいたのか、ミレイさんが私を見て小さく微笑んだ。何処か寂しそうで、悲しそうな笑顔。
キュッと胸が苦しくなった。
「私、家の規則に拘束されるのが本当に嫌で仕方なくて……さっきも家を抜け出して遊んでいたら知らない人に声を掛けられちゃって……。でも、怖くて何も出来なかった。そんな時にエデンさんが助けてくれた。私と同い年ぐらいなのに本当に凄い。もしかして冒険者さん?」
「いえ。冒険者では無いんです。ただの旅人です」
「そうなんですか!? なのにあんなにお強いなんて……ほんとに尊敬します」
心の底から言われた気がして凄く光栄だったし、気恥ずかしくもなった。
「ここにしましょうか」
足を止め、ニコリと笑うミレイさん。
一方私はと言うと、ミレイさんの選んだお店に驚きを隠せなかった。
白くて綺麗な大きな建物。
周りには花壇があり、可愛らしい花が沢山咲いている。
看板には【花のレストラン】の文字。
いかにも高級そうなお店の香りがする。
ミレイさんがお店の中に入っていく後ろ姿を見つめながら私は少し躊躇った。
何だか場違いな気がした。
私は裸足だし、何よりこんな薄汚い格好だ。
場違いにも程がある。
「エデンさん? どうかしましたか?」
「あ、いえ。なんでもないです! 直ぐに行きます」
私は慌ててミレイさんの元へ急ぐ。
すると
「……さっきから靴が合わないみたいで痛くて。脱ごうかしら」
「え……」
ミレイさんはそう言うと、リボンのついた白いサンダルを脱ぎ、鞄の中へしまった。
私はそんなミレイさんの行動に唖然としていた。
別にサンダルを鞄にしまった事に対してでは無い。
私がお店に入りにくそうにしていた事に気づいて気遣ってくれた事にだ。
「さ、行きましょうか」
「はい……」
またミレイさんの優しさに甘えてしまった。
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