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始まりの王都編
08 初めての友人
しおりを挟む「凄く美味しかったよ。ありがとう、ミレイ」
「御礼だもの。気にしないで」
ご飯を食べ終わった頃には私はミレイに敬語無しで話せるような仲になっていた。
ミレイについて知れたことは、お嬢様口調の話し方は癖らしい。で敢えて家柄については詳しくは聞かなかったけど、それなりの家柄だの言うのは何となくだけど分かった。
お腹もいっぱいになったし、友人も出来て凄く幸せだ。
こんなに幸せでいいのだろうか?
ふとそんな事を考えた。
「ねぇ、エデン。旅をするならその服装は不向きだと思うの。だから今から私が貴方にぴったりなお洋服を選んであげる」
「有難いけど、持ち合わせがあまり無いんだ」
「そこに関しては大丈夫よ。私が買ってあげるわ」
「ご飯だってご馳走になったよ? さすがにお洋服までは悪いよ」
「これも御礼よ。気にしないで」
ニコリと微笑むミレイ。
ミレイの言う御礼は御礼という域を越えている気がする。
金銭感覚の違いだろうか。
でも、ミレイの心優しい親切心を断る事も出来ない。
私はまたミレイの御礼に甘える事になった。
「エデン。旅だからワンピースはダメよね? ショートパンツあたりかしら?」
「えっと……ミレイに全部任せるよ」
「分かったわ。私に任せて!」
ミレイは大きく胸を張った。
レストランを出てから少し歩いた所に沢山の服屋が並ぶ道に出ればそこにはオシャレな女性が沢山居て、いい香りもした。
「まずはここに行きましょうか」
ミレイが選んだのは茶色のレンガのお店。
早速中に入る。
「かわいい……!」
店内は可愛いお洋服や雑貨、小物で埋め尽くされていた。
ドレスやワンピース、靴に鞄に帽子にリボン。
どれもどれも可愛いい物ばかりだった。
そしてどれも高価である。
多分ブランド物なんだろう。
「エデンはどんな服でも似合いそうね。お洋服の選びがいがあるわ」
「そうかな? 自分じゃよく分からないから」
「えぇ。エデンはとても可愛いわよ。私がエデンに似合うお洋服を選んであげるから楽しみにしてて」
改めて思ったけどミレイは言葉が上手い。
一つ一つの言葉に心があり、一つ一つがグッとくる。
けど褒められる事に慣れていない私としては恥ずかしくて仕方ない。
「やっぱり旅人なんだから動きやすさを重視しないとダメだと思うの。だから……」
ミレイが楽しそうに服を選び出す。
そして最初に手に取ったのはかぼちゃパンツだった。
確かにこれなら動きやすさもありながら可愛さもある。
ミレイはお洋服を選ぶセンスも抜群みたい。
「無難に黒がいいかしら? いえ……ここは茶色? パステルカラーも捨て難いわ……」
真剣さを増すミレイの瞳。
メラメラと炎が見える気がする。
ミレイが服選びをしているの隣で見ているのもいいけど、私も何か御礼がしたい。
それに友達にはプレゼントを贈るのが良いと本で読んだことがある。
ならここでミレイへのプレゼントを買おう。
何をあげたらミレイは喜んでくれるんだろう?
私はうーんと唸りながら店内を回ることにした。
店内を探索してから二十分。
迷いに迷った結果、プレゼントは髪留めに決めた。
黄色の小さな花の着いた髪留めなんだけど、ミレイのあの淡い桃色の髪色にはぴったりな気がした。
私はそれをお会計し、リュックへしまう。
「エデン! ここに居たのね! さぁ、早く試着して!」
「うん。分かった!」
突然後ろからミレイが現れた。
少しドキッとしたけど、何とか平常心を取り戻す。
私はミレイに連れられ試着室に入った。
「もう着てみた?」
カーテン越しからミレイの声が聞こえてきた。
「うん。だけど……なんか恥ずかしい」
私はそう答え、ゆっくりカーテンを開ける。
そしてカーテンを開けたのと同士にミレイが「きゃぁぁぁ」という声をあげた。
一方私はと言うと着慣れない服装に困惑していた。
白いブラウスに、赤のラインが入ったスカートズボン。その上からチョコレート色のローブを羽織っている。ローブにはワンポイントとしてリボンが着いていた。それから膝より上の長めな白い靴下に、茶色のブーツという格好。
…………可愛すぎる気がするぞ。
鏡に映る自分を見て、私はそう思った。
「エデン。あと、これも」
「え?」
名前を呼ばれ振り返る。
ミレイの腕が真っ直ぐ私へと伸びてきて、前髪に触れる。
「辞めてっ!」
叫んだ時は遅かった。
ミレイが私のおでこを凝視していた。
────烙印
気にしないで過ごそうと決めていたのに、 やはり気にせずにはいられなかった。
ミレイは貴族(私の予想だけど……)
だからきっとこの烙印の意味も分かってしまうだろう。
貴族なら有り得る跡継ぎ失格を意味するこの烙印を。
私は慌てて前髪を整える。
見られた。
見られてしまった。
嫌われた?
それだったらすごく悲しい。
だってミレイは私の初めての友達だから。
少しの沈黙が走った後、この沈黙を打ち消したのはミレイだった。
「…………それ、痛くないの?」
「ち、小さい頃に押されたものだから痛くはない」
「そう」
気まずい
いや、私がこの空気をつくったようなものだし……ここは私が場を和ませないと。
そう思い口を開こうとした矢先
ポタ
何かが床へと落ちていった。
そしてそれがミレイの涙だと気づいた時には何故か私は抱きしめられていた。
全く状況に頭がついていかない。
「エデン。今まで辛かったと思う。大変だったとも思う」
ギュッとミレイの腕の力が強まる。
「だけどね、怖がらなくて大丈夫。私は失格の烙印なんて気にしない。だってエデンはエデンじゃない」
「…………ミレイは本当に優しい人だね。ありがとう」
失格紋があるからという理由で今まで散々だった私にとってミレイの言葉は本当に嬉しくて、暖かい言葉だった。
ふと浮かぶあの時告げられた婚約破棄の言葉に、私は唇を噛み締めた。
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