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パン屋がやってきた編
60 御礼
しおりを挟む盗賊から剣などの武器を取り上げ、体を縛った後、私はルカと町長さんと一緒に盗賊達が隠していたこの街の食料の隠し場所へと向かった。どうやら街一番の高級ホテルを乗っ取り、そこで寝泊まりしていたらしい。しかも一ヶ月もである。辛かっただろうなとしみじみ思った。
「エデンさん。本当にありがとうございます。他に言葉が見つかりません……私は町長ながらも何も出来なかった。無力な自分に心底腹が立ちました。エデンさん。本当に、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる村長さんに私は慌てる。
「町長さんも女性達を守ろうとしてたじゃないですか。無力なんかじゃありませんよ」
「……貴方はお優しいのですね。何だか息子を思い出します」
ふと寂しそうにそう言った町長さん。
あまり深くは踏み込んじゃダメだよね。
私は何も聞かずにただ頷いた。
「エデンさん。何か御礼をさせて下さい」
「え!? いえ、そんないいですよ!」
「貴方はこの街の住人達全ての恩人です! どんな事でもいいです! 御礼をさせてください!」
これは引き下がってくれそうにないなぁ……。
私はうーんと唸る。
どんな事でも……か。
考えているうちにある考えが頭を過った。
「あの、ルゲル村をご存知ですか?」
「はい。とても小さな村ですよね? それが何か?」
「何処にあるか知っていらっしゃいますか?」
「存じていますが……」
「なら話は早いですね。御礼ということで頼みがあるんです。これだけ発展してる町ですし、沢山の人が来ると思うのですが旅人達にルゲル村の宣伝をして欲しいんです」
これだけ発展している町ならば沢山の人が来るだろう。
そんな町から宣伝してもらえればきっとルゲル村にも人が来てくれると思う。
私は町長さんへと宣伝用のチラシを渡す。
「あと、ルゲル村からの発注クエストも置いて欲しいです」
「構いませんが……本当にそんな事でよろしいのですか?」
「はい。私がこの街に来た理由はルゲル村の発展の為に開店するパン屋への呼び込みの為ですしね」
そう私が言えば町長さんが目を見開いた。
そして私が渡したチラシを見るなり、口をパクパクと動かし始めた。
何だか様子がおかしい。
それにルカも気づいたらしく、私の服の裾をぐいぐいと引っ張ってきた。
「あの、なにか?」
「い、いえ……息子を思い出しただけなので……。そんな事よりも! 是非ともこの街の住人達にも宣伝しておきます! 他にルゲル村にこれ! と言ったものないでしょうか? 」
「そうですね……自然が豊かです」
「ほ、他には?」
「木の実が沢山あります」
「他に……は?」
「えっと……えっと」
ほんと、何もないな。
改めてそう思った。
ルゲル村には何も無い。
お店もなければ子供が遊べるような施設も無い。
パン屋が出来るとはいえ、やはりそれだけじゃ人は呼び込めない気もした。
「町長さん。パン屋が開店したらその宣伝をこの街からお願いしたいです」
「はい。もちろんです。他に出来ることはないでしょうか? 協力させてください」
「お、思い付いたら頼みます……」
町長さんは少ししょんぼりしてたけど、もう充分なんだよね。
私は他に何かあるか考えてみる。
そんなこんなにしているうちに広場へと戻って来た。
けれど住人達が私へと向ける視線はなんというかキラキラしていて…………嫌な予感がした。
そう思った矢先、一人の男の人が私の元へと駆け寄ってきた。
そして勢いよく私へと頭を下げた。
「あ、あの! で、弟子にして下さい!」
震えた声で言ったその人の言葉がまるでこの人が合図だったかのように次々に私へと人が押し寄せてきた。
「恋人にしてくださいっ!」
「姉貴って呼ばせてほしいーっす!」
「是非ともうちに嫁に来てくれぇぇぇぇ!」
と、一斉に沢山の人から言い寄られ私は目を回す。
だって前から後ろからそして横からも言い寄られてしまっているのだから。
「皆! エデンさんを困らせちゃいかんだろう!」
町長さんの言葉に静まり返る人々。
ちょっと暗くなった空気を慌てて良くしようと試みた。
「いえいえ。皆さんが無事のようで私は嬉しいです」
そう私が言えば、「うぉぉぉぉ!」と何故か野太い声が響き渡った。
ここはお祭りか何かかな?
そう思ってしまうほどの賑わいぶりだった。
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