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 リヒトの研究の手伝いを初めて早くも一週間だたった。
 研究の手伝いは、主に必要な材料の調達であり、プレセアも難なく熟すことができていた。
 中でも薬草採取の仕事が多かったが、今回は珍しく薬草採取ではなかった。

「商品の受け取り、ですか?」

「うん。実はこれからお城の方に行かなくちゃいけなくて。今日受け取ることになってるから代わりに商品を受け取ってきて欲しいんだ」

 そう言って差し出された紙を受け取り目を通せば、そこには初めて見る店名が記されていた。

「それとこれも」

「これは?」

 今度は白紙の紙を差し出され、プレセアは首を傾げた。

「お店の方向を教えてくれるから、これについて行って」

「わ、分かりました....」

 一見ただの白い紙にしか思えないのだが、これも魔法の一種なのだろうか。
 だとしたら魔法とは奥深いものだとプレセアは思った。

 そして同時に幼い頃のことを思いだし
 た。
 幼い頃、よく兄と小鳥を作って遊んだことを。
 あまり上手に折れなくて、いつも兄の綺麗な小鳥が羨ましかった。
 交換して、と泣いて強請ったこともよく覚えている。
  
 その時だった。
 何の変哲もない紙が、小鳥へと姿を変えたのだ。

「え!?」

「あ、紙飛行機の形になったね。実はこれ、心の中で想像した物に代わる仕組みになってるんだよ」

「なるほど。だから紙飛行機に....」

「うん。後は飛ばしたら道案内を始めてくれるから」




 ....と説明を受けたのが十分ほど前のことだ。
 学校を出て早速、紙飛行機を飛ばしてみる。
 そうすれば、ふわりと風がないのにも関わらず、紙飛行機は浮き、そして動き出した。
 後を追って歩くこと数分。
 王都の商店街の通りに出た。
 行き交う多くの人々。
 けれど、誰も紙飛行機に目を止めるものはいない。
 どうやらこの紙飛行機が見えているのはプレセアだけのようだ。

 路地へと紙飛行機が飛んでいく。
 プレセアも続いて路地へと入る。
 そしてしばらく細い道を歩いていけば、一気に広い通りに出た。
 しかし、そこは本当に同じ王都の通りなのかと疑ってしまう程に人の気配がなかった。

「王都にもこんな場所があったなんて」

 驚きながらプレセアは歩を勧めていく。
 漸く紙飛行機がある店の前で止まった。

「ここみたいね」

 レンガ造りの....一見ただの住宅にしか見えない。
 赤い屋根の可愛らしいレンガ造りのお家。
 看板などは特に見当たらない。
 一体どんなお店なのか、期待と興味で胸が高鳴るのがわかった。

 扉を開け、中へと一歩踏み出す。
 そうすれば、店内は天井まで続く大きな本棚が沢山並んでいた。
 そして少し....いや、かなり埃っぽくて思わず咳が出た。
 これだけの本があるのだ。仕方ないと妥協し、プレセアは店内のカウンターへと向かった。

「すいません。リヒトせ....さんの代わりに品物を受け取りに参りました。誰かいらっしゃいませんんか?」

 店内はカーテンを締め切っているせいで薄暗い。
 且つ喚起もされていないのか空気がこもっている。
 外観と店内のギャップに驚きながらも店員を待っていると....。

「ん?」

 カウンターの奥にあるカーテンの方から視線を感じたような気がした。
 店員さんかな?ともう一度声を掛けようとした時だった。

「まじか!本当に女の子が来たぞ!!」

「え..?」

 突然聞こえた声。
 それはプレセアの足元から聞こえてきた。
 足元へと視線を向ければ、そこにはいつの間にか一匹の白猫の姿があった。
 一体いつからそこに居たのだろう?と疑問を持ちつつも猫の愛くるしさを前にしたらそんな事はどうでも良くなってしまった。
 プレセアは膝を曲げ、猫に手を伸ばす。

「子猫かな。お母さんは一緒じゃないの?」

 美しい毛並みから飼い猫だろうか。

 ....なんて考えていると


 ボン!!


 突如猫から煙が発せられた。
 あまりにも突然のことに驚き、思わず目を閉じる。
 そして....恐る恐ると目を開ければ、そこには....。


「それで?リヒトとはどんな関係?」


「へ....?」


 プレセアの前に居たのは先程の猫では無かったのだ。

 眼の前に現れたのは、プレセアと歳がそうは変わらなさそうな青年だった。
 赤いルビーの様な瞳と絹のような白い髪。
 そして一見女の子と見間違えてしまう様な美しい中性的な顔立ちが、直ぐ目の前に迫っている。
 それからまるで押し倒されている様な体制にプレセアは顔を真赤に染めた。

「な、何なんですか貴方!!」

 そして勢いよく突き返せば、少年はニッと白い歯を見せて笑った。
 そんな少年からは、白くて長い鍵しっぽが出ていた。



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