絶対に好きにならないと決めたのに。

流雲青人

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 「槙野先輩!」

 階段を駆け下りて、やっと伊織に追いつくことが出来た。
 上がった息を整えつつ、時雨は伊織の元へと駆け寄る。

 一回戦が終わったことで次々にバレー部の人達が体育館から出てきた。
 ここに居ては邪魔になるだろうと二人は一旦外に出ることにした。

 総合体育館の前にはいくつかベンチが置かれていて二人はそこに腰を下ろした。

 「びっくりしたよ。追いかけてくるんだもん」

 「驚かせてしまいすみません! けど、最近先輩に会えてなかったから……その、何かあったのかな? と……」

 一番気になってたいた事をさり気なく聞いてみた。
 こんな事、自分なんかが聞いていいのかは分からない。けど、モヤモヤしたこの気持ちを抑え込むためには他に方法はないと思った。

 いくつかの高校の部員達が外で走り込みを始めた。
 息のあった掛け声が聞こえてくる中、伊織がふと呟く。

 「あーやってさ一生懸命になれるもの、時雨ちゃんはある?」

 伊織の視線の先にはバレー部の部員達が居た。

 「私には……無いです」

 「じゃあ同じだね」

 小さく微笑む伊織。
 その瞳はとても寂しそうだ。

 「あ、あのもしかして槙野先輩ってバレー経験者なんですか?」

 そんな何気ない質問をすれば、伊織が「えっ」と驚いたような声を零したので、時雨は外れたかな、と不安になった。しかし次の瞬間、伊織が小さく笑ったのでその不安は吹き飛んだ。

 「よく分かったね。うん、バレー経験者だよ。でもなんで分かったの?」

 「えっと、バレーの試合を観戦してる時の槙野先輩の目がまるで自分がプレーしてるみたいに真剣な眼差しだったので。私、そんな瞳でバレーに取り組んできた人を小さい頃から間近でずっと見てきたので……それで何となく」

 「時雨ちゃんの観察力凄いね。いや……俺がバレーのことを忘れきれてないのもあるか……」

 項垂れる伊織にこれ以上聞いていいのか迷っていると、目が合った。
 思わず目を逸らしてしまいそうになれば、突然頬をつつかれた。
 あまりに突然すぎることに呆然としていると、伊織が笑った。

 「時雨ちゃんって本当に面白いよね。一緒に居て飽きないよ」

 「なんですかそれ?」

 「そのままの意味だよ。なんか時雨ちゃんは他の子とは違うんだよね」

 それゃあ確かに伊織の周りをうろつく女子は大抵派手目な女子ばかりだ。だから違ってて当たり前なのだけれど、本人は分かっていないらしい。
 もしかして案外伊織は鈍いのかもしれない。

 「そーいや、前髪切ったんだ」

 「あ、はい。切ったら視界が明るくなってビックリしました」

 それに切った時はさくらや陽茉莉などに「イメチャン!?」などと驚かれたのも記憶に新しい。そこまで驚くことか? とも思ったが、前髪だけで人の印象とは大分変わるらしく、前髪を切ってからと言うものクラスメイトから声を掛けられる事が増えた気がした。
 前髪が長いと何故か落ち着く。だから切ったばかりの時は慣れずにソワソワしていたっけ。

 「さっきの質問の答え。最近、母さんの仕事が一段落したから藍の迎えは母さんがしてくれてるんだ。まぁ、そのうちまた俺がする事になるけどね」

 「そう……だったんですね」

 「もしかして会えなくて寂しかった?」

 「断じて違いますからっ!」

 「顔真っ赤だよー?」

 そう指摘され、時雨は慌てて顔を背けた。
 顔が真っ赤なのは自分でも分かった。なにせ熱がたまり、それが伝わってくるから。
 速くなる鼓動。落ち着けと何度も言い聞かせたが中々落ち着いてくれない。
 それがどんどん苦しくなっていった。

 「槙野先輩は…………いえ、なんでもないです」

 聞きたいことはまだある。
 だが時雨には聞く勇気はなかった。

 伊織は「そう」と呟く。

 二人の間には長い沈黙が流れた。
 しかし、そんな沈黙を打ち破ったのは意外にも時雨の方だった。

 「あんこが……藍ちゃんとまた公園で遊びたいって言ってました」

 スカートの裾をギュッと握り締める。

 「うん。伝えとくよ。藍、絶対に喜ぶと思う」

 優しい笑顔で微笑まれてしまえばもう何も言えなくなった。
 作り笑いばかりをして辛そうで、もしかして自分のように肩身の狭い思いをしているのかな……? と思っていた。

 けど、今の伊織は作り笑いでは無く心から笑ってくれているような気がする。
 そしてまた時雨自身も伊織と共に過ごす時間は自然と笑えている。


 ──なんだろ。こんな感情、初めてだ


 まだ名前の知らないその感情に時雨が気づくのは……。

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