7 / 45
07
しおりを挟む「時雨!」
体育館へ戻れば突然呼び止められ、時雨は足を止める。そして後ろを振り返ればそこには息を切らした蓮の姿があった。
「蓮、試合お疲れ様。それとおめでとう。次はお昼からだよね? 」
「あ、あぁ。ありがとう。てか、それより!」
漁った様子で蓮が何かを言いかけた時だった。
「この子が野崎の幼なじみか! めっちゃ可愛いじゃん!」
「和菓子屋の娘か。めっちゃ良いな……!」
突然会話を遮られたかと思えば、大きな声が真隣で聞こえビクリと肩が動いた。
蓮の後ろから次々に現れるバレー部の部員達は物珍しそうな目で時雨を凝視している。
こうして男子に注目されるのは慣れていない時雨は焦りと不安がふつふつと湧き上がってきていた。
「お前ら、怖がってるからやめろ」
そんな時雨にいち早く気づいた蓮が言う。さすが幼なじみと言うべきだろうか。しかし、そんなのお構い無しに彼等はニコニコと微笑みながら時雨に声を掛ける。
「ねぇ、バレー部のマネージャしない? 可愛い子大歓迎なんだけど!」
冗談で言われているのは分かっている。だが、冗談でも「可愛い」なんて言われれば恥ずかしくて思わず目を逸らす。だが、直ぐに横からまた違う人物に声を掛けられてしまう。目を逸らす度に「恥ずかしがり屋?」などと聞かれ、更に頭が困惑する。
今すぐここから去りたい。
気づけばその一心だった。
「もうこいつらは無視していいから」
「わ、分かった」
時雨は大きく頷く。
とは言っても周りで騒ぐ彼らの存在を直ぐに忘れることなど出来ない。取り敢えず、蓮の声だけに意識を集中させる。
ポリポリと頬を掻きながらそっぽを向き蓮が言った。
「あの、さ。さっき一緒に居た男誰?」
突然の質問で驚いたが相手は蓮だ。
隠す必要は無いと判断し、正直に答えることにした。
「槙野伊織って言う人。高校の先輩だよ」
「槙野伊織って……あのチャラチャラした?」
「うん。その人」
蓮もまた時雨と同じ認識であった。
眉間にシワを寄せ、黙り込んでしまった蓮の後ろから部員の一人がひょこっと顔を出し驚いた様子で言った。確か彼はピンチサーバーで試合に出ていたっけ。
「槙野さんって、あの槙野さん!? 会いたかったなー!」
「は? 何でだよ?」
盛り上がるその人に対し、不機嫌そうな声で返す蓮だったが彼は気にした様子は一つも見せずに興奮を隠せない様子で話し出す。瞳はキラキラと輝いており、それは玩具を見た時の子供のように無邪気でもあった。
「あの人がバレーしてる所、一回だけ見たことあるんだけどさ。ほんと、凄かったんだよ! けど、バレー部の部員じゃないらしくてさ。ずっと気になってたんだよ。何であんなに上手なのにバレー部に入ってないのかが! あれは絶対に経験者だよ! 才能が勿体無い!」
「お前が言うくらいだから余程上手いんだろうな」
「野崎も見たら絶対に驚くって! それに先輩達が槙野先輩のこと探してたんだ。えっと岸田さん、だよね? 槙野先輩と一緒に歩いてる所を偶然見かけたんだけど、槙野先輩何か言ってなかった?」
「いえ、特に何も」
「……ていうかさ。何でその槙野先輩と知り合いなんだよ? 時雨とは明らかにキャラ違うじゃん」
ごもっともな意見に思わず頷きそうになってしまった。
けど、特に隠す理由は無いので正直に話す事にした。
「槙野先輩とはその知り合いなの。それで話してただけだよ」
「そっか」
一瞬蓮の瞳が明るくなったような気がした。
伊織との秘密は言っていない。
約束したから。
何故伊織がバレーを辞めたのかは分からない。
けど、伊織はまだバレーへの未練があるようだった。
試合のとき、選手の動きをじっくりと見つめるあの真剣な瞳を時雨は忘れられなかった。
今はまだ話してくれなくてもいい。
けどいつか話して欲しい。自分ならばきっと相談相手になれるような気がするから。
いや、気がするんじゃない。
きっと話して欲しいのだと思う。
一人で抱え込むのは本当に辛い。
それは時雨もよく知っていることだった。
熱の篭った応援と声が響きだし、審判の笛の音が鳴った。
どうやら第二試合目が始まったようだ。
〇◇〇◇〇◇〇◇
「惜しかったけど、本当に良い試合だったなー!」
「うん。やっぱり高校のバレーは迫力が違ったね」
一位決定戦にてライバル校に負けてしまい、惜しくも二位という結果に終わってしまった。その為、三年生はこの試合を気に引退となった。
最後のギャラリーへの「ありがとうございました」という言葉は熱く、胸の奥にまで響いた。
後から蓮に差し入れを持っていこう。とは言ってもやはり和菓子になってしまうのだが、そこらへんは見逃して欲しい。なにせ時雨は和菓子屋の娘なのだから。
「しぐねぇってさ、蓮のことどう思ってるの?」
帰り道、突然そんなことをさくらから聞かれた。
「どうって……バレー馬鹿?」
正直に答えれば、さくらがムッと頬を膨らませる。
「そういう意味じゃなくて、蓮のこと恋愛対象として見てるの? ってこと!」
「れ、恋愛対象!? それは無いかな。というか、私には恋愛なんて早いよ」
恋愛だなんて自分には関係ないものだとずっと思ってきた。
それに蓮は時雨にとって幼なじみで、唯一の男友達だと思っている。恋愛対象になんて見たことがなかった。
横に首を振る時雨に心底安堵したのかさくらは「良かった……」と言葉を零した。しかし、鈍感な時雨はさくらの思いに気付くことは無かった。だから「何が良かったの?」と尋ねれば虚ろな目で見られてしまった。
「で、しぐねぇ。あのイケメンとはどんな関係なの?」
「どんな関係も何も……ただの先輩だけど」
「嘘だ! どう見てもジャンルが違い過ぎる!」
さくらの言う通りだと思う。
伊織は人気者。それに比べ時雨は地味子である。
住む世界が違うことぐらい時雨だって分かっている。
けど……。
「確かに私と先輩は違うけど。少しだけだけど似てるところもあるんだよ」
ふと浮かんだのはあのぎこちない伊織の作り笑顔。
あの笑顔を初めて見た時から”もしかしたら”と思っていた。
「さて、家に帰ったらお手伝い頑張んなきゃ」
力強く拳を握りしめ強気な時雨に対し、さくらは心底嫌そうな顔をしたいたが敢えて気付かないふりをした。
13
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします
ほーみ
恋愛
その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。
そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。
冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。
誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。
それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
だが、彼の言葉は、決定的だった。
「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」
マジメにやってよ!王子様
猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。
エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。
生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。
その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。
ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。
「私は王子のサンドバッグ」
のエリックとローズの別世界バージョン。
登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる