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しおりを挟む文化祭の準備のため、放課後は居残りで衣装についての話し合いを行うことになった。そして話し合いの結果、童話に出てくる人物の服装をすることとなった。
調理班、接客担当班も決められた。
因みに、時雨は接客担当であった。
決して時雨自ら立候補した訳では無い。
くじ引きの結果、そうなってしまったのだ。
大きなため息を零し、机に突っ伏す時雨の表情は曇っていた。
時雨は午前中の接客を担当することになったのだが、お客さんが多いであろう午後の担当にならなかっただけもしかしたらマシなのかもしれない。
そう自分に言い聞かせ現実を見ようと試みる。
「……岸田。ちゃんと真面目に衣装考えて」
机に突っ伏す時雨を見て共に衣装についての話し合いをしていた理恵が不満たっぷりの声で時雨に声を掛けた。
「ご、ごめん……」
「謝らなくていい。それよりも残りの衣装班の奴ら何処に行ったの?」
「多分だけど別の班にでも顔出してるんじゃないかな?」
「……まぁ、いいや。私、一応どんな衣装作るか考えたんだけどさ」
「本当!? 見せてもらっていいかな!?」
何故か瞳をキラキラと輝かせる時雨に、理恵は数秒遅れて頷いた。
ノートを受け取りページを捲ると、そこには洋服のデザインが描かれていた。しかも凄く上手だったし、何より細かい部分まで描かれており、時雨は思わず「すごい……」と言葉をもらした。
素直に褒められせいか理恵の頬が少し赤くなる。
「理恵ちゃんって絵得意なの?」
「…………おばあちゃん家が仕立て屋で昔から絵とか描いてるから」
「そうだったんだ! 知らなかったよ。だからお裁縫も得意なんだね」
「そういうこと。正直、岸田以外の衣装班は頼りにできない。どんな衣装がいいかの案だけ貰ったら別の班に移ってもらう」
「え、でも……」
それだと負担が大きいだろうし、皆でやった方がいい気がした。出来ないところは教えあえばいいと思うし、その方が効率がいいのでは?
そう思ったけれど、時雨は口を閉じ「うん」と笑って頷けば理恵は小さなため息を吐く。しかし、そんなため息の存在を時雨は知る由もなかった。
〇◇〇◇〇◇〇◇
衣装班の話し合いの結果、制作する衣装は全部で十四着に決まった。
男子用七着、女子用七着。そして着回しである。
「布もそれなりに高いよね」
「そ。だから、実際に売ってある物と比較しながら決めないといけない。手間がかかりそうなやつから順番に作っていきたい。岸田は裁縫どれぐらい出来る? てか、ミシン使える?」
「トートバックとかよく作るよ? あと、ミシンは使えるよ」
「分かった。じゃあ手分けして作るってことでいい?」
「あ、うん、分かった。頑張ろうね」
少し間が空いてしまっが時雨は頷いてみせた。
てっきり一緒に作るとばかり思っていたので驚きのあまり反応が遅れてしまったのだ。
時雨は理恵から衣装のデザインと材料が細かく書き込まれた紙や注意書き、それと洋服を作る上での型紙までも貰った。洋服作りはしたことがなかったので、嬉しい限りだった。
もし分からない所があったら直ぐに質問できるようにと理恵と連絡先を交換した。
「じゃあ、理恵ちゃん。また明日ね」
「…………うん」
まさか返事が返ってくるとは思ってもいなかったのでまたまた驚く時雨。けれど、これはもしや少しは仲良くなれたということだろうか?
時雨の頬が思わず緩む。
ずっと嫌われていると思っていた相手だったため、ついつい緩んでしまったのだ。
スキップ気味の足取りで帰っていく時雨の後ろ姿を見つめ、理恵は本日二回目のため息を吐いた。
「ちゃんと自分の意見は言いなさいよ、馬鹿」
そう呟かれた言葉は時雨の耳には届かないまま静けさの中に溶けていった。
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