絶対に好きにならないと決めたのに。

流雲青人

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 その日の放課後、急いで荷物を片付け時雨は下駄箱へと向かった。
 そうすれば既にそこには伊織の姿があり、時雨は慌ててお辞儀した。

 「槙野先輩。お待たせしてすいません」

 「うんうん。俺も今来たところだから。じゃあ帰ろっか」

 なんてまるで恋人のような下りに少しドキドキしつつ時雨は伊織と肩を並べ校門を出た。

 「あの、最近どうですか?」

 「ん? あぁ……家族皆楽しく過ごせてるし、俺も楽しいんだ。母さんも父さんも仕事が落ち着いてきて最近はよく家にいることが多いから父さんには勉強教わったりしてるよ」

 弾んだような声で楽しそうに話す伊織の横顔を見つめた。

 「時雨ちゃん」

 「は、はい」

 突然名前を呼ばれ首を傾げれば伊織が言った。

 「昼休みの続き。聞かせてもらっていい?」

 「……はい」

 小さく頷いたあと、時雨は伊織の腕を引き、保育園へと続く道に曲がる。
 この道の人通りはほとんどない。
 思いを伝えるにはもってこいな場所だと思う。

 時雨は伊織の腕を離し、向き合う。

 今日こそは思いを伝えよう。
 拳を握りしめ、鼓動が速くなる心臓を何とか落ち着かせようと深呼吸をしてみる。しかし心臓の鼓動は速くなるばかりだった。



 ──告白ってここまで緊張するものなんだ……



 初めての告白。
 振られる未来など目に見えている。けど、伝えたい。


 「槙野先輩、私……!」

 「やっぱ無理だ!」

 時雨の声を遮り伊織が大声でそう言った。
 あまりにも突然すぎたので驚く時雨に対し、伊織はどこか余裕が無さそうな様子だった。

 一体どうしたのだろう? と不思議に思った矢先、時雨のスマホが鳴った。
 伊織から「見ていいよ」と言われたので、直ぐにスマホを確認する。
 画面にはさくらの名前が表示されていた。
 さくらからの連絡なんて珍しいなと思いつつ送られてきたメッセージを読む。内容は「爺ちゃんがうるさい! 助けて!」というもので、また喧嘩しているのかと呆れてしまった。

 「す、すいません。直ぐに返事するんで!」

 そう言って時雨は急いで返事を打とうとするが、その手は伊織によって止められた。

 「槙野先輩?」

 「……相手、もしかして時雨ちゃんの好きな人?」

 「え?」

 思いがけない問いに間抜けな声が時雨の口から零れた。
 まさかそんな事聞かれるとは思ってもいなかったし、何より時雨の好きな人は伊織なのだ。

 時雨はスマホの画面を伊織へと向けた。

 「妹からです。祖父とまた喧嘩したみたいでそれで連絡がきたので。だから……好きな人からではありません」

 「あ、妹さんからか。ご、ごめん、てっきり時雨ちゃんの好きな人からの連絡かと思って焦った」

 「え?」

 「……俺、時雨ちゃんのことが好きなんだ。だから焦ってた。時雨ちゃんには好きな人が居るからその人のものになるんじゃないかって」

 伊織はそう言うと、とても優しい笑顔で笑った。
 大好きな人からの告白とはここまでも嬉しいものなのだと初めて時雨は知った。そして次の瞬間、時雨の瞳からは大粒の涙がこぼれ始めた。何度も何度も拭っても溢れ出てくる涙。

 「へ、平気です。ただ驚いただけなんです。だって……私も槙野先輩が好きだから」

 泣きじゃくりながら時雨は何とか自分の思いを伝えた。
 思ってもいなかった予想外の未来の訪れにまだ時雨の頭の中は混乱している。だが、これが夢では無いことを祈ることしか出来なかった。

 「俺、初めて人を好きになったのが時雨ちゃんで良かった。これから、一緒にいてくれますか?」

 まるでプロポーズのような言葉に胸が高鳴るのが分かった。

 「断るわけないじゃないですか……」

 「そっか。ありがとう、時雨ちゃん」

 ふふ、と笑う時雨に伊織も笑った。
 こんな日が来るなんて思ってもいなかった。

 苦手からいい人、気になる人、好きな人へと変わってきた伊織の存在。
 手を伸ばせば届く距離。だけど今はあまり欲張ってはいけない気がして手を引っ込めた。

 「さて、保育園に行こっか」

 「はい」

 伊織の隣に並び、少しスキップしそうになるのを必死で堪え保育園へと向かう。あれだけ隣に並ぶのを拒んでいたのが今では嘘のようだ。それにこんなに心地の良い場所は他には知らない。




 
                                                                                   終わり
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