25 / 44
25
しおりを挟む
出てきた時とはまったく逆のすっきりした気持ちで学園に戻った。
委員長にこの気持ちを伝えるかどうかはまだわからない。でもどちらにせよ何となく、あの日から前に進めたような気がして心が軽かった。
自然といつもの図書室に足が向く。廊下を進むと、気分の良さをぶち壊す人物が前から歩いてきた。生徒会長だ。
元来た道を戻ろうかと思ったが、ここで踵を返すとあまりにもあからさますぎるかと思い直し、せめてもと俯き加減で廊下の端に寄る。
距離が近づいてくるとどうしても体が強張る。足早にやりすごそうとすると、俺の行く手を阻むように目の前に人が立ちはだかった。誰が、なんて言うまでもない。間髪入れずに腕を強い力で掴まれる。ゾワッと鳥肌が立った。
「おい、ちょっとついてこい」
そのままどこかへ連れて行こうとするそいつに抵抗するもまるで歯が立たない。
「暴れるなよ、別に何もしねーよ」
そんなこと言われたって信用出来ない。声を出して助けを呼ぼうにも、声が出ない俺には助けを求めることすらできない。
そのまま俺は生徒会長にずるずる廊下を引きずられた。
連れて来られたのは廊下の端にある空き教室。こんなところに普段人なんか通らない。連れ込まれたら終わりだと思って必死に踏ん張ってみるもダメだった。そのまま教室内へ放り込まれる。振り返って逃げ道を探すも、すぐに生徒会長も同じ教室に入ってきて、後ろ手に扉を閉めた。詰みだ。もう逃げられない。恐怖が込み上げてきて、でも負けるものかとキッと睨みつける。そんな俺に目の前の奴はため息をついて、手をひらひらと振った。
「だから何もしねーって。そんな顔すんなよ。俺が悪者みたいじゃねーか」
悪者みたい、じゃなくて悪者そのものだとよっぽど言ってやりたかったが、そんなことを打ち込んでいる余裕はなかった。
「おい、後ろだよ、後ろ。そいつを落ち着かせてやってくれ」
……は?慌てて後ろを振り返ると、教室の隅に蹲る小柄な人影があった。さっきは必死すぎて目に入らなかったようだ。慌てて駆け寄るとその人はビクッと体を揺らした。乱れた服装、掴まれたのか打ち付けたのか腕には赤い跡がついている。何があったのか一瞬で見て取れるその姿にグッと息を詰めた。刺激しないようにそっと傍に屈みこんで、ゆっくりと背中に手を伸ばす。こんな時、声が出ないことを悔しく思う。大丈夫だと声をかけてあげることが出来ない。せめてもと背中を擦っていると、荒く忙しなかった呼吸がだんだん落ち着いてきてほっとする。真っ青だった頬にも少し色が戻ってきた。見覚えのある状態だった。恐らくSub Dropになりかけていたのだろう。そこまで思い当たってはっとした。この人はなぜこんな状態になった…?
『お前この人に何をした』
近くの机に腰掛けて、こちらを眺めていた生徒会長に画面を突きつける。怒りが込み上げてきて、手が震えそうだった。
「失礼だな。何にもしてねーよ。逆だ、逆。俺はそいつを助けたんだよ」
にわかには信じ難くて、疑いの目を向けてしまう。生徒会長はそんな俺を見てチッと舌打ちをした。
「助けたはいいものの、Domの俺が近づくと怯えるもんだからノーマルかSubを探してたらお前がいたんだよ。だいたい俺がやったら他のやつなんか呼んでこねーだろ」
事実か確認したくて、チラッと隣を見ると、随分落ち着いてきたその人は微かに頷いた。
「…ほんとだよ、生徒会長に助けてもらったんだ。…だけど勝手に体が怖がっちゃって。来てくれてありがとね」
細い声でそう言って弱々しく笑うその人に、少し顔が歪むのがわかった。とはいえ怯えはなくなったようで、無理やり言わされている様子でもないため、生徒会長の話が事実なのだということが察せられた。
「風紀にも連絡済みで、加害者の確保の報告も来てる。話し合いになるだろうが、どうだ?いけるか?」
「はい、ありがとうございます」
その返事を聞いて、生徒会長がどこかに電話をかけ始める。勝手に進む事態に俺だけが付いていけない。
それからすぐに扉があいて、数人の風紀委員と委員長が入ってきた。Subの人を支えるようにして教室から連れ出していく。委員長は俺を目に止めると、少し驚いたようだったが、すぐに声をかけてくれた。
「木南?なんでここに?」
「俺がこいつを落ち着かせるのに連れてきたんだ」
「お前また強引なことしたんじゃないだろうな?木南、すまないな。びっくりしたろ」
落ち着いた様子の委員長にそう言われて、控えめに首を横に振る。
「こいつには言って聞かせとくから」
「揃いも揃って失礼なやつらだな。お前のお気に入りを勝手に借りたから怒ってんのか?しゃーねーだろ、そこにいたんだから」
「そういうとこだぞ、お前。……木南、明日いつものとこに来れるか?」
気安いやり取りに驚きつつ、最後の問いに頷く。それを見て委員長は軽く口角をあげた。そして生徒会長と連れ立って教室を出ていく。振り返って「お前も気をつけて戻れよ」と言い残して去っていってしまった。俺は突っ立ってその姿をぼんやりと見送った。誘ってくれたということは、詳しいことを明日話してくれるということだろうか。何もわからないまま嵐のように去っていった事態に俺は困惑するしかなかった。
委員長にこの気持ちを伝えるかどうかはまだわからない。でもどちらにせよ何となく、あの日から前に進めたような気がして心が軽かった。
自然といつもの図書室に足が向く。廊下を進むと、気分の良さをぶち壊す人物が前から歩いてきた。生徒会長だ。
元来た道を戻ろうかと思ったが、ここで踵を返すとあまりにもあからさますぎるかと思い直し、せめてもと俯き加減で廊下の端に寄る。
距離が近づいてくるとどうしても体が強張る。足早にやりすごそうとすると、俺の行く手を阻むように目の前に人が立ちはだかった。誰が、なんて言うまでもない。間髪入れずに腕を強い力で掴まれる。ゾワッと鳥肌が立った。
「おい、ちょっとついてこい」
そのままどこかへ連れて行こうとするそいつに抵抗するもまるで歯が立たない。
「暴れるなよ、別に何もしねーよ」
そんなこと言われたって信用出来ない。声を出して助けを呼ぼうにも、声が出ない俺には助けを求めることすらできない。
そのまま俺は生徒会長にずるずる廊下を引きずられた。
連れて来られたのは廊下の端にある空き教室。こんなところに普段人なんか通らない。連れ込まれたら終わりだと思って必死に踏ん張ってみるもダメだった。そのまま教室内へ放り込まれる。振り返って逃げ道を探すも、すぐに生徒会長も同じ教室に入ってきて、後ろ手に扉を閉めた。詰みだ。もう逃げられない。恐怖が込み上げてきて、でも負けるものかとキッと睨みつける。そんな俺に目の前の奴はため息をついて、手をひらひらと振った。
「だから何もしねーって。そんな顔すんなよ。俺が悪者みたいじゃねーか」
悪者みたい、じゃなくて悪者そのものだとよっぽど言ってやりたかったが、そんなことを打ち込んでいる余裕はなかった。
「おい、後ろだよ、後ろ。そいつを落ち着かせてやってくれ」
……は?慌てて後ろを振り返ると、教室の隅に蹲る小柄な人影があった。さっきは必死すぎて目に入らなかったようだ。慌てて駆け寄るとその人はビクッと体を揺らした。乱れた服装、掴まれたのか打ち付けたのか腕には赤い跡がついている。何があったのか一瞬で見て取れるその姿にグッと息を詰めた。刺激しないようにそっと傍に屈みこんで、ゆっくりと背中に手を伸ばす。こんな時、声が出ないことを悔しく思う。大丈夫だと声をかけてあげることが出来ない。せめてもと背中を擦っていると、荒く忙しなかった呼吸がだんだん落ち着いてきてほっとする。真っ青だった頬にも少し色が戻ってきた。見覚えのある状態だった。恐らくSub Dropになりかけていたのだろう。そこまで思い当たってはっとした。この人はなぜこんな状態になった…?
『お前この人に何をした』
近くの机に腰掛けて、こちらを眺めていた生徒会長に画面を突きつける。怒りが込み上げてきて、手が震えそうだった。
「失礼だな。何にもしてねーよ。逆だ、逆。俺はそいつを助けたんだよ」
にわかには信じ難くて、疑いの目を向けてしまう。生徒会長はそんな俺を見てチッと舌打ちをした。
「助けたはいいものの、Domの俺が近づくと怯えるもんだからノーマルかSubを探してたらお前がいたんだよ。だいたい俺がやったら他のやつなんか呼んでこねーだろ」
事実か確認したくて、チラッと隣を見ると、随分落ち着いてきたその人は微かに頷いた。
「…ほんとだよ、生徒会長に助けてもらったんだ。…だけど勝手に体が怖がっちゃって。来てくれてありがとね」
細い声でそう言って弱々しく笑うその人に、少し顔が歪むのがわかった。とはいえ怯えはなくなったようで、無理やり言わされている様子でもないため、生徒会長の話が事実なのだということが察せられた。
「風紀にも連絡済みで、加害者の確保の報告も来てる。話し合いになるだろうが、どうだ?いけるか?」
「はい、ありがとうございます」
その返事を聞いて、生徒会長がどこかに電話をかけ始める。勝手に進む事態に俺だけが付いていけない。
それからすぐに扉があいて、数人の風紀委員と委員長が入ってきた。Subの人を支えるようにして教室から連れ出していく。委員長は俺を目に止めると、少し驚いたようだったが、すぐに声をかけてくれた。
「木南?なんでここに?」
「俺がこいつを落ち着かせるのに連れてきたんだ」
「お前また強引なことしたんじゃないだろうな?木南、すまないな。びっくりしたろ」
落ち着いた様子の委員長にそう言われて、控えめに首を横に振る。
「こいつには言って聞かせとくから」
「揃いも揃って失礼なやつらだな。お前のお気に入りを勝手に借りたから怒ってんのか?しゃーねーだろ、そこにいたんだから」
「そういうとこだぞ、お前。……木南、明日いつものとこに来れるか?」
気安いやり取りに驚きつつ、最後の問いに頷く。それを見て委員長は軽く口角をあげた。そして生徒会長と連れ立って教室を出ていく。振り返って「お前も気をつけて戻れよ」と言い残して去っていってしまった。俺は突っ立ってその姿をぼんやりと見送った。誘ってくれたということは、詳しいことを明日話してくれるということだろうか。何もわからないまま嵐のように去っていった事態に俺は困惑するしかなかった。
34
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】君の声しか聴こえない
二久アカミ
BL
伊山理央(24)はネット配信などを主にしている音楽配信コンポーザー。
引きこもりがちな理央だが、ある日、頼まれたライブにギタリストとして出演した後、トラブルに巻き込まれ、気づけばラブホテルで男と二人で眠っていた。
一緒にいた男は人気バンドAVのボーカル安達朋也。二人はとあることからその後も交流を持ち、お互いの音楽性と人間性、そしてDom/subという第二の性で惹かれ合い、次第に距離を詰めていく……。
引きこもりコンプレックス持ちで人に接するのが苦手な天才が、自分とは全く別の光のような存在とともに自分を認めていくBLです。
※2022年6月 Kindleに移行しました。
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
愛されSubは尽くしたい
リミル
BL
【Dom/Subユニバース】
玩具メーカーの取締役開発部長Dom(37)×元子役の大学生Sub(20)
かつて天才子役として名を馳せていた天使 汐は、収録中にSub drop(サブドロップ)に陥り、生死の境をさまよう。
不安定になっていた汐を救ったのは、スーツ姿の男だった。
素性や名前も知らない。でも、優しく撫でて「いい子」だと言ってくれた記憶は残っている。
父親の紹介で、自身の欲求を満たしてくれるDomを頼るものの、誰も彼も汐をひたすらに甘やかしてくる。こんなにも尽くしたい気持ちがあるのに。
ある夜、通っているサロンで不正にCommand(コマンド)を使われ、心身ともにダメージを負った汐を助けたのは、年上の男だ。
それは偶然にも15年前、瀕死の汐を救った相手──深見 誠吾だった。
運命的な出会いに、「恋人にもパートナーにもなって欲しい」と求めるも、深見にきっぱりと断られてしまい──!?
一筋縄ではいかない17才差の、再会から始まるラブ!
Illust » 41x様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる