ラブミーノイジー

せんりお

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出てきた時とはまったく逆のすっきりした気持ちで学園に戻った。
委員長にこの気持ちを伝えるかどうかはまだわからない。でもどちらにせよ何となく、あの日から前に進めたような気がして心が軽かった。
自然といつもの図書室に足が向く。廊下を進むと、気分の良さをぶち壊す人物が前から歩いてきた。生徒会長だ。
元来た道を戻ろうかと思ったが、ここで踵を返すとあまりにもあからさますぎるかと思い直し、せめてもと俯き加減で廊下の端に寄る。
距離が近づいてくるとどうしても体が強張る。足早にやりすごそうとすると、俺の行く手を阻むように目の前に人が立ちはだかった。誰が、なんて言うまでもない。間髪入れずに腕を強い力で掴まれる。ゾワッと鳥肌が立った。

「おい、ちょっとついてこい」

そのままどこかへ連れて行こうとするそいつに抵抗するもまるで歯が立たない。

「暴れるなよ、別に何もしねーよ」

そんなこと言われたって信用出来ない。声を出して助けを呼ぼうにも、声が出ない俺には助けを求めることすらできない。
そのまま俺は生徒会長にずるずる廊下を引きずられた。

連れて来られたのは廊下の端にある空き教室。こんなところに普段人なんか通らない。連れ込まれたら終わりだと思って必死に踏ん張ってみるもダメだった。そのまま教室内へ放り込まれる。振り返って逃げ道を探すも、すぐに生徒会長も同じ教室に入ってきて、後ろ手に扉を閉めた。詰みだ。もう逃げられない。恐怖が込み上げてきて、でも負けるものかとキッと睨みつける。そんな俺に目の前の奴はため息をついて、手をひらひらと振った。

「だから何もしねーって。そんな顔すんなよ。俺が悪者みたいじゃねーか」

悪者みたい、じゃなくて悪者そのものだとよっぽど言ってやりたかったが、そんなことを打ち込んでいる余裕はなかった。

「おい、後ろだよ、後ろ。そいつを落ち着かせてやってくれ」

……は?慌てて後ろを振り返ると、教室の隅に蹲る小柄な人影があった。さっきは必死すぎて目に入らなかったようだ。慌てて駆け寄るとその人はビクッと体を揺らした。乱れた服装、掴まれたのか打ち付けたのか腕には赤い跡がついている。何があったのか一瞬で見て取れるその姿にグッと息を詰めた。刺激しないようにそっと傍に屈みこんで、ゆっくりと背中に手を伸ばす。こんな時、声が出ないことを悔しく思う。大丈夫だと声をかけてあげることが出来ない。せめてもと背中を擦っていると、荒く忙しなかった呼吸がだんだん落ち着いてきてほっとする。真っ青だった頬にも少し色が戻ってきた。見覚えのある状態だった。恐らくSub Dropになりかけていたのだろう。そこまで思い当たってはっとした。この人はなぜこんな状態になった…?

『お前この人に何をした』

近くの机に腰掛けて、こちらを眺めていた生徒会長に画面を突きつける。怒りが込み上げてきて、手が震えそうだった。

「失礼だな。何にもしてねーよ。逆だ、逆。俺はそいつを助けたんだよ」

にわかには信じ難くて、疑いの目を向けてしまう。生徒会長はそんな俺を見てチッと舌打ちをした。

「助けたはいいものの、Domの俺が近づくと怯えるもんだからノーマルかSubを探してたらお前がいたんだよ。だいたい俺がやったら他のやつなんか呼んでこねーだろ」

事実か確認したくて、チラッと隣を見ると、随分落ち着いてきたその人は微かに頷いた。

「…ほんとだよ、生徒会長に助けてもらったんだ。…だけど勝手に体が怖がっちゃって。来てくれてありがとね」

細い声でそう言って弱々しく笑うその人に、少し顔が歪むのがわかった。とはいえ怯えはなくなったようで、無理やり言わされている様子でもないため、生徒会長の話が事実なのだということが察せられた。

「風紀にも連絡済みで、加害者の確保の報告も来てる。話し合いになるだろうが、どうだ?いけるか?」

「はい、ありがとうございます」

その返事を聞いて、生徒会長がどこかに電話をかけ始める。勝手に進む事態に俺だけが付いていけない。
それからすぐに扉があいて、数人の風紀委員と委員長が入ってきた。Subの人を支えるようにして教室から連れ出していく。委員長は俺を目に止めると、少し驚いたようだったが、すぐに声をかけてくれた。

「木南?なんでここに?」

「俺がこいつを落ち着かせるのに連れてきたんだ」

「お前また強引なことしたんじゃないだろうな?木南、すまないな。びっくりしたろ」

落ち着いた様子の委員長にそう言われて、控えめに首を横に振る。

「こいつには言って聞かせとくから」

「揃いも揃って失礼なやつらだな。お前のお気に入りを勝手に借りたから怒ってんのか?しゃーねーだろ、そこにいたんだから」

「そういうとこだぞ、お前。……木南、明日いつものとこに来れるか?」

気安いやり取りに驚きつつ、最後の問いに頷く。それを見て委員長は軽く口角をあげた。そして生徒会長と連れ立って教室を出ていく。振り返って「お前も気をつけて戻れよ」と言い残して去っていってしまった。俺は突っ立ってその姿をぼんやりと見送った。誘ってくれたということは、詳しいことを明日話してくれるということだろうか。何もわからないまま嵐のように去っていった事態に俺は困惑するしかなかった。


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